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作りたい、新しい「人と人との絆」

#8 働きがいも経済成長も
SDGs
#9 産業と技術革新の基盤を作ろう
SDGs
#17 パートナーシップで目標を達成しよう
SDGs

2024.07.02

サムネイル
ネパール事務所 所長 大久保 晶光

ネパール、どんな国?

 ネパールについて、どんな印象をお持ちでしょうか。中国とインドの間に位置し、ヒマラヤを始めとする美しくも荘厳な自然や、ヒンドゥー教寺院等の世界遺産の観光のため、世界中から年間100万人が集まる国です。しかし、一人当たりのGDP(国内総生産)は1337ドル(約20万円)と、アジアの最貧国のひとつであり、インフラ不足や災害への脆弱性を始め、開発の課題が多い国と言えます。

  • 2022年、世界銀行

長きに渡る親日国

 そんなネパールに私は3年前に赴任しましたが、町中にあるヒンドゥー寺院や様々な民族が行き交う姿に、日本とは異なる雰囲気を感じながらも、すぐにネパール人が日本に対し非常に良い印象を持ってくれていることに気づきました。
 歴史をさかのぼると、1902年に当時の王室が、自国政府の経費負担で8人の留学生を派遣しています。欧米よりも、同じアジアの中で近代化を進めていた日本から先進技術を学びたいとの考えを早くから持っていた国でした。
 このように、長きに渡る親日国であるネパールに対し、戦後、日本政府は1956年に国交を樹立し、1969年から経済協力を開始します。その実績は枚挙にいとまがないのですが、代表的なものをご紹介します。

 国土の8割が山岳地帯のネパールでは交通インフラが重要です。JICAは早くからインフラによる国家の基盤を作ることに貢献してきました。カトマンズからインドへの道をつなぐため、20年をかけて作った全長160キロの山岳道路「シンズリ道路」はその代表です。また、現在カトマンズ近郊では、ネパール歴史上初めての交通用トンネルである「ナグドゥンガトンネル」が円借款事業として進行中です。これによりネパールの西側に位置する主要な都市から首都へのアクセス時間の短縮や交通事故の減少、土砂崩れのリスクが改善されます。交通状態の改善は経済・社会の土台作りになると思います。

ダハル首相を迎えて開催されたナグドゥンガ・トンネル開通式

また、ネパールは豊富な水資源を有する一方、アクセスの難しさや河川高低差の大きさ等から、水力発電開発や上水の整備は未だ不十分ですが、「タナフ水力発電事業」のように、ネパールの豊富な水資源を利用した電力供給プロジェクトや「ポカラ上水道改善計画」等安全な水供給のためのプロジェクトも進行中です。
インフラ以外でも、農業、保健、教育といった基本的な生活を支える支援も長年に亘り行っています。また経済発展のための投資促進や法律の整備、更には気候変動、防災分野の支援にも力を入れてきました。
そして日本との関連で忘れてはならないのは、2015年4月に発生したゴルカ大地震です。約9000人が亡くなったこの災害では、JICAは緊急援助隊の派遣(救助チーム、医療チーム、自衛隊チーム)を支え、緊急物資供与を行いました。その後、開発調査や緊急復興、学校や住宅の復興建設へつなげ、復興・復旧、そして事前防災へと今も支援を続けています。
 このようにJICAはネパールの発展を様々な形、分野で支えてきました。

カトマンズ近郊で農家とともに活動する海外協力隊

新たな展開 日本在住ネパール人が急増

 ところで、最近日本に住むネパール人が増加しているということをご存じでしょうか?現在約17万人のネパール人が日本に在住しています。日本在留外国人としては6番目の数になります。皆様お住まいの場所でもネパール料理店を目にすることがあるかもしれません。留学生として滞在されている方も多いです。日本企業におけるネパール人の評価は高く、勤勉かつ穏やかで人当たりがよく、また日本語の修得も早いこと等から、接客や介護分野等で活躍されている方もたくさんいます。
 ネパールの人口は約3,000万人ほどですが、そのうち約300万人が日本を含む多くの国々に出稼ぎに出ています。海外で稼いだお金のうち、ネパールのGDPの約25%相当の額がネパールに送金され、経済発展を支えています。コロナ後の今、海外への出稼ぎはますます増加しているとも言われます。
 しかし、本当は、自分の国に幅広い産業と仕事があれば、家族や親せきから離れて、遠くの国に働きに行きたいとは思わないはずです。その意味でも、ネパールに根付いた多様な産業の育成が喫緊の課題です。

ネパールでの産業育成を目指して~還流人材支援の取組み~

 そこでJICAは、2023年から「海外就労者キャリア開発・起業家支援プロジェクト」を実施しています。このプロジェクトでは、日本での就労後、ネパールに帰国する人材を還流人材と捉え、ネパール産業振興の担い手として就労や起業するための支援の仕組みづくりを目指しています。
実は、ネパールへの投資、進出を検討されている日本企業のほとんどは、日本でネパール人を採用したこと等が縁となり、この地を訪問されています。その意味では、還流人材は将来日本からの投資の際、日本とネパールを繋ぎ活躍する人材になる可能性を持ちます。日本とのつながりを持つネパールの産業人材をきめ細かく支援することは、日本とネパールとの人の絆を新たに強めることになると考えています。

海外就労者キャリア開発・起業家支援プロジェクトでの、静岡の農園体験ツアー参加者

LDC卒業に向けて

 ネパールは、国連の基準で、特に開発が遅れている国であるLDC(後発開発途上国)として分類されていますが、2026年にはそのLDCを卒業する予定です。しかし、取り組むべき課題はいまだ多く、国際社会からの引き続きの支援が必要です。伝統的なインフラ支援から新たな還流人材支援まで、JICAとして、広範囲の協力をしっかりと進めていきます。

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