都市計画の母“土地区画整理”を通じた日本と中南米の心のふれあい

2024.07.11
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- 社会基盤部 都市・地域開発グループ 吉原 信一
日本の都市開発手法がコロンビアの都市問題解決に貢献している―。そのような事例に接する機会がありました。とても感銘を受けるものであったため、本ブログでご紹介したいと思います。
南米大陸北部に位置するコーヒー大国コロンビア。その第二の都市メデジンは、1970年代より麻薬取引の温床となり世界一危険な街といわれていました。アブラー渓谷を南北に走るメデジン川沿いに形成された市街地の東西には小高い山があり、その急勾配の傾斜地には1980年代より流入した国内避難民によって不法居住地区が多く形成されてきました。多くの都市問題が顕在化した中、メデジンの人々は街を再生するために様々な努力を重ねてきました。その結果が実り、現在では、メデジンは安全で文化的、そして革新的な都市として知られるようになりました。
メデジンの街並み
このような都市再生を実現するにあたり「土地区画整理」の手法が使われています。土地区画整理とは、良好な都市環境を整備するために土地の区画を変更するとともに公共施設を整備する手法で、日本ではこの手法を「都市計画の母」と称しています。メデジン市役所のネルソン氏は「コロンビアの土地区画整理は日本からインスピレーションをもらって形作られている」と語ります。なぜ遠く離れたコロンビアにおいて日本の土地区画整理が影響をもたらしているのか―。
土地区画整理に関するコロンビアと日本の出会いは、今から26年前の1998年、北海道の帯広で行われたJICA研修でした。そこでコロンビアの優秀な若い行政官たちが日本の有識者から土地区画整理について学んだのです。日本側講師として中心的な役割を果たした小林英嗣さん(北海道大学名誉教授)は、「日本の土地区画整理を伝え、また、私たちも参加国からも学びたいと考えていた」と振り返ります。
同研修は1998年~2002年までの5年間帯広で実施され、研修対象国はコロンビアのみでしたが、2003年からは研修対象国にボリビア、エクアドル、ペルー、ベネズエラを追加し、アンデス5か国向けの研修に発展しました。また、日本での研修と並行して、コロンビア現地に日本人専門家を派遣し、技術指導も行いました。「心が通い合うような人が集まった」と振り返るのは、この一連の協力に専門家として携わった木下洋司さん(当時国土交通省職員、現在建設業取引適正化センター東京センター長)です。日本人とコロンビア人が互いに分かり合う深い交流を行うことで、コロンビアで土地区画整理を根付かせる人々が育つこととなったのです。
コロンビアに戻った帰国研修員たちは、当時自国で実績がなかった土地区画整理事業に着手しました。研修一期生のフアン・カルロス氏は、メデジンにある工場跡地の再開発を手掛けましたが、日本で学んだ土地区画整理の考え方をコロンビアに馴染むように“現地化”して事業を見事に成功させました(シウダ・デル・リオ地区)。メデジン市役所計画局のネルソン氏は、土地区画整理の考え方を応用したスラム地区改善に取り組み、劣悪だった住環境の改善に貢献しました(フアン・ボボ地区)。首都ボゴタではマリア・クリスティーナ氏、ボゴタ郊外のチアではオランド・ヘルナンデス氏など、多くの帰国研修員が活躍してコロンビア各地で土地区画整理の考えを取り込んだ都市開発事業を実現していきました。
メデジン フアン・ボボ地区
メデジン シウダ・デル・リオ地区
このようなコロンビアの経験は、周辺の中南米諸国にとっても学べることが多くあると考え、2010年からは研修の開催地をコロンビアに移し、中南米諸国に対する「第三国研修」を実施するようになりました。その結果、中南米14か国において、日本およびコロンビアでの研修受講者は約300人に上り、日本から学んだコロンビアの経験が中南米地域にも広がることとなりました。
こうして中南米各国に広がった帰国研修員ネットワークは、2024年2月にコロンビアのアウグスト・ピント氏を中心とする有志によって「中南米都市・地域計画家協会(ALPU)として法人化されるに至り、現在は日本人とも交流しつつ、持続可能な都市の実現に向けて活動の幅を広げています。このような取り組みは、彼らがオーナーシップをもって国を超えた地域で技術協力の成果を発展させた、「人づくり、国づくり、心のふれあい」の傑出した成功例であると感じます。
2024年2月ALPU設立総会の集合写真
日本でも中南米諸国でも社会や人々の生活は日々変わっており、それに応じて都市環境も変化が求められます。常に何か問題が生じ、都市における問題がなくなるということはないかと思います。
「土地区画整理の技術移転がうまくいったから終わり」ではなく、コロンビアを含む中南米諸国との協力関係は「これから」であると思います。土地区画整理がきっかけで形成された「人と人のつながり」を発展させて、将来に向けて持続可能な都市をどう創っていけるかを一緒に考え、悩み、そういったことを通じて、日本も中南米諸国も元気にしていくことができれば、本当に素晴らしいことです。そのような未来に向けてみんなで取り組んでいきたいと思います。
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