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【実施報告】世界のリアルとつながる授業実践「2022年度国際理解教育/開発教育指導者研修 後半研修」

2023年3月17日

2月4日(土曜日)、5日(日曜日)に、2022年度国際理解教育/開発教育指導者研修をJICA市ヶ谷で実施しました。本研修は、参加者の教員が世界と地域の課題・多様性を取り上げ、指導案作成・授業実践の更なるレベルアップに取組み、また、研修後は国際理解教育/開発教育の推進のリーダーとして取組んでいただくことを目指しています。

今回は、集大成として本研修の後半研修を実施しました。1日目は、12名の先生が授業実践内容の発表と振り返りを実施。2日目第1部の公開セミナーでは俳優・タレントのサヘル・ローズ氏がご登壇、第2部ではワークショップにて、2名の先生が代表して授業実践を発表し、学びを参加者同士で共有しました。研修の様子を、JICAインターンの大谷と宮崎がレポートします!

【Day1】授業実践の共有から新たな気づきの獲得を

森先生による授業実践の共有

「児童・生徒たちが世界の課題を“ジブンゴト”に捉えるためにはどんな授業が必要かな」「世界の課題が身近にあることを伝えて、児童・生徒が動き出せるきっかけにしたい!」 
そんな思いを込めて作成した指導案をもとにおのおのが実施した国際理解教育/開発教育の授業の内容や学びについて、2グループに分かれて一人ひとりが発表し、新たな視点や課題への気づきを得ました。

「SDGsの素晴らしさを伝えることだけが正解ではない。現に、子どもたちはSDGsの取り組みによる弊害や影響にも気づき始めている。その気づきを話し合う議題として取り上げることが世界のリアルを知ることにつながっているのだろう」 東久留米市立第三小学校の片倉みなみ先生は、他の先生方の授業実践を聞いてそう感じたといいます。

「来年度以降の実践につなげるために、他の先生にも今回の学びを伝えていきたい」「この授業実践が1回きりになっては意味がない。この実践に他の先生や学校をどう巻き込んでいくか。そこが持続的な国際理解教育/開発教育実践のための次なる目標だと思う」 国本学園国本小学校の齋藤悠真先生や東京都立五日市高等学校の中村俊佑先生の持続的な教育実践に向けた前向きな言葉に、先生方は満場一致でうなずいていました。

授業実践したからこそ、見えた希望と課題。国際理解教育/開発教育の推進のリーダーとなる先生方に期待とわくわくした思いが募ります。

【Day2】第1部:サヘル・ローズ氏 ゲストトーク「出会いこそ、生きる力」

サヘル・ローズさん(俳優・タレント)

第1部では、「出会いこそ、生きる力」と題し、イラン出身のサヘル・ローズ氏にお話しいただきました。

1980年代のイラン・イラク戦争のさなかに家族と生き別れて孤児院で育ち、イラン人の養母に連れられて8歳で来日したサヘルさん。日本語が全く話せない、授業の内容に全くついていけない…。

そんなとき、手を差し伸べてくれたのが、小学校の校長。校長室で毎日日本語を教えてくれました。

このようなご自身の経験から、成績が悪い、素行が悪い…学校の中で、いわゆる「問題児」とされる子どもにも、その言葉や行動には必ず背景が存在している、だからこそ、「先生」として子どもを表層から判断するのではなく、職業としての立場を超え、ぜひ「一人の人間」として子どもに向き合ってほしい、という教員へのメッセージをいただきました。

また、命を絶つことを考えるほどの壮絶ないじめを経験した中学校時代。修学旅行にも行けなかった…どん底の時期にサヘルさんが救われたのは「頑張れ!」という励ましの言葉ではなく、「大丈夫?」「どうした?」「無理しすぎないでね」という気遣いの言葉だったそうです。

「まずは自分自身を愛すること、自分に『無理しすぎていない?』と問いかけることを大切にしてほしい」「幼少期に落とした心の部品は取り戻せない。でも、辛い経験をしたからこそ、人の痛みが分かる強い人間になれるんです」

100分に及ぶ講演の中でいただいた、強く温かいメッセージの数々です。最後には会場が大きな拍手に包まれました。

【Day2】第2部:研修参加者による授業実践事例報告

鎌田先生による授業実践報告

家庭科の授業で用いた教材“Daily Bread”

2日目第2部では、本研修の参加者2名による授業実践の事例報告を行いました。

最初の発表は、中学1年の社会科を担当する鎌田理子教諭。南アメリカ州(南米)の環境問題について、「持続可能な開発」の観点から学んでいく授業実践事例を取り上げました。授業では、ボリビア・チリでそれぞれ勤務する2名の日本人に、ゲストティーチャーとしてオンラインで授業に参加いただきました。

鎌田教諭が本時で取り上げたのは、環境保全と経済発展をめぐって国民の意見が分かれた、2022年9月のチリの憲法改正のための国民投票。環境規制の強化を盛り込んだ憲法改正案は反対多数で否決されましたが、生徒たちはゲストティーチャーの話から、改正賛成派と反対派、さらに自分だったらどうするかを考えました。

なぜこのような国民投票結果になったのか、ゲストティーチャーが紹介する現地の意見をもとに考える生徒たち。経済発展を遂げている首都・サンティアゴでは環境規制に賛成派の住民が多く、その一方で、銅鉱山関連の労働者が多い北部では、資源利用を規制するのに反対の声が多い、という背景の違いが見えてきました。地域や個人の立場によって利害が異なるからこそ、環境保全と経済発展をめぐっての対立が起きやすい。今日のグローバル課題を解決するにあたっては、さまざまな立場にいる人々の利害関係を考慮する必要があるという気づきを生徒たちは得たそうです。

続いての発表は、高校2、3年の家庭科を担当する福井千華教諭。「食のグローバル化」に気づき、自身の健康と地球環境に配慮した食のあり方について学んでいく授業実践です。本時では、世界の中でどんな暮らしをしている人が質の良い食事をしているのか?という問いから、食と貧富の差を関係を紐解き、自らの食生活を顧みていきました。

生徒たちは、1枚の写真をグループでじっくりと観察・分析する「フォトランゲージ」の手法を用います。グレッグシーガル「世界の子どもが食べるもの」に掲載されている、世界の子どもが1週間に食べたものを映した写真を観察しながら、生徒たちは気づきを共有しました。

富裕層の子どもの食事がファストフードや加工食品のために肥満傾向にあるのに対し、経済的に豊かでない層の子どもは高価な加工食品をほとんど口にしないため、素材から調理する質の高い食事を摂取していると生徒は学びました。

富裕層は加工食品も含め、食の選択肢を多く持つからこそ、自らの意思で「何を食べるのか」を選び取る必要があり、質の高い食生活を常に享受できているわけではない—食分野における「豊かさ」の複雑性に、筆者自身も改めて気づかされました。

日本に住む生徒たち自身も、ファストフードや加工食品に囲まれた生活を送っています。手軽に素早く食べられるようになって便利な反面、食品添加物が身体にもたらす影響や、プラスチック包装や輸送時のエネルギーが環境にもたらす影響についても考えなければなりません。自分のために素材から食事を作ったり、食べ物を選ぶことによるメリットを考え、それが地球のためにもつながることを学びました。「食」が誰にとっても欠かせないものであるからこそ、生徒たちはこれからも考え続けていくのではないでしょうか。

(JICA広報部地球ひろば推進課 インターンシップ担当:大谷理香・宮崎雅)

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