やっぱり「現場」。やっぱり「人」。

2024.05.20

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企画部 部長 原 昌平

 企画部にいる日々の私の仕事はほぼ東京で完結します。JICA内部、外務省をはじめとする関係省庁や国会周り、その他関係者の皆様との、協議・相談・調整などなど。JICAは国の予算=税金を使わせて頂いている組織ですから、国内の幅広い関係者に、関心を持って頂くこと、理解して頂くこと、そしてそれらの結果として支えて頂くことはとても大切です。私にとっての「現場」であり、とてもやりがいを感じています。

 そんな中、最近久しぶりの海外出張で、フィリピン・インドネシアを訪れる機会がありました。フィリピンでは、首都マニラの水害を抑えることに成功したパッシグ・マリキナ川河川改修事業や工事が順調に進むマニラ首都圏地下鉄事業を訪問。さらに、バンサモロ・ムスリム・ミンダナオ地域での和平プロセス支援の協力の現場を訪れることができました。インドネシアでは、ジャカルタ初の本格的な下水道整備となるジャカルタ下水道事業と、大規模な新港開発であるパティンバン港開発事業を訪れました。私自身これまでインドのデリーメトロプロジェクトや、イラクの港湾プロジェクト等インフラ案件を担当することが多かったこともあり、やはり大規模インフラの建設現場には胸が熱くなりました。

インドネシアの技術者に下水道管の定期点検方法を研修中

それぞれの「現場」では、たくさんの「熱い人々」にお会いしました。バンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域で複雑な関係者と静かに粘り強く対話を重ねて現地の人々から不動の信頼を得ている人。相手国の官庁に新技術を導入するため、日本の自治体の経験を生かしたアドバイスをしている人。品質・安全・時間・コストの難しいバランスが求められる施工現場で着実に工事を進めつつ人材も育てている人。官民の役割分担がダイナミックに変わる中でPPPインフラ事業に果敢に挑戦している人。そして、こうした日本の協力・JICAの役割を積極的に発信して共感の輪を広げている人など。いうまでもありませんが、これらの人々を迎え入れ、よりよい未来・国造りに向けて一緒に取り組んでいる相手国の人々、そしてそれらの人々と信頼関係をつくりJICAを通じて自国の国造りに貢献しているJICA事務所のナショナルスタッフも、忘れてはならない「現場の熱い人々」です。

東京都下水道局からインドネシア公共事業・国民住宅省居住総局に派遣され下水道分野のJICA専門家として活躍中の郡川さん

 この出張を通じて、技術協力・資金協力・民間連携など、JICAの事業のかたちは様々だけれども、日本・JICAの開発協力は「人」によって成り立ち、「人」によって支えられているという、とっても当たり前のことをしみじみと思い返すこととなりました。現場で「熱い人々」が行き交うことで、プロジェクトが進み、社会の変革が進んでいく。その過程は、激しい議論・交渉を経ることもあれば、お互いの助け合い・学び合いもあり、それらを通じて「信頼」が生まれる場でもあるのです。

 出張の後、野中郁次郎編著『日本型開発協力とソーシャルイノベーション 知識創造が世界を変える』(千倉書房)を読む機会がありました。この本では、社会の変革、「ソーシャルイノベーション」をもたらしたJICAの7つの取組を「物語り」として取り上げ、それぞれの取組を野中教授の「知的創造理論」の観点から丁寧に洞察して「現場経験」を「知識」として整理し、国際的な共有・発信にもつながるものとしてまとめて頂いています。

 そう書くと難しい本のように思われるかもしれませんが、同書に登場するのは、JICAのスタッフ・専門家・コンサルタントなどの「現場の熱い人々」。私自身もよく知る人たちも肉声で登場する「物語り」です。そこで取り上げられているのは、相手国にとって「よそ者」である私たちが現地のニーズを把握し人々から信頼を得るためのふるまい、「よそ者」ならでは実現できる共創の場づくりや社会の様々な階層の人々への働きかけ、そして次から次へと訪れる困難を乗り越えてやり抜く姿、など。いろいろなことがうまくいかなくなったときの悩みやそれを乗り越えた例もたくさん織り込まれていて、「これこそJICAの仕事の醍醐味!」と膝を打つことしきりでした。ムスリムミンダナオの複雑な関係者のあいだで静かに粘り強く対話を重ね、文字通り現地に寄り添うことで不動の信頼を得てきた落合さん(バンサモロ暫定自治政府首相アドバイザー)と彼を支えたJICA関係者の熱い「物語り」も含まれています。開発協力にご関心をお持ちの方々には是非手に取っていただきたい一冊です。

 開発協力の「現場」の多くは遠い国々であることもあって、その効果や日本にとっての意義がわかりづらいというご指摘をよく頂きます。これについて、私自身は、JICAの役割を、途上国の社会がより良く変わっていくことを手助けすることを通じて信頼を積み重ね、相手国と日本との良い関係の基盤づくりに貢献すること、それを通じて世界の中で生きる日本の将来を創っていくことだと考えています(以前も似たようなことを記しました)。「現場」の取組と日本にとっての意義の間には、十分に説明できていない、逆にそれゆえにとっても深くて拡がりを持つもの、見えないところで大樹を支えている根っこのようなものがあるようにも思っているのですが、それを説明する一つの材料が「現場の熱量」なのではないかと思います。

 「途上国の社会がより良く変わっていくことを手助けする」ことは、決して簡単なものではありません。日本とは言葉も社会も文化も異なる土地で、トップダウンではなく現場から一つ一つ積み上げる日本的なやり方で、人を説得し、巻き込み、育て、仕組みを作り、それをルール化・制度化して、さらに様々な人々と共に大きく育てていくことであって、時間がかかるとともにとっても難しいものです。そのような場で、相手国の人々と共に、「現場・現実・現物で『感じ、共感し、直観する』」(前掲書)ことで変革につなげ、新しい価値を創造していくために、現場の関係者の「熱量」はなくてはならないもの。その「熱量」があってこそ、相手国の人々との信頼関係ができ、日本とのよい関係の基盤づくり、「日本にとっての意義」にもつながります。今回見てきたように、開発協力の「現場」で「熱い人々」が活躍していることは、必然でもあり、またその「熱量」を通じて、日本・日本人のあり方を理解する人々が世界に増えていくことはとてもありがたいことなのです。

 「熱かった」今回の出張を振り返りつつ、「現場の熱量」、言い換えれば日本の開発協力ならではの価値とそれを担う人々を大事にすること、そして同時にその「熱量」を遠い日本にもしっかり伝えていくことが大切で、私たちJICAのスタッフにも、「現場」でしっかり仕事するだけではなくて、その過程も積極的に発信していくことが求められている、ということを改めて感じました。

 また、私自身、JICAイラク事務所にいた当時(2013~16年)、治安の影響により現地に入れない状況で、色々と工夫して周辺国などで日本側・イラク側双方の関係者間の対面の調整を進めたことや、その場での熱のこもったやり取りを思い出しました。あの頃の自分も今回お会いした皆さんと同じように「熱かった」なと。そして、今の私の「現場」でお会いする日本国内の関係者の皆さまに、JICAの現場の「熱さ」をお伝えして関心を持って頂くこと、理解して頂くこと、そして支えて頂くための取組にも「熱く」臨みたいと、想いを新たにしました。

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