JICA債を通じた国際協力への参加
2024.11.25
- 財務部 財務第一課 課長 北村 周
JICAは、有償資金協力を実施するための財源として資本市場からの債券調達も行っています。このJICA債は、2008年以降、毎年発行を続け、国内累積発行額は9,000億円を超えています。この債券発行活動を取り巻く環境やJICA独自の取り組みについてご紹介します。
昨今、投資家の債券購入の判断においては、利回りや発行者の経営・財務情報だけでなく、投資資金が社会課題の解決等に貢献しているのか、ということへの関心が高まっています。こうしたニーズに応えた債券は、広く社会解決課題に貢献する事業を行うための資金調達を行う場合にはソーシャル・ボンド、地球温暖化対策への活用に限定して資金調達を行う場合にはグリーン・ボンドなどと呼ばれ、特に2015年に国連持続可能な開発サミットで「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択されて以降、その市場規模は国内外で拡大しています。併せて、証券業の国際的団体である国際資本市場協会(International Capital Market Association)により、ソーシャル・ボンドやグリーン・ボンドと認定されるための基準の作成などが進んでいます。
JICAが行う事業は、従来から途上国が抱える社会課題の解決支援を目的としており、 2016年に国内で初めてソーシャル・ボンドを発行し、以降、国内・グローバル市場の両方で発行実績を重ねてきました。2023年からは、社会課題解決だけでなく気候変動対策等の環境課題解決も対象に資金調達をするサステナビリティ・ボンドを発行しています。
ソーシャル・ボンドやサステナビリティ・ボンド(以下、「ESG債」と総称)として債券発行する場合、債券発行資金を充当する対象案件を特定して、その活用状況を追跡して毎年ホームページで公表する、或いは、対象案件のもたらすインパクト(開発事業効果)を取りまとめて開示する必要があり、一定の負担を伴います。
一方で、この活動には様々なメリットもあります。まず、JICA財務部は日頃から投資家との意見交換を行っていますが、ESGへの配慮や投資事業の非金銭的な効果なども加味して投資対象を選別する投資家が徐々に増えており、ESG債として発行することで新たなJICA債購入者の拡大に貢献していることを実感しています。また、毎年数回行う債券発行の度に共同主幹事の証券会社の方々と共同で展開する広報活動は、JICAが実施する国際協力活動への認識を説明する機会となっています。加えて、JICAが債券発行することは、購入者に対して、投資という形態で国際協力事業への資金貢献を行うことを可能として、国際協力を「自分ごと」として捉える機会を提供していることにもなります。JICA債は、機関投資家向け債券だけでなく、一口1万円から購入可能な個人向け債券(リテール債)として発行することもあり、ひとりでも多くの方々に関心を持っていただきたいと思います。
JICAならではのユニークな取り組みとして、その時々の国際的な経済・社会環境に応じて発行する「テーマ債」の発行があります。2019年に日本政府がアフリカ開発をテーマとする国際会議であるアフリカ開発会議(TICAD)を主催したことを受けて、アフリカ向け事業への充当を目的としたTICAD債を発行したのが最初です。2020年には、新型コロナウイルス対策への支援事業に資金を充当する新型コロナウイルス対応ソーシャル・ボンドを発行し、以降、2021年のジェンダーボンド、2022年のピースビルディングボンド、2023年の防災・復興ボンドと継続しています。
今年は11月に、2021年に続いて2回目のジェンダーボンドを発行しました。調達資金は、女性の経済的な自立やジェンダー平等の推進を支援する事業などに活用していきます。例えば、女性起業家に対して起業資金を提供する金融機関への出資・融資や、男性優位が根強く残る国・地域において水資源や森林資源の管理に女性の参加を促進する灌漑事業・植林事業への融資などに活用します。JICAとしては、こうした明確な目的を持って債券発行をすることで、「ジェンダー支援」というコンセプトに共感した債券購入者に具体事業への投資機会を提供する、或いは、債券発行のIR活動(投資家向け広報活動)を展開することを通じて、ジェンダー平等推進などの取り組みを啓発することにもつながると考えています。
ラジャスタン州(インド)の農業地域における自助組織の参加者たち
ヒマーチャル・プラデシュ州(インド)で実施する森林管理事業において生計向上活動の一環として農産品加工に取り組む女性
債券をあらわす英語はbondですが、これには「絆」という意味もあります。JICAの債券発行は、資金面で債券購入者と最終的な事業とを仲介するものですが、これに留まらず、国際協力現場の情報を投資家の皆さまにお届けし、また逆に、皆さまの声を受け取りながら、少しでも多くの方々が国際協力事業との絆をつくりだす橋渡しする役割を担っています。JICA財務部では、同じ志を持つ日本の金融業界の方々とともに、こうした活動を続けていきたいと考えています。
以 上
scroll