所長あいさつ

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先日休暇で訪れたウィーンで、ジュゼッペ・ヴェルディの「アイーダ」を観る機会がありました。1869年に開通したスエズ運河の開通記念にエジプト太守より作曲を委嘱されたとされるこのオペラは、ファラオ期エジプトとエチオピアの両国が敵対するなか、身分をやつしてエジプト王女の侍女として仕えるエチオピア王女アイーダとエジプト軍総司令官の青年が恋仲になったことにより訪れる悲劇を数々の名曲とともにストーリーが進みます。
スエズ運河開通というエジプト一大祝賀イベント向けであることもあり、ナイル川の賜物と言われる肥沃な土地と古代文明を有するエジプトの王の鷹揚さに対し、エチオピア王が戦好きな粗暴な性格と対比的なキャラクタが示されます。しかし何故アイーダの父親であるエチオピア王が2回までも執拗にエジプトに戦いを挑んだのか、劇中ではその理由は明らかにされていません。しかし、紀元前1100年代に既に両国は相争う関係であったことを示しています。

そして今日のエチオピアは10%前後の高い経済成長率を記録しながらも、増え続ける人口のための食糧増産と雇用機会創出という課題を背負い、エチオピアを水源とする青ナイル川上流にアフリカ大陸最大となる水力発電所建設を行い、国家開発目標である国の工業化を強力に推し進めようとしています。
ここで待ったをかけたのがエジプトです。ナイル川上流で巨大ダムに貯水されると下流にあたるエジプト国民の飲み水や農業用地に水が行き渡らなくなると反発を強め、首脳会談を含む両国の協議は平行線をたどり、妥協案が見いだせずにいます。
エチオピアはダム建設にあたり他国の干渉を受けないよう援助は一切受けず、国家公務員給与1割カット、国債や宝くじで建設資金をねん出し、さらに他国に移住したエチオピア人コミュニティが送金で支えています。
「戦争の世紀」といわれた20世紀が終わっても、21世紀は世界中で水を巡る争いが顕在化すると言われてきたことをナイル川流域で示しています。救いはエジプトが同国の独占的な取水権を認めた旧宗主国との1929年協定に固執せず、エチオピアも国家的プロジェクトであることを理由に工事を強行せず、隣国スーダンを含めた当事者たちで安全保障の観点も含めて幅広く協議しようという姿勢を見せていることです。戦争の世紀で得た教訓を受けて、ファラオ期のように武力を背景にした示威行動ではなく、話し合いによる外交努力を私たちも支援を行っていく所存です。

エチオピア国内でアイーダの名を冠した会社や商店をそこここで観ますが、アイーダという名前の女性にはまだお会いしたことはありません。

2018年9月 山田健