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地雷対策を通じて平和をつくる

#16 平和と公正をすべての人に
SDGs

2024.11.21

サムネイル
ガバナンス・平和構築部 平和構築室 副室長 島田 具子

2024年9月、カンボジアを訪問し、今後の地雷・不発弾対策への協力について関係機関と協議を行いました。
2012年に担当として無償資金協力の案件形成のために渡航して以来、約12年ぶりのカンボジア訪問となりました。今回、大きく感銘を受けたのが、自国の地雷対策を行うという枠を超えた、カンボジア地雷対策機関であるCMAC(Cambodian Mine Action Centre)の役割の拡大と成長ぶりでした。

CMACの国際協力の拡大

2012年当時は、CMACの経験を他の地雷・不発弾汚染国に伝えるための南南協力を、コロンビアとラオスに展開し始めたところでした。現在、それがイラク、アンゴラ、さらにウクライナやアフリカの国々へと広がり、CMACで知見共有や研修を受けた人材は延べ500人以上になりました。
今年7月にはエチオピアにCMAC職員が渡航し、地雷汚染当事国としてオーナーシップをもって地雷対策を進めることの重要性を伝え、8月にはカンボジアで、地雷除去に携わるウクライナ非常事態庁の職員らに地雷除去機の運用や維持管理の研修を実施しました。
このように、ここ数年のCMACは、目覚ましいほどの活動を世界に展開しています。CMACと出会った多くの国の地雷対策機関の人々は、「CMACからもっと学びたい」「現場で多くの話を聞きたい」と要望します。
何がそこまで彼らの心を動かすのか。それは、自分たちの手で自国の平和と発展の基礎を作ってきたという、CMACのプライドに心を動かされるからなのかもしれません。

ウクライナ非常事態庁職員たちもカンボジアで研修を行った。

新たな協力のステージに向けて

2024年7月、日本政府は今年7月、「地雷対策支援に関する包括的パッケージ」と「日カンボジア地雷イニシアティブ」の立ち上げを発表し、これまでの協力をさらに発展させ、世界の地雷被害国に向けて日本とカンボジアが協力して支援を展開していくことを表明しました。そのため、CMAC内に国際協力チームを創設することについても表明しています。
冒頭の出張中の協議でも、これら取り組みをCMACとしてどう進めて行くか、そのためにどのような組織・人材体制が必要となるか、先方の幹部職員たちとともに真剣に議論しました。最終的に、CMACにとっても新たなチャレンジになる取り組みを、JICAとしてもしっかり支えていくことを誓って、新しい技術協力プロジェクトの開始に向けた協議結果に関する文書に署名しました。

新たな技術協力プロジェクトの協議文書署名式にて(手前左が筆者、右はCMACラタナ長官)

地雷対策平和博物館への思い

今回出張でもう一つ感銘を受けたのは、シェムリアップにある地雷対策平和博物館です。
2012年にCMACのヘン・ラタナ長官が沖縄を訪問した際、沖縄県の平和祈念資料館を訪問したことがきっかけで作られたものです。ラタナ長官は、平和の尊さ、大切さを伝えるというメッセージに非常に心を打たれたと言います。また、住民視点による戦争被害の実相を克明に紹介する展示内容にも感銘を受け、地雷対策機関であるCMAC自身が取り組んでいかなければならないと考えたとのことです。このような背景から、2017年、CMACが自己資金で博物館を開設しました。
館内を案内してくれた博物館長によると、まだ戦争の記憶を鮮明に持つ世代のカンボジアの人々とって、展示は辛く苦しい記憶を呼び起こされるもので、一歩中に入ると立ちすくんで動けなくなる人もいるということでした。しかし、当時のことを知らない若い世代に対しては、二度とあってはならないことが、実際にカンボジアで起きたのだということ、それを博物館がしっかり伝えていきたい、と強く語ってくれました。

CMAC地雷対策平和博物館の見学(一番右が現館長、右から2番目が筆者)

より広く、若い世代や海外からの訪問者にも平和の尊さや地雷対策について伝えたい、というCMACからの要請により、日本の無償資金協力を通じて、新たな博物館の建設が現場で進んでいます。上から見ると地雷の形に見えるように、とラタナ長官が提案したデザインになる予定です。2026年の開館を目指しています。

新博物館建設現場。着工したばかりで、2026年の開館を目指している。

沖縄から伝える平和を希求するこころ

この博物館に対して、JICAは建物だけではなく、内容を伝える人材の育成にも力を入れています。
2023年11月、草の根技術協力事業「地雷対策を通した平和と人間の安全保障の啓発・普及のための博物館づくり」を開始しました。この事業では、沖縄県と特定非営利活動法人沖縄平和協力センター(OPAC)の協力の下、博物館の運営や企画を担う人材を育成しています。CMAC長官が沖縄の思いに感銘を受けたことを知った関係者の皆さんが、CMACのためにひと肌脱ごう、という気持ちになってくださったことで実現した協力です。
現場では、CMACが最初は除去した地雷や不発弾を積み上げる展示をしていたところ、展示物と見る人を繋ぐストーリーの重要性など、新博物館の内装や展示方法の工夫についても助言をいただいていると聞いています。
沖縄のこころと平和を願う想いが、海を越えて伝わっていることを実感しています。

沖縄・草の根技術協力事業の署名式

対人地雷禁止条約(オタワ条約)への貢献

2024年11月、カンボジア・シェムリアップにて対人地雷禁止条約(通称オタワ条約)の第五回検討会議※1が開催されます。この条約では、締約国が対人地雷の使用や生産等を全面的に禁止するとともに、地雷除去や被害者支援に向けた国際協力を推進しています。5年ごとに開催される本検討会議は、5年間の行動計画の振り返りや次のステップを確認する機会となっています。2025年には、オタワ条約締約国会議の議長職がカンボジアから日本へ引き継がれることも決定しており、日本にとっても重要な国際会議となります。JICAは、CMACやアフリカの地雷対策機関、国連などの関係機関とともに、CMACの知見を活かしたアフリカの地雷被害国自身の能力強化支援について語るパネルディスカッションを実施します。

対人地雷・不発弾が生活を脅かさないような平和な状況を作っていきたい、というCMACとともに、JICAも歩んでいきたいと思います。

  • ※ 1 5年に1回開催され、先回検討会議に採択された行動計画に基づき包括的な条約の履行状況について議論され、新たな行動計画が採択される。

JICA グローバル・アジェンダ「平和構築」ウェブサイト
JICA グローバル・アジェンダ「平和構築」リーフレット
JICAの 地雷・不発弾対策 リーフレット

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