沖縄と世界の絆
2024.09.30
- 沖縄センター 所長 倉科 和子
日本のほぼ反対側、南米に位置するボリビア多民族国に沖縄から移住した人々により作られたオキナワ市という自治体があることをご存じでしょうか。
今年は入植70周年。南米各地から多くのウチナーンチュ(沖縄県系人)がオキナワ市のコロニア・オキナワ(沖縄移住地)に集まり、旧交を温め、これまでの道のりを振り返り、発展を祝いました。
沖縄県からの海外移住は1899年、ハワイへ出発した27人から始まりました。その後、1906年のペルーへの移住を皮切りに南米への移住が始まり、南洋(太平洋の島々)への移住なども増え、ウチナーンチュは世界へ広がりました。1940年には県人口における海外在留者の割合は10%で日本一、2番目の熊本県が5%に満たないことを考えると移住者が非常に多かったことがわかります。
移住の理由はいろいろとありますが、貧しくて食べる物にも困る状況だったということも1つの大きな理由でした。移住した人々は苦労して稼いだお金を沖縄に送りましたが、1929年には移住者からの送金が沖縄県の歳入の66.4%にも達していたということです。また、第2次世界大戦中、移住者は移住先国で財産を没収される、強制収容所に入れられるというようなつらい目にあいましたが、地上戦で沖縄が焼け野原になったことを知ると、衣類・食料などを送り、沖縄の復興を助けました。
現在は世界各地に42万人もの沖縄にルーツある方々が暮らしています。
多くの移住者を送りだした沖縄県は、県の振興計画でも「世界に広がるウチナーネットワーク※1を基軸とする人的ネットワークの更なる発展と次世代への継承を図る」ことを掲げています。JICA沖縄では、その沖縄県の計画をサポートする「日系社会研修」を行っています。日系社会研修とは、中南米地域の日系社会と日本との連携に主導的な役割を果たす人に日本での研修に参加してもらうことで、各国の日系社会の発展と移住先国の国造りに貢献することを目的に実施している事業です。
沖縄で実施する日系社会研修の1つに「沖縄ルーツの再認識を通して学ぶソフトパワー活用と地域活性化」というコースがあります。このコースでは、沖縄の文化や自然、歴史、平和を希求する心などのソフトパワーを学び、地域社会で活躍する若者やリーダーの活動に触れ・交流することで、沖縄アイデンティティを強化し、それぞれの地域の日系社会の活性化に役立ててもらうこと、また、研修員が所属する日系地域と沖縄県とのネットワークが強化されることが期待されています。
このコースは2018年から行われていますが、2023年に研修員による同窓会が組織されました。国ごとのJICA研修員同窓会はどの国にもありますが、いろいろな国の研修員が参加するコースの同窓会は非常に珍しく、人々を引き付ける「沖縄の力」に驚くとともに、沖縄を核とする研修員の絆に、ウチナーンチュでない私はうらやましさを感じました。
同窓会メンバーは、ロニア・オキナワ入植70周年にあわせ、ボリビアのサンタクルス市中央日本人会で「ゆいまーる」というイベントを実施しました。イベントにはアルゼンチン、ブラジル、ペルー、ボリビア、メキシコの帰国研修員14名が集い、それぞれの帰国後の活動を紹介すると共に、コロニア・オキナワにある第一日本ボリビア学校の生徒と「沖縄のソフトパワーの未来」を考えるワークショップを行いました。
発表者の1人、ブラジルのレジーナ・ハルヨ・宮城・山田さんは、研修期間中に沖縄の親族との面談かかなった一人でした。自身のルーツを知ることの価値を知った彼女は、帰国後、データを持つ沖縄県立図書館とも連携し、沖縄からブラジルに移住した人のルーツと写真を調査し、900人以上の人々にその結果を届けるボランティア活動を続け、沖縄県民のブラジルへの移住の歴史と記憶の保存に活躍しています。ルーツを知ることは心の平安にもつながるセラピーのようなもの、自分を知り自分の使命を知ることができるとても大切なこと、という彼女の言葉は、私の心に深く響きました。
8月17日に行われたコロニア・オキナワの入植70周年式典には、ブラジル、ペルー、アルゼンチン等、南米各地から900人もの沖縄関係者が集まりました。中には、バスで何十時間もかけ、駆け付けたグループもありました。南米各地でそれぞれの沖縄コミュニティを維持し、沖縄文化や「ゆいまーる、いちゃりばちょーでー※2」といった沖縄の心・価値を伝え続け、何かあればこうして集う沖縄の絆と力に感動しつつ、沖縄県と世界各地の沖縄コミュニティの絆はここまで強いだろうかと思うと共に、また、この絆をもっともっと強くしていくことに、JICA沖縄としても貢献していきたい、と思った1日でした。
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