あの日から30年~次代へと続く阪神・淡路大震災からの学び~

2025.01.17
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- 関西センター 研修業務課/国際防災研修センター 課長 糸山大志
阪神・淡路大震災から30年が過ぎました。現在も1月17日に神戸で行われている営みや、防災分野の研修での特徴的な取組をご紹介しながら、取組の中でご縁をいただいた高校生の皆さんの思いにも触れたいと思います。
まず、震災によりお亡くなりになられた方々に哀悼の意を表するとともに、御遺族の皆様にお悔やみを申し上げます。
また、復興や記憶の継承に尽力されてこられた皆様に敬意を表します。
震災を経験していない高校生が、ボランティアなんだ――。
「1・17のつどい」の期間中、灯り続ける竹灯籠
制服姿の高校生から声をかけられて驚いたのは、ちょうど1年前、神戸市内の東遊園地でのことでした。東遊園地は1月16日の夕方から17日にかけて行われる「1・17のつどい」の会場となり、数多くの竹灯籠と紙灯籠が、その年の「言葉」を形作るように並んでいます。
「火をどうぞ」
そう私に声をかけてくれた彼女は、会場で来場者に火を配るボランティアです。彼女は私が手にしていた長いロウソクを灯してくれました。
「どうしてボランティアを希望したのですか?」
彼女の想いを知りたくて、そう声をかけようと思いましたが、火を配るべき人を探し続ける彼女の姿を見て、私もまた、自分のロウソクを託すべき灯籠を求め始めました。
ロウソクの火が消えている灯籠を見つけた私は、手にしているもう一つの短いロウソクをそこに重ねて置き、火をもらったばかりの長いロウソクを使って再びその灯籠に火を灯しました。
JICAは、阪神・淡路大震災の教訓を有する兵庫県と共同で「国際防災研修センター」を設立し、JICA関西において防災分野の研修を多数実施しています。「1・17のつどい」の他にも、1月17日の神戸では「メモリアル・ウォーク」という行事も行われ、この時期に来日する防災分野の研修員の皆さんは必ず参加しています。
震災は遠い異国のことであるはずの研修員の皆さんも、復興の過程を偲びながら神戸の街を歩きます。それができるのは、彼らがJICA関西に隣接する「人と防災未来センター」を訪れていて、ジオラマ模型で再現された震災直後の街並みを様々な思いで眺めているからなのです。
メモリアル・ウォーク
兵庫県内では多くの高校生たちが防災活動を行っていて、JICA関西で取り組んでいる防災分野の研修では、「メモリアル・ウォーク」のような行事に参加する他にも、そのような高校との交流を研修プログラムに組み込み、高校生たちからも気づきを得ています。
科学技術高校の生徒の皆さんによる水害対策の実演
昨年6月には、神戸市立科学技術高校を訪問し、活動を紹介してもらいました。
生徒の皆さんは「治水対策を施した川沿いの街並み」と「対策を施していない川沿いの街並み」を並べた立体模型を製作していて、水に見立てたビーズを傾斜のある「川」に流し、ビーズの行方で大雨の影響を示してくれました。
各国で防災の専門家として活躍する研修員の皆さんも、ビーズの流れ方の違いに目を見張っていました。
震災のあった神戸。
そこに生まれ育った生徒の皆さんが、地震ではなく大雨による被害に遭った方々に思いを馳せて、その対策を示している姿は、ビーズが描いた二通りの軌跡以上に私の心に刻まれました。
JICAの防災研修を中心とした「国際防災研修センター」の取組は、世界の重要な課題を解決する良質なプロジェクトとして、大阪・関西万博の「ベストプラクティス」に選出されました(選出日時点で候補となった取組2,167件の中から25件が選出)。
ひとたび自然災害を被れば、生計の術を絶たれ貧困に苦しむ人々や、住み慣れた土地を離れざるをえない人々が生まれます。「防災」の取組は、そういった事態の発生を未然に防ぐ活動だと言えるのではないでしょうか。
マイナスをゼロに戻す協力や、ゼロからプラスを生み出す協力とは異なり、ゼロからマイナスになることを防ぐ協力は成果が見えづらいものです。「国際防災研修センター」の取組が「ベストプラクティス」に選出されたことは、そんな「防災」の意義が世界に認められた証だと、私は受け止めています。
そして、そんな選出の瞬間も「防災」の取組を発信し続けている高校生たち。被災された方々から経験を語り継いでもらってきた子供たちは、大人たちが頭で理解するよりも早く、「防災」の意義を心で感じ取っていたのかもしれません。
「どうして『防災』の活動に取り組んでいるのですか?」
科学技術高校を訪問した日、今度は生徒の皆さんに尋ねることができました。その答えを記して、私のブログを終えたいと思います。
「神戸で育ったこともあり、防災は幼い時から身近に感じていましたが、各地で起こる様々な災害で被災する人たちを目にするまでは、どこかで“私は大丈夫”と思う自分もいました。防災を学んでいくうちに、多くの人が防災の知識を持つことが大切だと感じ、様々な人を巻き込んだ活動を行い、大きな力にしていきたいと思うようになりました。この啓発活動によって、災害はいつでも自分の身に起こりうることだという防災意識が高まり、多くの人が命や生活を守る行動をとることに繋がればいいな、そう思っています」
※神戸市立科学技術高校に関する記載内容および写真については、同校のご了解をいただいています。
※「人と防災未来センター」には、震災追体験のフロアの他にも、「BOSAIサイエンスフィールド」というフロアがあります。そこには、楽しみながら最新の防災知識を学び、自然災害に備える力を養うことを目的とした様々なコーナーが設けられていて、「防災」への入り口として多くの方に親しまれています。
5:46a.m.を壁面で伝える「人と防災未来センター」
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