気候変動だけではなく、開発課題への対応も!
2024.01.18
- 地球環境部 次長 宮崎 明博
2023年11月30日~12月13日までアラブ首長国連邦で国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)が開催されました。ドバイは、12月とは言えとても強い日差しでしたが、世界各国から約7万人が参加したと言われています。私たちも現地でイベントやセミナーに参加して開発途上国の気候変動対策のために意見交換や議論をしました。
今回のCOP会議の焦点の一つは、グローバル・ストックテイクと言って、世界全体の炭素量等の気候変動の状況を確認し、情報を共有することでしたが、このままのペースで経済活動が進められると地球の平均気温は目標とする1.5℃以内の上昇を超えて、2.1~2.8℃となると危機感が共有され、はじめてエネルギー源としての化石燃料からの脱却が確認されました。また、気候変動の長期的な影響等に対応する損失と損害(ロス&ダメージ)のための基金の設立と同基金への各国拠出が決まりました。
日本政府は、「世界全体でパリ協定の目標に取り組むための投資促進支援パッケージ」として3つのギャップ(目標、適応、実施のギャップ)を解消するための施策を発表。各国の気候変動目標の引き上げ、持続可能な適応の促進等の後押しを表明しています。そのパッケージにはJICAが推し進める「コベネフィット型気候変動対策」についても言及されています。
今回のCOPでは気候変動の問題だけを解決するのではなく、他の開発課題(SDGs)も考慮し、相乗効果(シナジー)を目指そうという声がとてもよく聞かれました。「気候と健康宣言」、「持続可能な農業・強靭な食料システム・気候変動対応に関する首脳級宣言」が出され、日本を含む多くの国が賛同しています。
また、議論された文書の中にも「気候変動の危機と生物多様性喪失、広くはSDGsの達成にむけて統合的に対応すべき」との説明がありました*。
私たちは、以前の記事 でも紹介した「コベネフィット型気候変動対策」の考え方についてCOP28で紹介しました 。外部有識者の助言を得ながら、その定義、開発課題と気候変動対策の分析、指標や評価方法などを検討し、今後、他の機関・ドナーとも協調し、JICA’s Co-Benefit of Climate Change for Climate Resilient and Sustainable Development (JCCRS)を進め、途上国における気候変動対策と同時に開発課題に貢献することで、持続的かつ気候変動に強靭な社会の実現を目指し活動することを発信しました。
コベネフィット型気候変動対策について、JICAは以下と定義付けています。
「コベネフィット型気候変動対策は、開発事業との相乗効果を発揮する気候変動対策である。その目指すべき目標は、気候変動にレジリエントで持続可能な開発の実現であり、そのために、適応策と緩和策を柱として気候変動の影響リスクを抑制するとともに、自然環境や生物多様性等への最大限の配慮を追求することで、持続可能な開発とのシナジーの最大化と潜在的なトレードオフの最小化を図るものである」。
JICAが実施する開発事業を進める際に気候変動対策を同時に行い、相乗効果(シナジー)を目指しますが、このシナジーを最大化するために、1つのセクターで開発課題の解決を考えるだけではなく、SDGsの様々なゴールでの成果・効果も考えたアクションを行います。また、負の影響と考えられるトレードオフを最小化するための活動も行い、更には、自然環境や生物多様性等にも十分に配慮することで、持続的な開発と気候変動に強靭な社会の実現を目指します。
JICAは、一昨年に様々なセクターの開発課題に対して、4つのP(Prosperity、 People、Peace、Planet)を基軸とした20のグローバル・アジェンダ
を作成しました。グローバルな課題へ対応するため、国内外の政府機関、国際機関や民間企業とも協力し、其々の開発課題に取り組む姿勢を示しています。事業を進める際には、気候変動に関係する様々な分野で戦略、政策立案(Plan)を行い、実施(Do)を推し進め、評価・モニタリング(Check)を行い、評価結果に基づく改善(Action)を一つのサイクル(PDCA)として繰り返します。こうして効果を定着、増幅させた上で、他の開発機関とも連携しつつ、パートナー国との協力を進めます。その結果、温室効果ガス排出削減、気候変動への耐性向上、持続可能な開発に資する気候変動対策が推進されることを目指します。
COP28の期間中に他の機関や他国の方と、このアプローチについて議論しました。この方向性や考え方に賛同するという反応を得るとともに、実施にあたっては現場の人の目線に立つことや地域の特性に注意してシナジーやトレードオフを最適化することが必要などの意見がありました。
持続可能な開発目標(SDGs)は2030年に年限を迎えますが、ウクライナやパレスチナ等の事案もあり経済、社会が不安定な状況の中、未だ多くの目標達成の目処が立っていません、。途上国への支援に必要な資金が潤沢にない中、気候変動や地球規模の課題に対して、いかに対応するかが、今後の協力への大きな鍵となります。そのためにも開発課題の解決を効果的かつ効率的に行う必要があり、JICAはコベネフィット型気候変動対策の考え方や、開発途上国との共創による知見を蓄積し、共有することで気候変動とSDGsに貢献したいと考えています。
以上
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