住民とともに森を守る ~ネパールを事例として~

#15 陸の豊かさも守ろう
SDGs

2024.04.11

サムネイル
地球環境部森林・自然環境グループ 企画役 花井 あかね

1.森林保全の役割

 近年、世界各地で地球温暖化によって引き起こされる熱波、干ばつ、洪水、森林火災、海水面上昇といったニュースが絶えることなく報道されています。

 国連食糧農業機関(FAO) によれば、世界中で無計画な大量伐採や違法伐採による森林減少を止めて森林を適切に管理することで、2050年までに毎年3.6ギガトンのCO2排出を削減することができ、地球上の半分の生物多様性を保護することにもつながるとの試算もあります。また、森林を保全することで、森林の持つ水源涵養や土壌保全、防災・減災といった多面的機能を保つことも期待できます。

 そこで、SDGsゴールの1つ、15「陸の豊かさも守ろう」の達成にも大きく貢献する森林保全について、JICAのネパールでの協力をご紹介したいと思います。

2.ネパールにおける森林保全

 先月3月中旬に、JICAが2022年よりネパールで実施している森林保全プロジェクトの進捗を確認するため、現地へ1週間ほど出張に行ってきました。ネパールでは1990年代の急激な人口増加や開発事業等に伴う無秩序な伐採、過剰な森林資源利用などを原因とし森林面積が急激に減少した歴史があります。

 JICAは森林被覆率の回復を目指し、地域住民が主体的に森林を管理する住民参加型の「社会林業」のアプローチをとり、1991年から森林分野での本格的な技術協力を開始しました。主に村落地域で住民の主体性を高めながら森林保全、植林活動の実施をサポートしてきました。こうしたJICAの協力のみならず他ドナーも植林等の森林プロジェクトに協力した成果もあり、森林面積は29%から41%まで回復しています。

「コミュニティーの管理する森林に植られたシナモンの木」

 しかし、最近では気候変動の影響がネパールでも顕著になり、降雨パターンが変更し、これまでにはあまりなかった集中豪雨による土砂災害や大規模による被害が増しています。この背景をふまえ、2022年、ネパール政府からの要請を受け、森林の持つ土壌保全の機能向上を図る森林保全プロジェクトを新たに開始しました。

3.女性の森林との関わりの変化

 今回本プロジェクトの現地視察で、首都カトマンズから国内線で1時間かけてガンダキ州ポカラへ移動、さらに車両でそれぞれ3時間かけて、ネパールの中部に位置するタナフ郡とシャンジャ郡を訪問しました。訪れた2つの村落地域では、男性家長や働き盛りの若い男性は都市部や国外へ働きに出ているため、プロジェクトのステークホルダーを対象とした会議の出席者はほぼ女性のみといった状況でした。

 以前は、森林保全の担い手は男性が多かったのですが、村落地域での男性や若者の流出が進む今、男性が減少し、森林保全活動の担い手は女性中心になってきています。このような状況から、JICAは、村落の活性化に重点を置きつつ、かつ女性が公の場に出て来て意見を述べやすくし、女性の意見を尊重する環境作りに配慮しながら活動を行っています。
 ひと昔前は家庭の燃料用としてコミュニティーが管理する森林から薪を集めることが女性の一つの役割であったのが、近年ガスコンロの普及により薪の需要が大幅に減少したことで森林資源そのものの活用は以前ほどニーズが高くなくなっています。

 今回の出張において、現状や今後のニーズ等を森林の担い手となる女性たちにヒアリングをした結果、森林資源そのものを活用するよりも、現金収入につながるように、森林資源を活用した製品がマーケットで求められるようにしたい、そのためには現在のニーズを把握するとともに、その製品を市場で売る販売ルートを分析し、販売を支援するマーケティングの手法などの支援が欲しいといった要望が出され、このような取り組みを試行的ではあるものの積極的に取り入れていくことも重要と感じました。

このように協力相手国の社会構造の変化を正確に把握し、住民たちが森林とどのように関わって暮らしているのか、持続的に保全しながら利用していくために、その活動の中心となる住民たちの真のニーズは何なのかなどを受益者から丁寧に聞き取りながら、JICAの森林保全の協力を進めていく重要性を改めて見直した良い機会となりました。

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn