ラオスとJICA 70年目の「結ぶ、繋ぐ、紡ぐ」
2025.01.24
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- ラオス事務所 所長 小林美弥子
2025年は日ラオ外交70周年、協力隊派遣60周年。ラオスの美しい伝統織物をモチーフとした「結ぶ、繋ぐ、紡ぐ」から、これまでの人材育成や共創の取組みを通し、「人材(財)」が新たな時代を切り拓く原動力となることを希望を込めて紹介します。
赤、青、緑など鮮やかな布地に、地域により異なる刺繍や模様が施された民族衣装「シン」を纏い、緊張した面持ちのJICA協力隊員。2024年12月、ラオスのソーンサイ・シーパンドン首相と協力隊員の面談が今年も実現しました。実は、ラオスの首相が派遣中の協力隊員全員と面談するのは、コロナ期間を除き、2002年以降続いています。一国の首相が毎年、海外のボランティア全員と面談する国は非常に珍しく、それだけ協力隊員がラオスの人々にとって大切な存在であることを物語っています。
2024年12月10日 ソーンサイ・シーパンドン首相を協力隊が表敬訪問
ラオスは、日本が世界で初めて協力隊を派遣した国であり、2025年に60周年を迎えました。また、今年は両国の外交樹立70周年という節目の年でもあります。これら節目の年を象徴するテーマとして、派遣中隊員から提案されたのが「結ぶ、繋ぐ、紡ぐ」。ラオスの美しい伝統織物ができるまでの工程をイメージさせる、それぞれの言葉の意味合いと、それを表す実例を通じて、両国の絆を見ていきます。
1965年、世界で初めて協力隊としてビエンチャン空港に到着した5人の隊員
JICAはこれまで、インフラ、法整備、保健、農業、教育、森林保全など多岐にわたる分野でラオスを支援してきました。1964年にラオスで初の浄水場となるカオリオ浄水場や1971年に完成したナムグムダムを始めとするインフラは、ラオスの発展を支える重要な役割を果たしました。パクセー橋は紙幣に、国道13号線橋梁、国道9号線、第2メコン橋は、ラオスの切手になっています。いずれの案件もラオスの人々の日常に溶け込み、日本とラオスの友好の象徴とも言えます。
紙幣や切手のデザインになっている日本の援助による橋や道路
ラオスと日本を繋ぐ役割を担ってきたのが、協力隊や留学生です。これまでラオスに派遣された協力隊員は累計1,094人にのぼります。ラオスの首相やカウンターパートからは、「ラオスで母子手帳を含め、母子保健が浸透したのは協力隊員のおかげ。隊員は日本とラオスの”宝”である」との言葉を頂き、関係者の胸に刻まれています。現在も教育や看護師・助産師、水質検査、コミュニティ開発など多くの分野で活動を行い、日本での知見を共有しながら、ラオスの文化や生活を理解し、日本との絆を築いています。また、帰国後も、ラオスの布を使った洋服や雑貨の製造・販売、カフェやレストラン経営など、多くの元隊員がラオスと日本の双方で活躍されています。
また、JICAプログラムを通じて日本に留学したラオス人は660人にのぼります。これらの留学生は帰国後、政府、教育機関、民間企業等で活躍し、両国の交流をさらに深める重要な役割を果たしています。現在、教育スポーツ大臣、保健大臣、計画投資省の副大臣等が日本留学組であり、政府要人の中に知日・親日派が数多く存在しています。こうした人と人とのネットワークが、ラオスと日本の未来を「繋ぐ」土台、ラオスの国造りの土台となっています。
ラオスの伝統的な織物が、異なる色の糸と糸を紡いで美しい布を織り上げるように、JICAの支援も人々や組織(糸)を結びつけ、新たな価値(布)を創造しています。その中核をなすのが「共創」の理念です。JICAは、国際機関、民間企業、地方自治体、大学、NPO/NGOと連携し、さまざまな活動を展開しています。
緑の気候基金(GCF)との連携は、外部資金獲得につながった事例です。2015~18年に行われた森林保全により、ラオスの排出削減目標が達成されたことで、GCFのREDD(森林減少・劣化からの温室効果ガス排出削減)と成果支払いプログラムからの受領額が、最大で45百万ドルの見込みとなりました。また、ラオス全土の小学校全学年で使われる算数の教科書は日本の民間の教科書会社と共同開発されたものです。その他、長岡造形大学による草の根技術協力を通じた観光商品デザイン開発、NPO法人ADDPとビエンチャン市内にあるチャオ・アヌウォン・スタジアム改築を通した障害者の社会参加やパラスポーツ促進、埼玉県やさいたま市、川崎市、横浜市といった地方自治体との水道事業などがあげられます。また、香川県ファーマーズ協同組合では、技能実習生の帰国後の企業支援等を目的にシェンクアン県に農業法人を設立し、日本向け農産品の産地形成を進めてきました。このように、長い期間にわたる様々なパートナーとの共創により、ラオスで新たな価値が発現しています。
日本の教科書会社と共同開発した算数教科書で小学生が算数の授業を学んでいる様子
長岡造形大学による「シン」を再利用し、村人らのデザインによる世界で一つの観光商品
シェンクアン県の田園風景
香川県で働く技能実習生
ラオスは対外公的債務が対GDP比108%(2024年、IMF)と厳しい財政事情にあり、歳出削減策の一環として、教育や保健など社会セクターへの支出がGDP比0.7%と抑制されています。一方、中長期的な視点からは経済社会開発の土台づくりとしての人材育成はますます重要であると考えます。ラオスにおけるJICAの歴史は人材育成の歩みともいえます。このような厳しい財政状況のラオスにおいてこそ、70周年のタイミングで、過去から現在への結びとなるアセット、日本とラオスを繋ぐ人材、紡いできた価値を見つめ直し、それらの関係をさらに強化していく時機だと考えます。
協力隊員、JICA留学生、カウンターパート、専門家、コンサルタントなども含め、これまでラオスと日本を繋いできた人々は両国にとって「宝」です。この「人材(財)」こそが、新たな時代を切り拓く原動力となると信じています。
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