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社会課題解決はビジネスになるのか?―JICAの現場から生まれた一冊が伝えたかったこと

#17 パートナーシップで目標を達成しよう
SDGs

2026.05.20

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緒方貞子平和開発研究所 次長 片井 啓司

社会課題解決への「壁」と立ち向かうためのヒント

JICAで仕事をしていると、現地の多くの課題に出会う一方で、現地政府の予算や体制の制約からすぐには取り組めないという「壁」に直面することが少なくありません。

ここで、ムハマド・ユヌス氏をご紹介します。バングラデシュにおいて貧困層向けに融資を行い貧困削減に取り組む「マイクロクレジット」を立ち上げた方で、ノーベル平和賞を受賞するなど世界的に注目されている人物です。マイクロクレジットとは、従来の金融サービスが届かなかった貧困層に対して小口の融資を提供する金融の仕組みです。これが画期的だったのは、貧困層を「信用できる顧客」ととらえ、返済された資金が次の融資につながり、金融サービスを広げていけるビジネスモデルを成立させた点にあります。私は初めてマイクロクレジットを知ったときに社会課題解決への壁に立ち向かうためのヒントがビジネスにあると感じました。

ビジネスで取り組む社会課題解決:インドネシアやモンゴルで

JICAでは、10年以上にわたり企業の課題解決ビジネスに伴走してきました。ビジネスですので、上手く行った事例もあれば、上手くいかなかった事例もあります。そこで見えてきたのは、ビジネスだけですべての社会課題を解決することは難しいものの、社会課題の捉え方やアプローチを工夫すれば、ビジネスでも一部の課題解決ができる、ということでした。

例えば、インドネシアのある都市では傷んだアスファルトの上に新しいアスファルトを上塗りすることでできる道路の段差が原因の交通事故が発生していました。日本では傷んだアスファルトを回収して再利用する「再生アスファルト」が活用されていますが、こうした仕組みは現地にはまだ根付いていませんでした。当初は高コストという認識やアスファルト回収フロー構築の必要性等から道路補修を事業として継続できるのか、疑問視する声もありました。それでも、現地の状況に併せて工夫を重ね、実証して成果を見せることで、少しずつ受け入れられていきました。

また、モンゴルでは交通渋滞が原因で、病院に血液を時間内に届けられないという課題がありました。地上輸送に頼らない方法が求められる中で、ドローンによる輸送が新たな挑戦として浮上しました。制度や技術でのハードルはあったものの、日本企業が課題解決のビジョンを掲げ、また、「この課題を何とかしたい」という現地関係者のサポートも得たことで、モンゴル唯一となる商用飛行用ライセンスの取得につながりました。ビジネスの実証を進める中で、実際に命を救う結果にもつながりました。

繰り返し立ち返った問い:課題解決とビジネスの両立

こうした現場の試行錯誤を体系的に整理したのが、今回刊行された「グローバルサウス新市場戦略 ―課題解決ビジネスによる未来の共創」です。JICAがこれまで世界各地で日本企業とともに、現地政府、地域の人々とともに取り組んできた1,600件を超える課題解決ビジネスの経験をもとに、いろいろな具体例を取り上げ、「なぜうまくいったのか」「どこが壁になったのか」を分析しつつ、課題解決ビジネスの着想から立ち上げにむけた具体的なポイントを提示しています。

この本を書き進める中で、私たちが繰り返し立ち返った問いがあります。「どうすれば『社会課題の解決』と『ビジネスとしての利益』を両立することができるか?」 この両立があって初めて、一時的な取り組みで終わることなく、持続して、スケールを拡大していくことができます。その答えは一つではありません。ただ、はっきりしているのは課題の当事者、日本企業、現地政府、地域社会が一緒になって考え、取り組み続ける「共創」が欠かせないということです。

「つながり」で新たな課題解決へ!

JICAというと「支援する側」というイメージがあるかもしれません。けれど、現場での私たちの役割は、企業のビジネスの考え方と、現地の暮らしや行政の考え方を行き来しながら、互いの理解をつなぐ、「翻訳者」に近いと感じています。なかなかうまくいかないこともありますが、そうした対話を積み重ね、その上でJICAにしかできない取り組みを行うことで、新しい市場や、よりよい社会につながっていると実感しています。

この本はビジネスに携わる方だけでなく、社会課題に関心がある方にも手に取っていただきたい一冊です。非営利団体で活動されている方にとっても、現場の問題意識をもとに企業との連携を模索するためのヒントになるかもしれません。立場や考え方の違いに向き合いながら、課題解決を考えていく ―――そんな一歩になれば嬉しく思います。

JICA民間連携事業部、あずさ監査法人のチームメンバー。熱い議論をしながらまとめました。

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