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ホーチミン市民が熱狂した日本支援による地下鉄

#9 産業と技術革新の基盤を作ろう
SDGs
#11 住み続けられるまちづくりを
SDGs

2025.06.27

サムネイル
ベトナム事務所次長 福田千尋

ホーチミン市内の慢性的な渋滞は長年の悩みの種であり、その解決の一助となるべく日本が全面的に支援したホーチミン市初の地下鉄開業は人々に熱狂をもって迎えられました。その時の様子をご紹介します。

1. ホーチミン市初の地下鉄が開業、市民は熱狂をもって歓迎

2024年12月22日、ホーチミン市初の地下鉄が、貸付契約の署名から17年の歳月を経て開業しました。来賓を乗せた1番列車が発車すると、誰からともなく「Proud of Ho Chi Minh City Metro」の合唱が始まりました。(初の地下鉄開業への思いが伝わるホーチミン市による楽曲です。
動画サイト:TỰ HÀO METRO THÀNH PHỐ HỒ CHÍ MINH)

私自身、現場で開業の瞬間に立ち会いましたが、改札の外は乗車を待ちわびる市民で溢れ返り、熱狂に圧倒されました。行列は駅の外まで続き、開業初日は最長で数時間待ちでした。翌日のローカルメディアは、「ホーチミン市で地下鉄に乗れるなんて、夢が叶った気分だ」、「ベンタイン市場まで30分で行けるなんて、すごい」、「高齢者ですが安全で快適だと感じた、街を探索するのに便利な手段ができて素晴らしい」といった市民の喜びの声で溢れていました。

その後も、1号線の画像や動画をSNSにアップする市民が続出するなど、お祭りモードが続きました。2025年6月時点で延べ1000万人以上に利用されており、JICAの現地職員も1号線を使って通勤しています。

待ちわびた地下鉄開業の喜びを嚙み締める市民1

開業式典でホーチミン市トップのネン書記と力強く握手を交わす伊藤大使:写真中央

待ちわびた地下鉄開業の喜びを嚙み締める市民2

始発駅構内に設置された、日本の支援で建設されたことを記念するプレート

2. 支援する背景、日本への還流

シンガポールのシンクタンクによれば、ベトナムの有識者の68.3%が「日本は信頼できる」と回答しており、中国や米国に対してよりも高い信頼を寄せています。

日本にとってもベトナムは大切なパートナーです。朱印船がホイアンへ寄港して日本人町を形成したのは16世紀頃ですが、日本の貿易相手国ベスト10に2017年から連続して入るなど、経済的つながりは今も健在です。経済成長を続けるベトナムは日本の製造業企業にとって有望国の第2位。さらに、若年労働者を豊富に抱えるベトナムは、労働力不足が深刻な日本と補完関係を築ける高いポテンシャルがあります。日本在留のベトナム人は約60万人で国籍別で第2位、なかには元技能実習生が1号線の地下鉄工事を請け負う日本企業のもとで活躍した事例もあります。

そんなベトナムのホーチミン市は、人口 約 950万人(2025年7月には周辺2省を吸収して約1400万人となる見込み)で世界有数の大都市です。他方、経済発展に伴いバイクや自動車の数も増加した結果、交通渋滞が深刻化し、都市鉄道の整備が喫緊の課題でした。ホーチミン市に住む日本人は約1万人と、東南アジアではバンコク、シンガポールに次ぐ規模で、現地で生活する日本人にとっても深刻な問題です。なお、シンガポールでは1987年、バンコクでは2004年に最初の地下鉄が開業しています。

JICAが2002~04年にホーチミン市の都市鉄道開発計画策定を支援し、優先度の高い1号線建設について、2007年から円借款を通じて支援を開始したのは、このような背景がありました。

交通渋滞が著しいホーチミン市1

交通渋滞が著しいホーチミン市2

3. 日本が全面的に支援した地下鉄、ベトナム国内外から高い評価

建設の支援にあたり、「顔が見える援助」を促進するため、円借款の供与条件として特別な条件(日本企業が受注者となるSTEP)を適用しました。ここで、どんな技術や工夫が詰まっているかご紹介しましょう。

市中心部の込み入ったエリアでは、近隣建物への影響を最小限にする技術や、地面を掘らずにトンネルを掘る技術が採用されました。また、車両には自動列車停止装置が装備され、優先席や車いすスペースが配置されています。駅構内にはユニバーサルデザインとしてブロックや券売機での点字表示、標示板等も設置されています。

一方で、現地の事情を考慮し、盗難や忘れ物を予防する観点から車内に網棚は設置していません。座席はメンテナンスの観点からハードな素材を使用しています。つり革は3列とし、利用者の背丈や利便性に配慮した長さとしています。転落防止のプラットフォーム・スクリーンドアは、年中暑いホーチミン市での冷房効率を上げるため地下駅では天井までの高さとしています。

ソフト面でも、2011年より地下鉄運営会社の設立を支援し、2015年に「ホーチミン市都市鉄道会社No1(HURC1)」が設立されました。その後も東京メトロと連携してHURC1の能力向上を支援しています。市民の行動変容を促す施策として、駅周辺の駐輪場整備、駅からのラストワンマイルをつなぐバス路線網の新設とあわせて、市民への啓蒙活動も行われました。

こうして日本の知見が凝縮された1号線は、TIME誌の選ぶ「The World’s Greatest Places of 2025」にも選出されました。

開業後も、1号線の維持管理にかかるサポートを円借款で支援しており、また、地下鉄建設にたずさわれた日本企業に対する支払いにも注力しているところです。

ホーチミン市政府は、1号線の経験をもとに路線網の拡大を計画しています。また、ベトナムの首都で人口約860万人のハノイ市も都市鉄道網を拡大したい意向を有しています。その際、ベトナム政府の日本への期待をひしひしと感じています。ベトナムの経済成長が続けば、ODAから遠からず卒業することになります。それまでに両国関係の強化に資する事業を一つでも多く形成できればと考えています。

シールドマシンにより地下トンネルを掘り進む様子

中心部は歴史的な建物や幹線道路に挟まれ、難工事となった

HURC1の能力強化支援に関する全体会合

1号線の経験を学びたいとの要望は多く、国営TVの討論会に登壇して日本を売り込み

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