変わりゆく途上国の経済環境~就業と成長を巡って~

#1 貧困をなくそう
SDGs
#8 働きがいも経済成長も
SDGs
#10 人や国の不平等をなくそう
SDGs

2024.06.27

サムネイル
審査部 部長 宮崎 卓

JICAが発展途上国をパートナーとして開発協力を行っていくに際して、これらの国々の経済・社会の状況の把握はとても重要です。私が所属している審査部という部署では途上国を中心に世界の経済状況の情報を収集・分析し、実際に事業を担当する部署に参考として提供しています。私自身は2018~20年に続き昨年2023年から2度目の審査部配属となりますが、ただでさえ脆弱なこれらの国々が、経済のグローバル化が進む中、気候変動やコロナ、戦争といった複合的に絡み合うリスクに晒されており、前回の配属時と比べてもより複雑さと厳しさを増してきているように感じています。そうした業務に取り組む中で個人的に気になる話題をいくつかご紹介したいと思います。

写真提供:久野 真一/JICA

グローバルな経済格差の縮小が止まってしまう・・?

4 月 15 日、世界銀行は、『大幅な後退1(The Great Reversal)』と題するレポートを公表しました。意味深なタイトルですが、何が後退なのでしょうか?実は過去20年間にわたり、途上国2平均は先進国平均を上回る経済成長を見せてきました。いわばグローバルな経済格差の縮小が進んできたのです。ところがコロナ禍以降、こうした格差縮小トレンドが「後退」してしまっている─これが上記報告書の主張の一つです。

左図は途上国と先進国の一人当たりGDP成長率を比べたもので、プラスは途上国の成長率が先進国よりも高い状況(格差縮小)を、マイナスは逆を示します。2000年以降波はありつつもプラスだったのが、2020年以降殆ど差がなくなっています。差がないということは、そのまま格差がそのまま温存されることを意味します。(Chrimes他上掲 p.46)

※1 “Chrimes, et.al.[2024] The Great Reversal: Prospects, Risks, and Policies in International Development Association (IDA) Countries. © Washington, DC: World Bank. http://hdl.handle.net/10986/41403
世界銀行和文プレスリリースより 大きな潜在性を秘めながら、「歴史的後退」に直面する75の脆弱国 (worldbank.org)
 >最新の報告書「大幅な後退:国際開発協会(IDA)借入国の見通し、リスク、政策」
※2 ここでは国際開発協会(IDA)借入適格国。基本的に一人当たりGNI(国民総所得)が毎年新たに定められる上限(2024年度は1,315ドル)を超えていないことが条件。
https://ida-ja.worldbank.org/ja/about/borrowing-countries

途上国同士でも格差がある

途上国も国ごとに状況は多様ですが、うち半数の国で、経済レベル3の伸びが富裕国のペースを下回ってしまっています。半数まで増えたというのは、実は今世紀に入って最大の割合で、歴史的な状況とみることもできます。

途上国の中で、一人当たりGDP成長率が先進国平均より低い国々の割合。2020年以降こうした国々の比率が半数を上回っています(Chrimes他上掲 p.5)

経済レベルを見ても、途上国のうち3カ国に1カ国がコロナ前よりも貧しい状態になってしまっています。

※3 国民一人当たり所得平均

ポテンシャルのある国々も

途上国の中には若年人口が多く増加傾向にある国や、豊富な天然資源に恵まれている国々も少なからずあります。人口については、労働賃金の競争力を生かしながら、広範な就業創出を伴う経済成長は、格差の小さい成長を実現できる可能性があります。
天然資源に関しても鉱産資源もあれば昨今再生可能エネルギーの需要が増す中、発電に適した自然条件を持つ国などもあります。ただ一方でこうした有利な要素を持たない途上国もまた少なからず存在している点も勿論忘れてはなりません。

世界に蔓延する物価上昇(インフレ)・債務問題

途上国を取り巻く外部環境もまた、近年大きく変化してきています。コロナ後に物価水準が急激に上がってきています。エネルギー、金を中心とする貴金属、さらには食料などの価格の上昇は、それらを生産し輸出する国には有利に働きますが、高価になったこれらの品々を輸入する国には厳しい影響を及ぼし、明暗が分かれていくことが懸念されます。

世界銀行Global Database of Inflationより筆者作成

また、このインフレを受け、それまで低かった金利が急上昇しました。

途上国の政府は、将来の成長に向け電力や交通などを整備したり、教育や医療、社会保障に支出するための財政資金が十分でなく、特に長らく続いた低金利時代に国外からの借り入れを多く行ってきました。その中にはJICAが提供している融資のように条件がソフト(譲許的)なものもありますが、民間資金からの借り入れも多く行われました。しかしながら金利上昇により、返済期限到来時に借り換え条件が急遽厳しくなってしまいます。自国のために役立てたい資金をより多く債務返済に充てなければならず、厳しい逆風といえるでしょう。

金利上昇等に伴い途上国の中で債務リスクの高い国々の比率が上昇してきています(Chrimes他上掲 p.30より一部改変)

労働力活用が難しくなっている?

去る3月、JICAを訪問された高名な経済学者であるコロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授とお話をする機会を持つことができたのですが4、その際の話題の一つが、同教授が論文で指摘されている、途上国が製造業振興・就業創出を通じた発展を実現していくルートが難しい環境になってきている、という論点でした5。途上国がグローバルバリューチェーンに完全に組み込まれ、先進国や中国からの商品が、規模の経済やよりプロセス効率化を背景に低価格で途上国市場に流入すれば、輸入依存度が高まり、国内産業成長が抑制される可能性があります。また製造業自体、AIに象徴されるように技術革新も進み、多額の資金・高度な設備に多く依存、多くの人々の就業を必要としなくなっている面もあります。

※4 世界銀行・JICA緒方貞子平和研究所で2021年12月オンラインセミナーを開催。
※5 Stiglitz[2021] From Manufacturing-Led Export Growth to a Twenty-First Century Inclusive Growth Strategy

途上国はさらなる就業創出を求めている?

米国の研究機関AidData,が2023年に刊行したの報告書6において、途上国関係者に対し自国の開発の進展(2016-2020)について聞き取りを行った結果、最も評価が低かったのが十分な就業(sufficient jobs)でした。

政府関係者、ビジネス分野、シンクタンク有識者などに「自分の国の開発に進展はあったか?」を尋ねたもの。就業について不同意(進展がない)との回答の比率が圧倒的に高い。(Custer et.al. p.13より一部改変)

誰一人取り残さない-SDGsのこの理念は、すくなくとも先進国・途上国の格差の面でこの20年進展を見せてきた部分もあります。しかしながら本稿では触れなかった気候変動や地政学的リスクなど、世界が取り組むべき新たな課題は日々増え難度を増す中、この課題が、変化する外部環境により、新たな姿を纏って再び立ち現れてきています。こうした状況を踏まえ、例えば従来のような就業創出が難しければ、サービス業が製造業に代わり、生産性向上と就業増加を同時に達成することができるか、言い換えれば製造業の基盤がない中でサービス業のみが発展することはできるのか、を考える必要があります。生産性が低い、輸出が難しい、また製造業のように上流や下流に就業創出を波及させることが難しい、などの指摘がなされてきていますが、ICT技術の発展に伴いオンラインベースで高い生産性を持つ仕事が出現するなど、上述の制約要因を突破できる可能性が増大してきた、との見方もあります。またサステイナブルな社会への転換は新たな産業を生み出し、今までにない新たな就業を創出できるかも知れません。
古くて新しいこの課題に、新しい視点を以て取り組んでいくことが求められていると考えます。

※6 Custer et.al.[2022] Aid Reimagined: How can foreign assistance better support locally-led development?

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