グアテマラ・日本の友好の証 ―地域浄化と記念壁画制作―

2025.07.30
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- 新野佐和子 グアテマラ事務所企画調査員
グアテマラにて、外交関係の樹立90周年、海外協力隊発足60周年を記念し、グアテマラ市役所、国家文民警察、JICAが協働して壁画制作を行いました。地域の人々に親しまれる存在となり、友好の証となることを願っています。
2025年は、日本とグアテマラが外交関係を樹立して90周年を迎える記念すべき年です。また、今年はJICA海外協力隊が発足されてから60週年を迎える年でもあります。この2つの大きな節目を迎えるタイミングで、グアテマラ国内に日本とグアテマラの絆を表す何かを残したいという想いから「記念壁画制作」の案が生まれました。
壁画制作を行うことを決めた際、ただ絵を残すだけではなくJICAだからこそできることがないかを考えました。その答えが地域貢献を目的に、治安の悪い地区の落書きだらけの壁を住民と一緒に綺麗に塗り替え、街の景観の改善と日本とグアテマラの交流や協力を連想させる壁画を制作することでした。
JICAグアテマラは、2021年より、「地域警察プロジェクト」を実施しています。日本式地域警察モデルを導入し、住民と警察官の信頼関係を構築、強化。市民・自治体・警察等が一体となった治安改善への取り組みが、犯罪件数の減少につながることを目指し、日々活動を行っています。その一環として「地域浄化活動」があります。この活動は文字通り、地域関係者が協働で地域を浄化することです。 治安の悪い地域の特徴としては、たくさんのゴミで汚く、壁への落書きが多く見られることです。そのような地域には一般市民は近づかず、犯罪者の溜まり場となって犯罪の拠点にされてしまうことも。「地域浄化活動」を通して地域を綺麗にし、犯罪者を遠ざけ、健全な環境を創る。そして子どもから大人まで、すべての人が安心して過ごせるようにすることを目的としています。
地域浄化活動の様子(地域警察プロジェクト活動)
今回「記念壁画制作」を行うにあたり、グアテマラ市役所に協力を依頼しました。「地域浄化」の意味合いも込めたい点も説明したうえで、市内の第2区に位置するバリオ・モデルノ地区、文化通りの約60メートルの壁を提供いただきました。バリオ・モデルノ地区は、地域警察プロジェクトのパイロット地域でもあり、長年、薬物売買や盗難等、治安の問題を抱えている場所でもあります。この壁もギャングのシンボルマークなどの落書きだらけで、一般市民にとっては近寄りがたい状況でした。しかし、この道は「文化通り」の名の通り、もともとは地域内外の人が集まり、文化イベント等を楽しむ場所として存在していたそうです。そのため地域住民の人々は、この場所の治安改善がなされ、再び多くの人が訪れて文化を感じ、楽しめる場所になってほしいという強い願いをもっていました。この話を伺った際、まさに今回の活動に適した場所だと感じました。
以前のBarrio Moderno地区の様子。壁に落書きがいっぱいで治安も悪かった
壁画のデザインは、現在グアテマラ国内で活躍している協力隊員のみなさんに提案いただきました。そのアイデアをもとに、現役警察官でもある壁画アーティスト、セルビン・チャバハイ氏が形にし、メイン部分を描いてくれました。細部は協力隊員のみなさん、警察官、市役所職員、地域の子どもたちなど、多くの方々と一緒に描き上げました。
完成した壁画のテーマは「両国の成長と絆」です。グアテマラの人々と日本の協力隊員がともに経験・成長していく過程を通じて、深い絆を築いてきた過去、そして将来の姿を描いています。壁画は、4つのテーマに分かれて描かれています。
1つ目は、「母子保健」です。主人公(グアテマラ人)の誕生と、そこに寄り添う協力隊の様子が見られます。母子保健は、長年重要な開発課題であり、現在も妊婦と乳幼児の健康を支援するために、多数の保健師や栄養士が携わっています。
「母子保健」
2つ目は「算数教育」です。主人公が算数を学校で学んでいる様子が見られます。JICAは算数・数学の国定教科書「グアテマティカ」の作成に携わり、研修や教材作成を通して、教育の質改善に大きく貢献してきました。
「算数教育」
3つ目は「農業」です。主人公が協力隊員とともに苗を植えている様子が見られます。技術支援を通して、手に職をつけ、生きる力を育むための支援も行われてきました。
「農業」
4つ目が「女性のエンパワーメント」です。主人公と協力隊員が女性向け研修を開催している様子が見られます。多くの協力隊員がこれまでのエンパワーメント支援を行って来たとともに、すべてのプロジェクト、プログラムにおいて女性のエンパワーメントを重要視しています。
「女性のエンパワーメント」
4つの場面の横には、日本とグアテマラの文化と絆を象徴するシンボルが描かれています。日本の桜と富士山、モンハブランカ(白蘭)と火山がともに描かれています。
壁画のお披露目式では、在グアテマラ日本国大使館、グアテマラ市役所、国家文民警察、地域住民グループ、JICAグアテマラ、そして多くの市民が参加し、100名以上の大盛り上がりとなる式を実施できました。
これからもこの壁が両国の絆を表す象徴として残り、多くの人々が訪れ、絵を楽しんでくれることを強く願います。
壁画アーティストのセルビン・チャバハイ氏は現役警察官でもある
地域浄化活動の様子
壁画お披露目式にて関係者の集合写真
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