「誰も取り残さない教育」を共に創る


2025.02.10
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- 人間開発部 基礎教育グループ長 松山剛士
開発途上国の社会課題解決には多様な関係者との「共創」が一層必要です。JICAは多くの子どもたちにより良い教育を届けるため、基礎教育協力において国内外の関係者との共創に積極的に取り組んでいます。
これまでの基礎教育普及の取り組みにより、開発途上国では多くの子どもが初等教育を受けられるようになりました。一方、必要最低限の読み書き計算ができない子どもと若者は6.1億人以上おり、ジェンダーや障害、紛争など様々な理由で学校に通えない子どもは2.5億人以上います。また感染症、紛争、自然災害等様々な危機の影響により、学校が閉鎖され、学ぶことが難しくなってしまった子どもたちが多くいます。こうした学びの危機に直面している現在、開発途上国への教育協力は引き続き重要だと思います(こちらも参照:教育がつくる 人の未来 社会の未来 | JICA Magazine | 広報誌 JICAマガジン)
こうした課題を解決するには、持続可能な開発目標(SDGs)でも強調されているとおり多様な人たちが自らの強みを活かして、知恵を出し合い、力をあわせていくことが必要です。そこでJICAは、基礎教育協力において他開発協力機関との共創、国内関係者との共創、そして開発途上国と日本との学び合いを通じた「共創」に力を入れています。最近の取り組みをご紹介します。
基礎教育分野においてJICAは、国の教育制度の改善や、質の高い教育を実現するモデルづくりに取り組んでいますが、この事業効果を拡大してより多くの子どもたちにより良い教育を届けるために、JICAはこれまで世界銀行、ユニセフなど数多くの機関と連携してきました。最近は世界最大規模の教育基金であるGPE (Global Partnership for Education)との連携を強化しています。これまでJICA事業を進めている7ヵ国でGPEから3,300万ドルの資金を得て、JICAの開発した教科書の全国配布や、コミュニティが学校を支える「みんなの学校モデル」の全国展開などのスケールアップを行ってきました。また昨年11月にJICAはGPEの資金管理機関の資格認証を得ました。これにより、GPEの資金を受託し、JICA事業の大規模なスケールアップが図られ、より多くの子どもに良い教育を提供できるようになります。外部資金受託という新たな挑戦に向けてしっかりと歩を進めていきたいと思います。
「みんなの学校」プロジェクトの補習活動の様子
2021年から毎年、教育協力NGOネットワーク(JNNE)や開発コンサルタントの皆さんとの共催で「教育協力ウィーク」を開催し、NGO、開発コンサルタント、大学、企業など「オールジャパン」のアクターの知を結集すべくネットワーキングを図ってきました。また今年1月には「教育協力プラットフォーム」を本格始動すべくホームページを開設しました(教育協力プラットフォーム | 事業について - JICA)。
企業の皆さんとの共創にも力を入れています。昨年は4月と9月に「企業・JICA基礎教育協力共創セッション」というネットワーキングイベントを開催し、延べ約60社の日本企業の皆さんとお話しすることができました。企業の皆さんの商品やサービスとJICAの事業や開発途上国政府とのネットワークをあわせれば、開発途上国の教育課題の解決に貢献できる可能性は広がります。企業の皆さんとの連携を今後も深めていきたいと思います。
JICAの基礎教育協力は、開発途上国の教育だけでなく日本の教育にも貢献できる可能性もあると思います。
JICAはエジプトの小・中学校で、掃除や日直活動等といった主体性やリーダーシップを養う「特別活動」の導入を支援するプロジェクトを行っており、子どもや教員にポジティブな変化が見られています。一方最近日本の小・中学校では「子どもが主体」という意義を先生が必ずしも十分に理解していないこと、先生への負担が大きいことなどから、特別活動は縮小傾向にあるそうです。エジプトでの取り組みが日本における特別活動の意義を再確認する機会になればと思います。
また開発途上国から多くの教育関係者を日本に招き、日本の教育制度や学校現場の取り組みを紹介する研修を行っていますが、受け入れて頂いた日本の学校や大学の方々にも学びの機会になっているとの声も頂いています。
加えて、日本国内の多文化共生への貢献として、開発途上国向けに開発したスペイン語の教科書等を、外国にルーツのある子どもの学習に役立てられないか検討も行っています。
以上、様々な「共創」の取り組みをご紹介しました。世界と日本の子どもの教育のために、様々な方々と「共創」する場をつくることがJICAの役割だと思っていますので、ご関心ある方のご協力を頂ければありがたいです。
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