中南米地域における防災協力



2025.03.12
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- 地球環境部防災グループ次長 秋山 慎太郎
中南米と日本は防災協力を通じて深い絆で結ばれています。JICAは防災技術支援や人材育成を進め、地域機関と連携し、災害に強い社会をともに目指します。
日本と中南米の歴史は古く、また、ともに歩んできました。ここ数年で中南米地域は多くの周年記念を迎えました。2023年にはメキシコとの外交135年、ペルー150年、アルゼンチン125年など、2024年はパナマ120年、キューバ95年、ドミニカ共和国90年、今年2025年は中米5ヵ国と外交90周年を迎えます。ペルーは中南米地域で最初の外交関係を樹立した国です。また、メキシコは1897年に榎本移民団として最初の日本人の移住が始まりました。
長年にわたる友好関係の中で防災協力は重要な柱となってきました。この地域は日本と同様に地震やハリケーン、火山噴火といった自然災害にたびたび見舞われてきました。たとえば、1960年5月にはM9.5のチリ地震が発生し、地震により生じた津波はハワイを超え、日本にも大きな被害をもたらしました。またペルー北部大地震(1970年)、メキシコ大地震(1985年、M8.0)、コロンビア・ネバド・デル・ルイス火山噴火(1985年)、中米地域を襲ったハリケーン・ミッチ(1998年)、ベネズエラの大規模土砂災害(1999年)など、災害種も様々であり、被害も大きなものでした。
これらの災害を受け、日本は緊急援助の実施や耐震などの研究体制の強化、防災人材の育成、観測能力の強化、災害に強いインフラの普及などに取り組んできました。
チリとは1960年の災害をきっかけに、耐震技術等の協力をはじめ観測体制の強化や災害リスクの視点を取り入れた国土計画の策定など、防災の幅広い分野で活動をしてきました。
またペルーでは「日本・ペルー地震防災センター(CISMID)」、メキシコでは「メキシコ国立防災センター(CENAPRED)」といった、今では各国の代表的な機関の施設の建設を無償資金協力、その後の人材育成等を技術協力プロジェクトで協力してきました。
長い友好関係の中で防災分野はその中心にあり、2011年の東日本大震災では、多くの中南米諸国より励ましと支援を頂きました。
ボリビアラパス市周辺部の災害リスクの高い住居
90年代後半になると、日本は経済的な発展を遂げてきている国々とドナー化支援を目的としてパートナーシッププログラムを締結しました。現在、日本は12カ国とパートナーシッププログラムを締結していますが、4カ国が中南米諸国となっています。チリ(1999年)、ブラジル(2000年)、アルゼンチン(2001年)、メキシコ(2003年)と協力し各国に設立された国際協力庁の体制構築や能力強化に係る技術協力を実施し、これら国との第三国協力などを展開してきました。
また中南米地域で実施された第三国研修の約80%(77件)がこのパートナーシップ4カ国により実施されています。この枠組みのもと、チリでは2015年に「KIZUNAプロジェクト(中南米防災人材育成拠点化支援プロジェクト)」が始まり、防災行政の強化や地震・津波対策、森林火災、災害に強いインフラ整備などの研修を行い、学位取得コースによる高度人材の育成にも取り組んでいます。
加えて開発協力大綱の改定を踏まえ「対等なパートナー」として、パートナーシッププログラム包括技術協力をメキシコ、チリと取り組んでいきます。これまでの三角協力を超える「サーキュラー協力」(複数のアクター間における学び合いと共創)を目指して防災分野においても取り組んでいきます。
また、地域機関との連携も重要です。中南米地域には中米統合機構(SICA)やカリブ共同体(CARICOM)などの地域機関があり、これら組織の中に防災を専門とする機関があります。
中米防災調整センター(CEPREDENAC)では、日本の「BOSAIプロジェクト」を通じて各国の防災対策の強化が図られました。カリブ地域でも、災害緊急管理機関(CDEMA)に専門家を派遣し、日本の防災経験を活かした支援を行っています。さらに、ニカラグアでは「中米津波警報センター(CATAC)」の設立を支援し、津波観測能力の向上に貢献しています。
このように二国間協力に加え、地域機関や地域センターを通じて協力を展開しているのも中南米・カリブ地域の特徴です。
中南米地域は6.5億人の人口を有し、経済規模はASEANの1.7倍になります。近年、多くの国が経済発展を遂げ、中南米地域内(計33カ国)の88%の国が中進国以上になり、一部は援助卒業となる段階まで発展してきています。一方で都市の発展や開発による新たな災害リスクが生じています。
長い友好関係にある中南米地域において、これまでの協力で培ったアセットやカウンターパート、帰国研修員などの人材的ネットワークをさらに強化し、私たちの「対等なパートナー」としてこの地域における防災協力に取り組んでいければと考えます。
今後は、さらに大学や研究機関、民間企業との連携を強化し、より実践的で持続可能な取り組みを推進していきます。
防災協力とは、一方的な支援ではなく、お互いに学び合い、成長していくもの。日本と中南米の絆は、これからも続いていきます。
2021年ボリビアでの防災セミナー
2022年ボリビアでの防災セミナー
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