jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

債権管理を通じた国際協力のフロンティア

#17 パートナーシップで目標を達成しよう
SDGs

2024.11.08

サムネイル
管理部 部長 府川 賢祐

学生インターンの抱負

 「国際的な債務管理プロセスにおける中国の存在について学びたい。」
少し前、我々JICA管理部が受け入れた学生インターンの抱負です。インターンというと、保健医療や農村開発など“ゲンバ”志向の印象があります。管理部は円借款の債権管理を行ういわば“バックオフィス”。なぜ研修を志望したのか、その問いかけへの答えに、いまや債権管理も国際協力の明日を模索する最前線のひとつなのだと気づかされました。

円借款と債務救済

 円借款という開発途上国への譲許的な資金の貸し付けは、日本のODAの大きな柱のひとつです。比較的まとまった金額で開発インパクトの大きなプロジェクトを実施でき、返済のための自助努力も促すことができます。借入国の経済状況や事業の実現可能性はしっかり審査して貸し付けていますが、世界的なマクロ経済環境の悪化で一時的に返済が困難になることもあります。2020年以降、コロナ禍や地域紛争、米国の金利政策等の余波を受け、多くの国が自国通貨安や外貨準備の低下に苦しみました。そうしたときに返済の繰り延べや減免で救済するのも、途上国の発展を支える開発協力のひとつの仕組みです。
 世界はこうした債務問題/危機を繰り返し経験してきました。1980年代には中南米やアフリカでの累積債務問題、1990年代末にはアジアで通貨危機がありました。その都度、国際社会は協調して危機に対処するメカニズムを作り、磨き上げてきたのです。例えば、貸し手の国々が返済を免除しても、借入国が放漫財政では問題は解決しません。一か国だけ返済を免じても、他の国々が通常通り返済を迫ったのでは借入国の負担は軽減しません。そこで、途上国向けの大口債権者(主として先進国政府)が集まり(「パリクラブ」と呼ばれ、政府対政府の公的債権を扱います)共同歩調で債務救済を行う、その代わり借入国はIMFプログラムを受け入れ経済・財政改革に努める体系が構築されてきました。

パリクラブの様子。仏・経済財政省が主催し、パリで開催されることからこの名で呼ばれる。

コロナ後に見えてきたこと

 しかし、コロナ後に顕在化してきた途上国債務問題が直面したのは、まったく新しい光景でした。開発途上国向け債権に占めるパリクラブ債権国のシェアは大幅に低下し、中国、インドといった新興国や途上国の発行する国債への民間投資家の比重が急増していたのです。これではパリクラブメンバー国だけで議論しても解決策を導くことはできません。
 「債務支払いの軽減に応じてほしい」。2021年以降、いくつかの国々が切実な声を上げました。その中のザンビアやチャドといったアフリカの国々は馴染みが薄いかもしれませんが、スリランカのデフォルト宣言は大統領の追放劇につながり、日本のメディアでも大きく取り上げられたのをご記憶ではないでしょうか。これらの国々の要請に対し、パリクラブメンバー国と中国、インドなどの新興国が協働する枠組みが作られ真剣な議論が進みました。日本も財務省が国際社会をリードしてスリランカの債務再編に主導的な役割を果たしました。(財務省広報誌「ファイナンス」令和5年6月号

IMF資料を加工。コロナ禍後に債務の繰り延べ措置を受けた国々の債務構成の変化。中国(黄)と国債投資家(Eurobonds、オレンジ)の新興債権者に対する債務が急増している。

新しい国際ルールに向けて

 話し合いの中で見えてきたのは、パリクラブメンバー国には当たり前の議論も新興国にとってはそうではないということです。多くの個別会合や国際会議(例として、IMF・世銀による「グローバル・ソブリン債務ラウンドテーブル」(GSDR))が開催され、共通理解の醸成を目指しました。
 新興国サイドからは、IMFの債務分析の内容がよく分からないという率直な声や、そもそも国際協調ではなく債務国とのバイラテラル(二国間)での解決を目指したいとの本音ものぞきます。今回初めて本格的に債務再編を議論する新興国においては、国内に意思決定メカニズムが確立していない様子もうかがえました。ザンビアの債務再編について関係国が意見の一致を見たのは、実に要請から3年後のことでした。
 債務再編の仕組みは、法律や条約で定められたものではありません。債権国、債務国、国際機関の信頼関係に基づくものです。JICAのビジョン「信頼で世界をつなぐ」、それは債務再編を巡る議論でも重要な羅針盤となっています。
 今、私たちが前提としている債務救済の仕組みも、先人たちが議論に議論を重ねてたどり着いたもの。今日の議論が明日の国際社会を創る、債務再編への取組みもまた熱いゲンバ、国際協力のフロンティアなのです。

JICAは開発途上国政府の債務管理の能力強化にも貢献している。写真の課題別研修では世銀とも連携、各国の債務管理を担う行政官が多数参加する人気コースだ。

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn