カバレ地域中核病院の視察を通して

2022年6月16日

長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科
増澤真麗

JICAはウガンダで、技術協力プロジェクト「5S-CQI-TQMを通じた患者安全構築プロジェクト」を実施しています。今回事業対象病院の一つ、カバレ地域中核病院をプロジェクト専門家チームと訪問し、病院の5S-KAIZEN(以降、「5S」)・患者安全への取り組みならびに専門家チームの活動の様子を視察しました。

病院を訪問して印象的だったのは、「5Sの徹底と継続」です。病院の廊下に置かれたストレッチャーの場所から診療棟の棚の中まで、すべての物品保管の位置が決まっておりラベリングされていたことには非常に驚きました。一般的に、途上国の医療現場では業務環境の整理整頓がされず、業務を効率的に遂行できないことで、患者さんに質の高い医療サービスが提供されない現状があります。実際に、病院職員が医療廃棄物を分別せずに捨てている様子や、整理整頓されずに埃を被ったカルテや書類など、私自身も途上国の他の医療機関で見かける事がありました。また5Sの普及では、病院職員個人に一度整理整頓の習慣が身に付いても人事異動などにより組織として習慣が持続しないことが課題となっています。一方、カバレ地域中核病院では現在の病院長が赴任して以降、「使った物は元の位置に戻す」という簡単ながら継続が難しい習慣が徹底され、5Sに持続的に取り組む事ができています。

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5S-KAIZEN活動により常に整理整頓された薬剤棚

今回の訪問を通して、病院職員の5Sに対する高いモチベーションも強く印象に残りました。カバレ地域中核病院では、5S専属の担当者を筆頭に5Sを推進する委員会が立ち上げられ、新たな職員に対する5Sトレーニング、院内の各部署における活動の実施状況確認が定期的に行われています。また5Sが適切に行われている診療部門を表彰し、組織内での5Sの意識を高めるような工夫も取り入れています。プロジェクト専門家のサポートがなくても、組織内で課題を見つけ解決していこうという意欲が非常に感じられました。

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患者情報の記録部門(5S-KAIZENの最優秀部門として院内表彰されている)

院内の各部署を視察した際、5S委員会のメンバー以外の職員が当事者意識を持ち取り組んでいる姿が見られました。実際に外来部門の職員は、患者さんの待ち時間の短縮にも5Sが効果的であったと話しており、5Sを取り入れたことで医療サービスの質の向上につながり、最終的には患者さんへと裨益していることが感じられる事例でした。カバレ地域中核病院は、「保健インフラマネジメントを通じた保健サービス強化プロジェクト フェーズ2」にてモデル病院(Center of Excellence;COE) として選出されています。COEの認定を受けることで各職員がモチベーションを高め、誇りを持ち仕事をしている印象を受けました。

自分たちの力で5S活動を定着化させているカバレ地域中核病院は、5Sのロールモデルとして今後も国内の地域中核病院を牽引し、そして患者安全アプローチの導入においてもモデル病院になりえるキャパシティを擁すると感じました。

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5S-CQI-TQM専属の担当者が専門家に対し5Sと患者安全活動の実施状況を説明