JICA国内機関と開発・環流について



2025.04.25
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- 東北センター総務課長 藤原真吾
3月11日、岩手、宮城、福島沿岸部では各地で祈りが捧げられました。私は2010年から2013年にかけて東北センターに勤務していたので、11年ぶりに仙台に戻って感じたこと、そして現在の東北について綴りたいと思います。
震災で大きな影響を受けた沿岸部の津波の痕はきれいに整地・造成され、新しい建物、堤防、施設が建ち並んでいます。何の予備知識もなくこの景色を見れば、ここで東日本大震災が起きたとは想像がつかないかもしれません。
津波に耐えて残った沿岸部の建住宅は震災遺構になっている(陸前高田市)
津波の痕(2011年撮影)
何度も被災地を訪問していた私自身にとっても、11年のギャップは大きいものでした。いま、復興の足跡を追い、このギャップを少しずつ埋めるようにしているところです。
基盤整備された街の様子。町は盛土され、中心部は山裾近くに移動した(陸前高田市)
山側から湾に向かう道路(陸前高田市)
震災直後の様子(陸前高田市)出典:東北地方整備局震災伝承館
例えば、震災直後、道路の両側には流れ着いた大量のガレキが積み重なっていましたが、今はそうした風景を想像することは難しいです。
2023年2月、トルコ南西部大地震が発生し、私は緊急援助隊の一員として直後に現地に入りました。崩壊した建物があちらこちらに広がる風景は、東日本大震災直後に見た風景に重なりました。
東北の震災経験・復興の知見は海外でも役に立つことは間違いありません。トルコのような世界の災害に関し、東北の方々、特に被災地におられる方は、間違いなく心から同情と共感をしていると思います。また当時海外から多くの支援を受けたこともあって、多くの首長はこの経験を海外のために役立てたいと考えています。
ガレキに残る被災者を捜索する様子(トルコ)(1)
ガレキに残る被災者を捜索する様子(トルコ)(2)
東日本大震災から14年。改めていろいろな方々から話を聞く機会があります。例えば、
「日本全国から様々な人的・物的・資金的な支援を得て、惨禍を繰り返さない街づくりを進められた」
といった前向きな話も聞きましたが、
「震災直後には様々な支援を得て、前向きな姿勢が見られたが、時間が経つにつれ変化した。震災直後は国の予算がたくさんついたが、現在は大幅に減少」
「被災自治体としても職員の積極性が失われて、現地には停滞感が漂ってしまっている」
「震災後も人口が減り続け、この14年で3割も減少してしまった。地元の若い人もいなくなった」
といったマイナスの話も聞こえてきているのが気がかりです。
人口減少や関心の薄れに歯止めをかけられていない印象をもちつつも、このような中でも頑張る方も大勢おられますし、新たな転入者も見られます。JICAが東北の皆さんと何ができるか、常に考える日々です。
東北の被災地には復興への継続した取組だけでなく、日本の地方の課題も集積しています。例えば、過疎化や人口減少の問題、これら課題への関心の希薄化・活動の停滞等です。こうした状況に危機感を持つ地方自治体からは、
「まずは街に人が来ることが極めて重要」
「いまだ復興途上である現状を知ってもらうことが大事。震災を風化させてはいけない」
といった声が寄せられます。
被災地域(主に、岩手、宮城、福島の3県)に対し、JICAは年間約40件、総計400人以上の研修員の受入れや、草の根技術協力による防災関連の交流などを進めてきました。復興グランドデザイン、ガレキの処理、コミュニティの再建、心のケアといった取組・成果と現在の課題の発信も続けています。研修員の多くは自身も災害等で被災したり、その可能性の高い方々。研修中、東北の方々には共感をもって親身に対応いただき、これら研修員らから感謝の言葉を沢山いただきます。こうした当事者同士の血の通ったやり取りを通じ、日本への信頼も向上していることを実感します。
最近は、グローカルプログラム(GP)(注1) としてJICA海外協力隊の候補生も東北地方を訪問するようになりました。GP生が街で活動すると、新たなコミュニケーションの機会が生まれます。地元の停滞感が徐々に払拭されるようになり、一部の地域では地域おこし協力隊の仕組を活用し、自治体自らGP生を受け入れる動きも見られるようになりました。途上国と地方での活動の親和性、そして協力隊員への期待の高まりを強く感じます。JICAの活動を通じ、少しでも地方の活性化にもつながればと願いながら、私たちも活動を続けています。
秋田県五城目町でグローカルプログラムに参加した派遣候補生による報告会の様子。地元住民の関心も高い。
JICAの国内拠点は「国内と海外の結節点」と位置付けられていますが、単純に「国内」を一言でマクロにとらえることはできません。「国内」とは実際に人が暮らす現場が複数集まる点の集合体である、と理解すること、こうしたミクロな視点をもち、丁寧に海外と国内を繋げ、その作業を地道に積み重ねていくことが大事だと、東北での活動から感じています。
私自身、長年東京の本部だけで仕事をする中で、日本国内=東京周辺としか考えなくなっていることに気付く場面がありました。しかし、東北に戻りちょうど1年。首都圏以外に日本の人口の2/3が住んでいる事実を忘れてはならないと、改めて気付かされています。地域の理解を得て活動し、その地域に還元し信頼を得ていくこと。それが海外での仕事の素地にもなっていると信じ、国内機関の一員として、日々活動を続けています。
派遣前のJICA海外協力隊合格者のうち、帰国後も日本国内の地域が抱える課題解決に取り組む意思を有する希望者を対象に、自治体等が実施する地域活性化、地方創生等の取組みにOJTとしての参加するもの。
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