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JICA事業関係者の安全と健康を守る

2025.01.27

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安全管理部 部長 藤本正也

日頃あまり意識することのない方々もいらっしゃるかもしれませんが、海外における安全と健康をテーマに、JICAの取組のこれまでとこれからについてご紹介します。

安全対策強化の歩み

 7月はJICAのスタッフが忘れてはならない、人命にかかわる重大な事案が発生した月です。1991年7月、ペルーのワラルで3名の技術協力専門家の方々が、そして2016年7月にはバングラデシュのダッカで7名のコンサルタントの方々がいずれもテロの犠牲となり尊い命を落とされました。
 2016年8月、ダッカでの事件を踏まえ、外務省とJICAは外部有識者の意見も仰ぎつつ『国際協力事業安全対策会議最終報告』を取りまとめ、公表しました。この報告の中で、「安全はタダである」との認識は完全に過去のものであることや、組織のトップ自らが安全確保に関する問題意識を強く持ち不断に対策を進めることが不可欠であるとの認識を示しました。また報告を踏まえ、北岡伸一理事長(当時)の強い決意のもと、JICAは安全対策の抜本的な強化を進めました。
 当時総務部安全管理室長をしていた私は、組織を挙げての取組の一端を担い、以下のような各種対策強化の実務を推進しました。

●体制の強化:本部担当部門を安全管理「部」に格上げし大幅に増員するとともにリスクの高い国には安全管理を専任で担当する邦人スタッフを計35名配置。各国・地域の治安情報収集・分析の強化、リスクに応じた適時適切な対策を立案・実施できる体制を整備

●渡航前の情報提供:JICAが定める各国・地域ごとの安全対策措置をJICAの事業に関わる全ての関係者がリアルタイムで確認できる体制を整備。そのうち治安への懸念が高い国については安全対策ブリーフの渡航前実施を徹底

●渡航中のサポート:本部および在外各拠点が24時間体制で治安情勢をモニタリングし必要な情報を渡航者へ随時発信。有事の迅速な安否確認のためのシステムを導入

●各種安全対策研修:渡航者が自らの安全を守るための研修(座学・実技)や事業に関わる各組織の安全管理担当者向け研修を新設し、国際協力事業関係者向けに実施(2016年度から2023年度までの累計参加者数は4万人弱、2024年度は12月までに4,500人余り)。実技研修については高いニーズに応えるべく受講者枠を拡大予定

●国際機関との連携強化:国連安全保安局(UNDSS)と協力覚書を締結、各国における平時の情報交換や有事の円滑な協働などに向けた連携を強化

「安全対策宣言」

 テロ以外にも、渡航先での病気や交通事故、強盗、工事事故などによっても多くの方々が志半ばにして尊い命を落とされています。また、コロナ禍により一時減少した事業関係者の渡航人数が回復する一方で、景気後退や各地で発生している紛争等に起因する物価高騰・食糧危機等も相まって、関係者の一般犯罪被害の増加・凶悪化が顕著となっています。そうした中、JICAは2022年10月に「安全対策宣言」を改定・発表しました。世界が複合的危機に直面するなか、JICAは「信頼で世界をつなぐ」というビジョン実現のために協力現場に出向く活動を重視するとともに、渡航される方々の安全と健康に万全を期すべく、「人命最優先」「最適の安全対策」「当事者意識」の三つの柱からなる取組の推進を誓うものです。

安全管理・健康管理は「運動」

 この「宣言」を実質的なものとするためには実践が伴わなくてはなりません。渡航される方々に無事に帰ってきていただくためには、JICAとしての安全管理・健康管理の取組を不断に強化するとともに、渡航される方々一人ひとりの意識を高めリスクを減らす行動を促す必要があります。
 私は安全対策は「運動」であると思っています。何かルールを定めて関係者へメールを流せば渡航される方々の安全が確保される、そんな単純なものではなく、渡航される方々の安全への意識が高まり行動変容が伴い続けることによって初めてリスクが最小化されるのです。そのためには組織として情報収集・分析を踏まえた適切な対策を国・地域ごとに設定し、渡航者の行動変容に繋がる具体的な情報や行動規範を意識の残る形で適時に提供し続ける必要があります。そこに向かってみなで工夫・チャレンジを継続していかねばなりません。

思いを繋ぐ

 2022年、2023年にワラルとダッカのテロ事件現場を訪れました。いずれも安全管理部長として何としても手を合わせさせていただきたかった場所でした。二度とこのような痛ましい事態を繰り返してはならないと、強く心に刻みました。
 JICAでは毎年市ヶ谷の緒方研究所にある「国際協力の碑」の前で慰霊式を開催しています。JICAの事業に関わり命を落とされた全ての方々を慰霊するとともに、国際協力事業関係者の人命と安全の確保を最優先に開発協力を行っていくことをスタッフ一同で心に誓う場です。2024年は11月7日に開催、田中理事長は、事業に携わる一人ひとりが安全対策を「自分事」として捉え、安全意識の向上と行動変容の推進に努めることの重要性について述べました。また、過去の重大事件を組織の記憶として継承し、安全重視の組織文化を一層醸成していくことへの決意を示しました。
 2025年1月、安全管理部に安全啓発推進役ポストを新設するとともに、計画・安全啓発課を設置しました。組織としての取組をより持続的かつ強固なものとしていく覚悟を形にしたものです。
 途上国とそこで暮らす人々のために現場へ出向き無念にも命を落とされた一人ひとりの思いを胸に、開発途上国に寄り添う事業を止めないための「運動」に、事業関係者のみなさんとともにこれからも取り組み続けます。

国際協力の碑「共により良い未来をめざして」

JICA事業に関わる中で亡くなられた関係者の方々の功績を心に刻み、その活動と精神を引き継いで一層の努力を重ねていく決意を新たにすべくJICA関係者有志が建立に着手、募金をお寄せくださった1,900名近くにのぼる国内外関係者の方々及び多数の関係団体の皆様のご支援・ご協力により、1993年に建立されました。

2024年慰霊式 田中理事長による献花

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