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アフリカ・モザンビーク~母子健康手帳導入の現在地そして未来~

#3 すべての人に健康と福祉を
SDGs

2026.01.14

サムネイル
モザンビーク事務所 辻貴行

世界で最も妊産婦および5歳未満児の死亡率が高い国のひとつであるモザンビーク。JICAは民間企業等、多様な関係者との協働により、モザンビークでの母子健康手帳の導入、普及に取り組んでいます。

魅力あふれるモザンビーク

 モザンビークはアフリカ南東部に位置し、インド洋に面した国です。雨季と乾季があり、国土は日本の約2倍、人口は約3,600万人を擁します。多様な民族が暮らし、農業と漁業が盛んですが、近年は天然ガス開発が進み、新たな産業への期待が高まっています。ユネスコ世界文化遺産のモザンビーク島には、植民地時代の要塞や教会が残り、世界的なダイビングスポットのバザルート諸島やトーフォ海岸では、ジンベエザメやジュゴン、ウミガメに出会え、内陸部ではゾウやライオン、カバの姿も見られます。首都マプトに限れば、南アフリカ産の生活物資が豊富に並び、シーフードに恵まれていることからポルトガルやイタリアンレストランがにぎわっています。物価は日本より高めですが、年間を通じて温暖な気候のおかげで過ごしやすい環境です。

日本との縁は16世紀に遡り、豊臣秀吉の家臣であった弥助がモザンビーク出身とされています。現在では、日本と同じ右ハンドルの交通ルールに加え、品質への信頼から、多くの日本の中古車が街中を走っています。

世界最貧国のモザンビーク

  一方で、モザンビークはアフリカでも最貧国の一つであるとともに、国内での貧富の差が大きな国です。地方では水・食料・保健・教育へのアクセスが約40%しか無く、人口構成は若者が多いピラミッド型で、平均年齢17歳と世界最若年層(日本は49歳で世界最高齢)となっています。主な死因はマラリア、AIDS、結核などの感染症で、日本の1950年代に匹敵する状況です。私自身、結核病棟を初めて目にしたとき、後発開発途上国の厳しさを再認識しました。母子保健の指標を見ると、出産10万件あたり289人の妊産婦が亡くなり(日本の55倍)、5歳未満児は1000人あたり67人が死亡(同33倍)しています。また、年齢相応の平均的な身長に比べて発達が阻害され、低身長の子どもの割合が38%(同38倍)、医療従事者が立ち会わない分娩は36%(日本は0%)、成人女性がHIVに感染する確率が11%(同110倍)など、いずれも世界・アフリカ平均を下回ります。

アフリカ開発会議(TICAD)を通じた日本の協力

 日本は1993年よりTICADを通じて、アフリカに対し、AIDS、感染症・非感染症、保健人材育成、ユニバーサルヘルスカバレッジ(経済的困難なしに均一な質の保健医療サービスが受けられること)、母子保健や栄養・衛生の改善に協力しています。2025年8月に横浜で開催されたTICAD9でも、各国の実情に応じた母子健康手帳の改訂やデジタル化の促進など、アフリカに寄り添った協力を計画しています。

日本から世界に広まる母子健康手帳

 JICAモザンビーク事務所は2003年より母子保健を筆頭に、感染症対策、保健人材育成を中心に協力を積み重ね、「母子健康手帳の導入プロジェクト」を2021年に始動しました。日本の母子健康手帳は第二次世界大戦中に食料・医療が不足する中でも国力(人口)を維持する目的で誕生し、法整備や社会の後押しを経て、1970年代には妊産婦および5歳未満児の死亡率を劇的に改善させた実績を誇ります。手帳は各国の宗教や文化等を踏まえカスタマイズされ、インドネシアを筆頭に世界40か国以上に導入されています。

モザンビークの母子健康手帳の導入プロジェクトでは、出産の兆候、衛生・マラリア情報、食品の情報を盛り込むとともに、これらを表現したイラストを多く差し込むことで、公用語であるポルトガル語が分からない人にも理解しやすく、妊婦と乳幼児が栄養を意識した食事をとれるよう、支援を行っています。また、保健サービスが行き届かない村落部では地域で保健活動を担うヘルスワーカーとともに母子手帳の普及活動を行ったり、水不足が深刻な地域ではJICAの給水プロジェクトと連携したりしながら、手洗いなど衛生習慣の定着を目指しています。

妊婦に聞き取りをしながら手帳に記入します

プロジェクト専門家が丁寧に語りかけます

大切にされる母子健康手帳、そして希望

 出張で現地を視察した際、医療従事者からは「情報が一元化されているのでこの手帳に記録さえすれば良いので安心」、ヘルスワーカーや妊婦の両方から「イラストがあるので誰にでも分かりやすい」という嬉しい声が寄せられました。また、カバーや丈夫なビニール袋で丁寧に手帳を保管しているお母さんを見かけるたびに、日本発の母子保健手帳がモザンビークでも大切にされ、その知見が役立つ場面に立ち会える喜びを感じます。出張には必ず私自身の母子健康手帳をたずさえ「人生で最初にもらったプレゼント。もう50年前だけどね」と披露すると長年保管されている手帳に皆が驚き、場が温かくなります。

 医療施設が遠くても、母子や家族に寄り添い必要な情報を提供し、医療従事者は手帳を拠り所に安全な出産を支える。母子健康手帳は、日本が発明し育ててきた素晴らしい仕組みだと強く思います。いつか、モザンビーク版の母子健康手帳が版を重ねて国内の村落部まで普及し、母子保健の改善が達成される――その日のために、今後も保健省や多様な関係者と協働しながら、母子保健手帳の全国普及を目指していきます。

初めての母子保健手帳を手に

母子健康手帳の内容について読み聞かせをします

マプトから来た保健省のスタッフも住民との対話を大切にしています

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