世界で一番寿命の短い国シエラレオネで「いのち」を守るJICAの挑戦

2024.10.29
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- シエラレオネ支所 現地職員 コロマ紀代美
シエラレオネでは、年間1200人の妊産婦、27000人もの幼児が亡くなっています。感染症の蔓延も深刻で毎年数千人の命を奪っています。その多くは助けられる命なのです。一人でも多くの人が健康で明るい未来を描けるようJICAはシエラレオネ政府と共に取り組んでいます。
私がシエラレオネに来たのは2005年、JICAオフィスでは2006年から働いています。当時は、首都フリータウンでも毎日停電という日々が何か月も続き、稀に電気が来ると「電気が来た!」と大声で叫びながら駆け回る子どもたちの声が町中響いていました。通りでは、行倒れになっている人が道路に横たわる姿を目にし、何もできない喪失感に包まれ、戦争の爪痕が色濃く残るフリータウンで過ごすのは苦痛でしかありませんでした。
あれから20年間、JICAで様々な活動に従事するなかで、沢山のシエラレオネ人から元気をもらいました。普段はとても温厚でおっとりとした、人の良い人々ですが、困難に直面すると頑張る一面も持っています。
2014年~15年に、西アフリカでエボラ感染症が大流行したのを覚えている方も多いと思います。完全装備の防護服を着た医療従事者のシエラレオネ人が勇敢に死に至る病の患者さんに治療を施していた姿がTVや雑誌で取り上げられました。しかしあまり知られていませんが、当時最も早く緊急支援としてテントやビニールシート、ビニール製貯水タンク、小型発電機等の物資を現地に届けたのはJICA緊急援助隊でした。急激に増加するエボラ感染症患者を収容する簡易施設を設置するのにこれら物資が大いに役に立ちました。数か月後には、欧米諸国からの支援でエボラ患者収容センターが何か所も建てられましたが、10年が経った今でも最初に支援物資を送ってくれた日本への感謝の気持ちを人々は忘れていません。
JICA供与ビニールシートとそれを使って動線仕切りを施したエボラセンター
感染が拡大した当初は、特効薬のない死に至る病と言われたエボラを恐れて、医療機関やエボラセンターを受診する患者はほとんどいませんでした。その頃まだ人々のエボラ感染の知識はとても低く、家族も「助からないのであれば、せめて最期は自宅で家族がいる中で」と思い、患者を自宅で看病していました。これが更なる感染拡大に繋がってしまいました。政府は保健スタッフに各戸訪問でエボラ患者を捜索するよう指示します。JICAはいち早くこれに呼応し、各戸訪問用のバイクを保健スタッフに供与しました。
供与されたバイクで各戸訪問をする保健スタッフ
また、1年近く全ての学校が閉鎖され、子どもたちはラジオから一方的に流れる教師の授業を聞きながら自主学習していました。ラジオが手に入らなかった子どもたちは、勉強する機会さえも奪われ、不要不急の外出禁止のため、外で友達と遊ぶこともできませんでした。
エボラ対策体制が整い少し感染数が減った頃、教育省が学校の再開を決めました。子どもたちが安全に学校で学べるように掃除用品や手洗い用品をJICAも寄贈し、学校の修復・増築も他の援助機関と共同で行いました。
9か月ぶりの教室に入る前に手洗いをする児童
エボラ感染拡大が収束した後も、JICAはシエラレオネで多くの協力を行ってきました。そんな中JICA沖縄での研修から戻ってきた保健省高官が、「日本で見た母子手帳をシエラレオネにも普及したい」と言いました。彼女は当時の保健大臣、事務次官、技官長に「このまま妊産婦や生まれてきた子どもたちを失い続けることはできない。母子手帳を使うことで医療スタッフも患者やその家族が母子保健の知識を深めることで、現状は絶対に改善する」と切々と訴え、JICA支所にもシエラレオネ版母子手帳を作る手助けをして欲しいと何度も足を運んできました。彼女の熱意にJICA支所も協力を約束し、他の国連機関やNGOも母子手帳を作るために現地オフィスにいる母子保健分野の専門性のあるスタッフを動員してくれました。2019年から開始された母子手帳開発・導入試験調査は、2022年にはその有効性が認められ、保健大臣による国家承認が公式に発表されました。財政事情の良くない中で全国普及までには、まだまだいくつもの壁がありますが、毎年25万人の妊産婦に母子手帳を届けるまでは、彼女とJICAの奮闘は続きます。
母子手帳を持って新生児健診を待つ母親
シエラレオネは、長きにわたって「世界で一番寿命の短い国」「妊娠すると死にいたるリスクが一番大きな国」との汚名をかぶってきました。実際に調査された数値がとても悪かったので仕方ないのですが、2年前までは保健分野における妊産婦死亡率は、保健省・保健分野で働く誰もがあまり聞きたくない話でした。
しかし、昨年の保健分野における死亡率発表会合は違いました。保健大臣が発表した妊産婦死亡率は、一昨年からなんと60%も改善していたのです。発表の際には保健大臣も感極まり、そこに集まった全ての人たちに繰り返し感謝の意を伝えていました。まだまだ日本に比べると平均寿命も妊産婦死亡率もとても高いですが、それを改善しようと頑張っているシエラレオネは、いつか母子の笑顔がどこにも広がっている素敵な国になっていると信じています。
ここに紹介したのはほんの一例ですが、意欲を持って頑張る元気なシエラレオネの方々には、これまで沢山出会いました。日本から少し遠いですが皆様もフリータウンに是非来て、それを感じてみてください。
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