jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

多様性の国エチオピアと歩む、復興と未来へつづく道

#16 平和と公正をすべての人に
SDGs

2025.07.28

サムネイル
JICAエチオピア事務所 中村 萌

JICAはエチオピアにおいて、国内紛争後の復興に向けて、学校や水施設の再建など、「日常」を取り戻す協力を続けています。50年以上にわたる協力で築いた信頼を土台として、対話や相互理解を重視しています。

豊かな多様性の国、エチオピア

エチオピアと聞いて、みなさんはどんなイメージを持たれるでしょうか?
砂漠から高原まで多様な気候の中で、80以上の民族が異なる言語と宗教のもとで共存し、カラフルな民族衣装をまとい、地域ごとに異なる歌と踊りを楽しむ――ひとつのイメージに集約できないほど、豊かな自然と文化に満ちた国です。

(上左)エチオピアシルクのスカーフ (上中)彩り豊かなエチオピア料理 (上右)伝統楽器を奏でるバンド
(下左)エチオピア正教祝日のパレード (下中)コーヒー発祥の地 (下右)宗教指導者の衣装

こうした多様性はエチオピアの大きな魅力である一方、民族間の違いや自尊心が、政治や社会の安定にとって課題にもなりえます。

人と人との信頼が、支援の土台

JICAは1972年に青年海外協力隊を派遣して以来、50年以上にわたり農業、産業育成、インフラ、教育、保健など幅広い分野で協力してきました。分野や手法はさまざまですが、根底にあるのは「人を中心とした協力」、「お互いの違いを尊重し、共に考える」という姿勢です。

2019年以降、エチオピアは新型コロナ感染拡大と北部紛争という大きな困難に直面しました。日本人関係者が退避を余儀なくされ、現地での活動が制限されましたが、現地職員やカウンターパートと連携し、オンライン研修や感染対策物資の寄贈など「今できること」を模索し続けました。顔が見えづらい環境でも協力を続けられたのは、長年培った信頼の土台があってこそです。

復興支援という新たな挑戦

北部紛争は2022年11月の和平合意により終結しましたが、ティグライ、アムハラ、アファールの3州は甚大な影響を受けました。水や電力などのインフラや多くの学校、病院が破壊され、人々は住まいを失い、子どもたちは学びの場を奪われました。地域社会のつながりも分断され、国内避難民は約350万人にものぼり、農民の生計確保や元戦闘員の社会復帰も大きな課題です。

紛争で被害を受けた学校

JICAは22年から23年にかけて、被害実態と地域ニーズを把握するため、関係者へのヒアリングやさまざまな視点からの現地調査・分析を実施しました。23年からはユニセフと連携し、アムハラ州・ティグライ州で学校や周辺住民も使える水施設の建設・改修に着手。24年からは「北部紛争影響地域における復興支援プロジェクト」として、行政や地域とともに教育や生計向上に取り組んでいます。

また「復興支援・援助調整の専門家」が政府復興計画に基づき、省庁や州政府、国際機関との調整を進めています。民族や立場を越えた協力の「橋渡し役」としての役割も期待されています。

コロナ、紛争により5年もの間学びの機会を奪われた子どもたちも多く、未来に与える影響は計り知れません。
ユニセフと連携して建設する学校は、約1万2,000人の生徒と約4万7,000人の生活改善につながる見込みです。この起工式では、「何よりも平和が大切」と語る住民の声や、「多くの友達がいなくなってしまった」と涙する高校生の姿が印象的でした。子どもたちが安心して学び、住民が未来について語り合えるような“日常”を取り戻すことが、真の復興なのだと感じました。

ユニセフ連携案件の起工式

起工式で歓迎メッセージを掲げる少女たち

分断を乗り越える「対話と相互理解」

復興支援にはインフラ整備だけでなく、人と人の「関係の修復」も不可欠ですが、分断された絆を結び直すのは容易ではありません。

JICAは2025年2月、紛争復興を担当する平和省副大臣や中央政府、地方州の行政官ら17名を日本に招へいしました。地方州は紛争当時、加害者・被害者の関係にありましたが、日本の戦後や災害からの復興経験に学ぶだけでなく、平和のためにできることを議論し、お互いへの理解と尊重の大切さを確認する機会となりました。

広島の平和記念公園の前を参加者と歩いていた際、「今こうして何も心配せずにこの場所を歩けることがどれだけ特別なことか」と語っていたことが印象に残っています。今日本が平和であることは決して当たり前ではないこと、平和とは社会の一員として皆が求め、ともに作っていくことで成り立つものなのだということを、研修に真剣に向き合う参加者の姿から改めて学びました。

広島市長表敬

原爆ドーム視察

平和記念公園での集合写真

女川町の被災した病院

TICでのアクションプランに向けたディスカッション

閉講式

未来へと続く道のりを「信頼の協力」でともに歩む

2024年11月、JICAと在エチオピア日本大使館は、日本のODA70周年を記念したイベントを共催。政府関係者やドナー、国際機関、NGO、教育機関など多くのパートナーが一堂に会し、半世紀以上にわたる協力の歩みを振り返りました。
会場では「日本は現地の目線で手を差し伸べてくれる」「一緒に考えてくれるパートナーだ」といった声が多く聞かれました。ともに悩み、未来を描いていこうという思いが、私たちの原動力になっています。

ODA70周年イベントでの集合写真

紛争の傷跡は深く、生活再建には時間がかかります。だからこそ、現地に寄り添った息の長い協力が必要です。
エチオピアの多様な人々が、互いを認め合い、安心して暮らせる社会をつくるために、JICAはこれからも、エチオピアの人々とともに歩んでいきます。

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