JJパートナーシップを育んできたJICA

#8 働きがいも経済成長も
SDGs
#11 住み続けられるまちづくりを
SDGs
#16 平和と公正をすべての人に
SDGs

2024.04.01

サムネイル
JICAジャマイカ支所 支所長 河崎 充良

 ブルーマウンテンコーヒー、レゲエのボブ・マーレ、陸上のウサイン・ボルトを通じて、カリブ海に位置する小国ジャマイカは世界に知られています。他方で、10万人当たりの殺人被害者数の推移―1990年以降今日まで毎年20名以上(2019-2021は世界一位)が示す不安定な治安状況が、同国の成長に暗い影を落としてきました。そんな「光と影」のジャマイカに、日本カリブ友好30周年、日本ジャマイカ国交樹立60周年という節目の年(2024年)を迎え、これまでのJICAの歩みを振り返り、また新たなJamaica- Japan パートナーシップ、通称JJパートナーシップ(2国間協力を通じて両国の絆を一層強固にする取組)について展望します。

ジャマイカと向き合う上で必須となる文化面での交流

 沖縄文化の牽引者のひとり、平田大一氏の「文化はおやつではなく、主食である。」が、ジャマイカにあっては、音楽やダンス等を通じて、まさに主食の様相を呈しています。奴隷制からの解放(1838年)や英国植民地からの独立(1962年)を勝ち取った先人達から、脈々と自由・自立・自治の精神をジャマイカの人々は受け継ぎ、治安問題や経済格差等の深刻な課題を抱えつつも、老若男女その人生を謳歌しているようです。そんな同国に、日本は2015年度より、ジャマイカにおける文化の更なる振興に貢献すべく、無償資金協力(「ジャマイカ研究所(博物館)展示・視聴覚機材整備計画」)を支援。今日も、同館を訪れる子供達や観光客等の訪問者に、同国の文化遺産の継承が確実に行われています。また、60周年の節目の年に向けたJICAオリジナル公式コンテンツとして2022年に発表された「Reggae Bon Bon」(レゲェ音楽と盆踊りの融合)が、2024年に東京やキングストンで、様々な機会に披露され、JJパートナーシップの現在と未来を彩っています。2024年秋には、JICA帰国研修員同窓会(JAAJ)とのコラボにて、“JICA Day”を開催し、Raggae Bon Bonも含めて、双方の文化交流の深化を目論んでいます。

キングストン市内でのJJ交流文化イベントにて

ブルーマウンテンコーヒー栽培には日本の官民の情熱があった

 ブルーマウンテンコーヒーの最大の輸出市場は日本で、全輸出の約7割を占めていますが、その背景には、UCC上島珈琲株式会社と日本政府(JICA)との間で次のような官民連携の取組がありました。1981年から82年にかけてJICAにより実施された「ジャマイカ国コーヒー栽培開発基礎調査」および「ジャマイカ国コーヒー栽培開発計画調査」、83年以降JICA開発投融資の投入による「ブルーマウンテンコーヒー新栽培地域開発試験事業」。さらには、有償資金協力「ブルーマウンテンコーヒー開発事業(承諾額59.41億円、1984年4月借款契約調印、貸付完了1997年4月)」です。これらの取組もあり、栽培技術の確立や精製工場改修等基幹インフラ施設・機材の整備が進み、世界中のコーヒー愛好家から高い評価を長く獲得している同コーヒーの品質の確立・維持に繋がってきたのです。
 “Allow me”、これはJamaica UCC Blue Mountain Coffee Company Ltd.の精製工場に勤めるWilliam氏のメッセージです。1982年3月にUCC上島珈琲株式会社が設立した同現地法人とJICAとの間の協力では、2012年頃には知的障がい者の雇用という形で、インクルーシブ社会づくりへの先駆け的貢献も果たしてきました。私は、2023年12月キングストン市内で開催された「知的障がい者の就業機会拡充イベント」で、William氏からのこのメッセージ(障がいをもっていても、その特性を活かせる機会があれば働くことができる。)を受け取りました。実は、同氏が学んだ「ジャマイカ知的障がい協会(JAID)」には、当時JICAボランティア(知的障がい児教育)が派遣されており、JAIDと同法人との間を取り持ち、障がい者の社会参加の実現につなげたのでした。

資金力に日本人の顔を見せることの大切さ

 我が国の対ジャマイカ支援をよく知る同政府関係者から、JICAの上水道整備事業について特に感謝されたことがあります。同国首都圏の上水の安定供給に寄与した有償資金協力「キングストン首都圏上水道整備事業(66.44億円、1996年7月借款契約調印、貸付完了2010年5月)」に、技術協力「上水施設維持管理能力強化プロジェクト:2007年3月―2010年11月」が加わり、実施機関(国家水委員会)の運営維持管理面での人材育成と管理システム強化がなされました。同国への我が国開発協力の実績を振り返る時、技術協力プロジェクトが意外と少なく、資金と技術の両面で「日本の顔が見える形」で、高い評価を得た当該案件こそが、今後のジャマイカ支援においてJJパートナーシップを事業面で強化する参考モデルになるのではと思います。

JJ交流の促進につなげる新たなチャレンジ

 1989年からジャマイカに派遣されたJICAボランティアは約5百名にのぼります。治安問題がボランティアの派遣当初から主要リスクとしてあり、彼らの活動を支えるジャマイカ支所にとっては、安全対策が最優先取組課題になってきました。そして、2023年度からは、「地域警察活動普及に係る警察官能力強化(第三国研修)」を開始。2005年から日本の交番を参考に地域警察システムを構築し治安の回復に成功した経験を有するブラジル国のサンパウロ州警察の協力の下、ジャマイカの地域警察活動の実施能力強化を狙った日本―ジャマイカ―ブラジルの三か国間の協力事業により、冒頭に触れた殺人事件や強盗・銃撃事件等の犯罪を抑え、治安を改善すべく、ジャマイカ警察官の能力向上を目指しています。その先には、我が国民間企業のジャマイカへの投資増や文化を通じたJJの市民レベルの交流の一層の推進という願いがあります。

第三国研修の模様(ジャマイカ警察官とブラジル側関係者の集合写真)(提供元:Jamaica Constabulary Force)

結びに

 とある会合で、ジャマイカ国のHolness首相から、直接、「日本/JICAはグレートパートナーだ!」と賞賛されたことがあります。JICAボランティアに加えて、1971年以降日本での様々な課題別研修1に参加した約700名のジャマイカ人とその同窓会(JAAJ)を通じたJJ交流が背景にあったことは間違いありません。その一人ひとりが培った知見と経験を、今後のJJパートナーシップの発展にどう活かしていくか、さらにはカリブ地域の国々との協力関係醸成にいかに役立てていくか、ジャマイカの現場を預かる私たちに課された重要な取組課題だと思っています。60年という「還暦」は、新たな気持ちでの挑戦を促してくれる好機であることを念頭におきつつ、取り組んでいきます。本プログが、皆様の「JJパートナーシップ」へのご関心惹起に繋がることができましたら、うれしく思います。

  • ※ 1 課題別研修は、日本側が研修内容を企画・計画し、開発途上国に提案する研修です。日本が有する知識や経験を通じて途上国が抱える課題解決に資するよう、国内の多くの関係団体と連携しつつ実施しています。病院管理のノウハウ、地方自治制度、また伝統的な農業技術から最先端の科学技術に至るまで、多岐に亘る分野をカバーしています。

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