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2024年度「海外鉄道インフラ展開人材育成プログラム」に参加して

#11 住み続けられるまちづくりを
SDGs

2025.03.21

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インフラ技術業務部 有償技術審査室長 渡辺淳

2025年2月に開催された「海外鉄道インフラ展開人材育成プログラム」に参加しました。JICAはこれまで資金協力や技術協力などを通じ、多くの途上国で鉄道分野事業を実施・支援してきました。本プログラムの概要やJICAにとっての参加意義を紹介します。

1. JICAが支援する鉄道建設事業

開発途上国で経済発展や都市化が進み、またそれに伴う都市の交通混雑や大気質の悪化に、地球温暖化対策の必要性も加わり、近年、新興国を中心に多くの開発途上国で都市鉄道や地下鉄の建設需要が高まっています。

JICAはこれまで主に円借款を通じて、開発途上国における数多くの鉄道建設事業に協力してきました。代表例として、フィリピンの首都マニラでは環状に敷設された都市鉄道の建設や車両納入、メンテナンスなどを支援しマニラ市民の移動を長年支えてきたほか、現在はフィリピンで初となる地下鉄建設を資金面からサポートしています。また、インドでは日本/JICAの協力として地元の人に広く知られるデリー地下鉄の建設やそのネットワークの拡充を長年支援してきたほか、現在は、日本の新幹線方式を活用した、インド西部の大都市であるムンバイとアーメダバードを結ぶ高速鉄道の建設が急ピッチで進められています。

これら2か国以外でも、現在JICAの協力により鉄道の建設工事が進められている国は、インドネシアやバングラデシュ、エジプトなど多数に亘り、向こう数年で工事が完成、運行開始され、これら開発途上国の人々の移動の利便性が格段に高まることが期待されます。

インドの首都デリーの市民の足として活躍するデリーメトロ

2. 海外鉄道インフラ展開人材育成プログラム

本プログラムは、我が国の高速鉄道、都市鉄道の海外インフラ展開におけるグローバル専門人材の育成を主たる目的とするものです。今回が開講初年度で、一般社団法人海外鉄道技術協力協会(JARTS)が主催し、JICAも共催しています。2月3日から5日間開講された対面のプログラムに加え、海外の鉄道事情を現地から発信するオンライン講座が2月下旬に開催されました。

本プログラムは、半分が講義、残る半分がグループ演習で構成されています。初日は、政策研究大学院大学(GRIPS)の森地名誉教授による基調講演に始まり、日本政府・政府系機関が、日本の関連施策に関する最新動向を講義。2日目以降は、海外の鉄道マーケットの現状や、国際競争入札の仕組み、海外貿易実務などをテーマに、それぞれ実務経験のある民間企業の講師による講義が行われました。

グループ演習はどれも実践的かつリアリティの高いものであり、たとえば、「鉄道プロジェクトマネジメントシミュレーション」というコマでは、受講者は、ボードゲーム形式で鉄道建設の工事現場を疑似体験し、遅延すると工事全体に影響するような工程(クリティカル・パス)を理解しました。また、受講者間のネットワーキングに資するべく、各演習において同業種・異業種で毎回別のメンバーとグループを作るように配慮されていました。

森地名誉教授による基調講演の様子

グループ演習で使われたボードゲーム形式の教材

3. 日本の海外鉄道ビジネス関係者によるネットワーキング

研修受講者は全部で34名。鉄道事業者(JR各社、私鉄各社)や車両・信号等メーカー、商社、開発コンサルタント、日本政府・政府系機関など、海外鉄道ビジネスに関係する幅広い業種から業界を横断する形で参加がありました。本プログラムのもうひとつの狙いは、受講者間のネットワーク強化にあります。私も受講期間中にほぼ全員との名刺交換や挨拶を行うことができ、普段は接する機会の少ない鉄道事業者やメーカーとの関係作りや、各社の動向や海外ビジネスに対するスタンスといった情報収集に大変役立ちました。来年度以降は、今回参加できなかった企業の参加も増えることで、より強固なオールジャパンのネットワークが構築されることが期待されます。

海外鉄道ビジネスに関係する幅広い業種・業界からの参加者

4. JICAにとっての参加意義

冒頭記載の通り、開発途上国における鉄道建設や建設後の運営維持管理に関する協力のニーズは高まっており、また、日本政府が推進するインフラシステム輸出政策の期待に応えるべく、JICAとして引き続き、開発途上国の鉄道分野での事業形成と現在建設が進む事業の着実な実施に協力していく方針です。

本プログラムへの参加を通じて、人口減少といった要因で日本国内の鉄道市場は横ばい傾向にあり、開発途上国などの成長する海外鉄道マーケットにビジネス・チャンスを見出そうとする各社の意欲を感じました。また、車両や機材の効率的な維持管理、定時・安全運行といった運行ノウハウ、駅前開発を含む公共交通インフラを中心に据えた都市開発(TOD)など、日本のソフト面での強みも理解することができました。

JICAの立場として特定の企業のみを応援することはできませんが、こうした日本企業の意向や意欲、強みといった点を十分に理解し、開発途上国と日本の双方にとって何が最良なのかを常に考え、また、参加を通じて得られたネットワークを活かしながら、今後の事業形成や事業運営に係る協力を進めたいと思います。

JICA支援で建設されたジャカルタ都市高速鉄道の車両基地の様子

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