エジプトとの協力70周年――対談で振り返る信頼と成果の歩み~TICADでの記念冊子発表と、JICA原理事×アルマシャート大臣の対話から~



2025.10.14
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- 渡邊 裕友、JICAエジプト事務所/中東・欧州部
日エジプト協力70年。両国の絆がつないだ対談。JICA原理事とエジプト大臣が語る協力のかたち。
1954年にエジプト人研修員の受け入れから始まった日本とエジプトとの協力は、今や保健・教育・インフラ・観光など幅広い分野に広がっています。これを記念して、両国の協力の歩みをまとめた記念冊子を今年8月に開催された第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)にて共同発表しました。この節目の機会に、JICA 原昌平理事とラニア・アルマシャート エジプト計画・経済開発・国際協力大臣による対談が実現しました。今回は、その対談の様子をご紹介します。
記念冊子を手にする原理事とアルマシャート大臣
アルマシャート大臣は対談の冒頭、JICAの協力について次のように語りました。
「JICAの協力は、エジプトの開発目標に沿って、国民の生活に具体的な成果をもたらしてきました」
特に強調されたのは、日本の協力スタイルです。「本質を理解し、またエジプトの国情や国民の努力を深く理解、尊重してくれる姿勢が、信頼関係の構築につながっている」として、深い感謝の言葉が述べられました。
JICAの協力の象徴の一つともいえるのが、大エジプト博物館(GEM)への協力です。2025年11月に全面開館を予定しており、国際的にも注目を集めています。
日本は円借款により博物館の建設、さらに技術協力を通じて、遺物の移送、保存修復、展示計画、博物館の運営体制に至るまで、幅広い協力を行ってきました。アルマシャート大臣は「GEMは、日本との協力の成功例として、世界に誇れるプロジェクト」と語り、日本の協力に対する高い評価を示しました。
協力は教育分野にも広がっています。2016年、エルシーシ大統領訪日を契機に、「エジプト・日本教育パートナーシップ(EJEP)」が両国間で締結されました。このパートナーシップの下、就学前教育の協力をはじめ、全国に69校のエジプト・日本学校(Egypt Japan School: EJS)が開校しました(2025年10月時点)。また、「エジプト・日本科学技術大学(E-JUST)」や日本の高専システムを導入した「EJ-KOSEN」が設立され、エジプトにおける次世代の人材育成に包括的に貢献しています。
大臣は、ごっこ遊びなどの「遊びを通じた学び」や、日直・掃除・学級会など特別活動を含む日本式教育がエジプト国内でも広く支持されており、「多くの保護者が、自分の子どもを日本式学校に通わせたいと希望しています」と発言。これを受けて原理事は、「若い世代に向けた教育への協力は、未来における信頼と協力の礎となり、両国の将来にとって貴重な資産になります」と熱意を込めて応じました。
エジプトは、他の開発途上国から研修員を受け入れるJICAの「第三国研修」を積極的に行っています。保健や農業などの分野で多くの国々から研修員を受け入れ、これまで日本から学んだこと等を中東・アフリカ地域に共有することで知識・技術発信のハブとして、地域全体の発展を支える存在となっています。
原理事は、自身のイラク駐在時代に同国の研修員がエジプト国内でJICA研修に参加したエピソードを紹介し、第三国研修の実効性を強調しました。
これに対し、アルマシャート大臣は 「今後もJICAと第三国研修を通じて、他国の制度設計や人材育成に協力していきたい」と意欲を示しました。
現在、両国の協力は民間投資や技術革新へと広がりを見せています。アルマシャート大臣は、「日本の協力は確かな成果を生み出している。特に、エジプトの産業化や輸出の拡大に大きく貢献している」と述べました。また「これまで築かれた信頼の基盤は非常に強固。今後は、より多くの日本企業にエジプトに進出してほしい」と呼びかけました。エジプト市場の安定性と、積み重ねた協力の実績が、日本企業による中東・アフリカ地域への進出を後押ししています。
対談の終盤、アルマシャート大臣はふと歴史に思いを馳せました。
1860年代、日本の遣欧使節団がエジプトのギザのピラミッドを訪れました。「その場所に、いまや日本の協力で建設された大エジプト博物館が立っている」――この言葉には、過去と現在、そして未来を一本の線で結ぶような、象徴的な意味が込められています。原理事も、これまでの協力は単なるインフラ整備や資金提供ではなく、人と人とのつながりを育み、国と国との信頼を築いてきた歩みであると語りました。
「過去の小さな交流が、将来の大きな成果につながる」――この大臣の一言には、70年以上にわたる両国の協力への感謝と、さらにその先の未来を見据えた確かな希望が込められています。
スフィンクス前で集合写真を撮る日本の使節団
所蔵:流通経済大学 名誉教授 三宅立雄、協力:流通経済大学 三宅雪嶺記念資料館
今回、対談の取材を担当しました。最も印象に残ったのは、日本とエジプトの間に築かれた信頼の重みです。協力の根底にあるのは、単なる資金やインフラの提供ではなく、「相手国を尊重し、対等な立場で本質を理解しようとする」日本の誠実な姿勢。これが70年という歳月をかけ、揺るぎない絆となって結実したのだと実感しました。その証拠に、未来を担う教育分野における支援を任され、さらにはエジプトの象徴的な存在であるGEMの協力を託されている事実に、エジプトからの厚い信頼がはっきりと表れています。
現在私は、新人OJT(On the Job Training)でエジプトに滞在しています。 11月に控えたGEMの開館式は国を挙げた一大イベントとして世界中から注目を集めています。また、現地で出会う人々からは、日本への高い信頼や友好の念を肌で感じることができます。これらはまさに、長年にわたる日本の協力の成果だと考えます。人口が一億人を超え、中東・アフリカ地域の中心となりつつあるエジプト。約150年前に日本の使節団が初めて踏んだこの地には、長年の協力の種がしっかりと根付き、今まさに芽生え始めています。
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