日本での就労経験のブランド化を通じたウズベキスタンの発展を目指して
2024.11.12
- ウズベキスタン事務所 次長 三島 健史
日本で外国人労働者の確保が急務となっており、親日国であるウズベキスタンでも日本での就労希望する人が年々増えています。ウズベキスタンの就労者を取り巻く環境と課題、そしてJICAに求められる役割について考えます。
日本は少子高齢化に直面しており、経済を維持して成長させていくためには、まだまだ生産年齢人口が足りず、日本人だけでは賄えないと言われています。日本に居住する外国人数は増え、2021年末の280万人から2023年末には約340万人になり、こうした外国人は日本の不足する生産年齢人口に大きく貢献していますが、2040年には97万人も外国人労働者が必要ともいわれています。
2023年末時点で、在留外国人数は約340万人。うち、ウズベク人は、6,500人にすぎません。これは、ベトナム56万人、フィリピン32万人、ブラジル21万人、ネパール17万人と比べるとかなり少ないです。
しかし、日本に居住するウズベク人は年々増え続けています。10年前は1,000人程度だったのが、現在では約6倍です。なぜでしょうか。
第一に、ウズベキスタン政府には、日本への送り出しを強化する動きがあるためです。同国は、200万人以上がロシアなどで就労する出稼ぎ国家ですが、昨今の国際情勢の変化から、出稼ぎ先の多角化が経済の安全保障上も重要になってきています。
第二に、国内産業の育成のためです。ウズベキスタンは、人口3,600万人のうち、30歳までの若年層人口が50%以上を占めることもあり、若者の雇用創出が課題になっています。他方、雇用創出のためには、国内産業の発展が必要ですが、現在ウズベキスタンには国内産業が十分育っておらず、そのため国内での人材育成は難しいことから、産業のある日本での就労に期待が高まっています。
第三に、日本側の事情として、優秀な人材を求めて、東南アジア等の既存の人材供給国に加えて、ウズベキスタンに注目する企業も増えてきているためです。同国は親日的でかつ教育水準も高く(識字率100%)、目上の人を敬うなどアジア的なカルチャーを持っていることも重要なようで、知る人ぞ知る新天地となっています。
日本での就労人口が増えきてはいるものの、黎明期であるがゆえの問題も顕在化してきました。日本に来る多くのウズベク人は、具体的な日本の情報をほとんど持たずに来日します。日本にいる先輩の人数も少なく、口コミ情報も殆どありません。親日的であるからこそ、憧憬だけを抱いて、何も知らないまま、就労や留学をします。日本でしか学べないことを学びたいという想いがある一方で、「想定外に何も学べなかった」というミスマッチを起こしています。日本に来てもお金は稼げたが学べなかったとなるのは大変残念です。
せっかく日本に働きに来てもらうのであれば、日本から様々なことを学びとってもらい、ウズベキスタンに持ち帰ってもらって、自国の産業発展のためにその経験を活用してもらいたい、先輩の活躍を知った後輩に日本を目指してもらいたい、というのがJICAの想いです。この「良い循環」を構築することが重要だと考えています。
JICAにウズベキスタン政府から頻繁に要望があるのが、派遣前の技能訓練や日本語教育です。しかしながらこのような訓練や教育は人材を採用したい当事者である受入企業が自ら投資し、候補者に借金を背負わせない形で人材を育成して採用するのが望ましいと考えます。採用したい人材像を明確に把握している受入企業が率先して教育する方が効果が高く、すでに当地で実践している立派な日本企業も現れ始めています。
ウズベキスタンにおいてJICAがすべきことは、直接人材育成やリクルートに携わるのではなく、「良い循環」のための仕組みを下支えすることにあると思っています。学びの場を与えてくれる良い受入企業に、目標を持ったやる気のある人材が就労できる仕組みを作ることです。そのためには、就労希望者が十分な情報にアクセスし、自らのキャリアを考え、自分に合った良い受入企業を選択できるようになる必要があります。また、企業側が、日本就労に明確な目標を有している人材を見つけやすくするということも重要です。しかし、まだまだウズベキスタンと日本はお互いにとって「遠い国」です。まずはJICAが仲立ちして、両サイドが信頼できる情報の提供をしていきたいと思っています。
JICAは、2024年3月から「日本での就労経験を活用した産業人材育成プロジェクト(通称GROW)」を開始しました。日本で働きたいウズベク人のために、日本キャリアポータルというウェブサイトを立ち上げ、正しい就労方法、良い就労先の選び方、生活の豆知識、失敗・トラブル事例などを発信し、就労希望者が自らの進路を正しく選択できるような環境を整備・支援します。
また、今後は日本就労に明確な目標が持てるように、日本で就労した諸先輩の声をまとめ、日本就労の価値を見える化・ブランド化していきます。これにより、就労希望者が「日本ではこれを習得するんだ!」というキャリア形成の意識づけが強化されることを期待しています。また、この日本就労ブランドが、ウズベキスタン企業にも認知してもらえれば、経験者の帰国後の就労可能性も高まるので、日本での就労経験をウズベキスタンの産業発展のために生かせる機会が増えていくはずです。
受入企業側も、本ポータルを通じて、「遠い国」のウズベク人を身近に感じていただければ、これまで以上に交流も深まると思います。こうした活動を通じて、「良い循環」が出来ていくものと信じています。
日本の建設現場で足場職人として働くウズベク人。
JICA技術協力プロジェクトの専門家チーム。3名の専門家で活動中。
Japan Career Portal の一例。受入企業及び就労希望者に就労経験者の声を届ける活動も実施。
scroll