jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

進む高齢化 ― 日本とタイがともに探る、地域で支える社会の形 ―

#3 すべての人に健康と福祉を
SDGs
#17 パートナーシップで目標を達成しよう
SDGs

2026.07.15

サムネイル
タイ事務所 一木 星

世界的に進む高齢化とタイの現状

世界ではいま、かつてない速度で高齢化が進んでいます。医療の進歩により寿命が長くなりましたが、少子化も重なり、多くの国が社会のあり方を見直す局面に立っています。タイもその真っただ中にあります。

タイでは、高齢者ケアを家族や地域コミュニティが支える文化が根付いており、政府もそれを基盤とした政策を進めています。公的な入所・通所施設は十分でなく、これまで多くの高齢者は、家族や地域で活動する有償の介護ボランティアによる在宅ケアによって支えられてきました。

こうした中、タイは2023年に、65歳以上が人口の約15%を占める「高齢社会」となりました。今後は、より介護が必要となる80歳以上の高齢者の増加も見込まれています。特に地方では、独居や高齢夫婦のみの世帯が増え、日常生活をどう支えるかが課題となっています。

また、若者の都市部への流出や核家族化、少子化に加え、地域で支援を担うボランティア自身の高齢化も進んでいます。これまで当たり前とされてきた「家族と地域で支える仕組み」が、少しずつ成り立ちにくくなってきているのが現状です。

日本とタイの「学び合い」から見えてきた、高齢者支援のこれから

JICAはタイに対して、2007年から高齢化という共通の課題に向き合いながら協力を続けてきました。高齢者一人ひとりの生活や状態に合わせて支援を行う「ケアマネジメント」の導入や、医療・リハビリテーション・在宅ケアサービスなどを切れ目なく提供する仕組みづくりなどです。さらに、2022年からは、神奈川県湯河原町とタイ中部・パトゥムタニ県ブンイトー市による草の根技術協力事業を通じて、高齢者とその家族にとって最も身近な存在である“自治体”が、主体的に取り組みを進めています。このプロジェクトの特徴の一つは、日本からタイへ、一方向に知識や制度の移転を行うのではなく、日本とタイの自治体が、互いの経験や強みを持ちより、学び合う点にあります。

こうした自治体同士が対等な立場で関わり、学び合う姿勢が共感を呼び、当初9自治体だったネットワークは、2025年には39自治体へと広がりました。今では、日本とタイの学び合いに加え、タイの自治体同士も互いの経験を共有し、地域での実践に活かしています。プロジェクトで開催した式典には住民や保健ボランティアなど1,000名以上が参加し、その強い関心と期待の大きさがうかがえました。このように、タイ国内、そして国を越えて自治体同士がつながり、学びを深めていく仕組みは、JICAの取り組みの中でも特筆すべき共創の事例だといえます。

プロジェクトの式典で記念撮影する首長のみなさん

式典参加者の様子

この取り組みは、タイ国内にも少しずつ変化をもたらしています。医療・リハビリテーションセンターやデイケアセンター、認知症カフェなど、限られた予算の中で地域資源を活かした高齢者ケアが各地で生まれ、根付きつつあります。

実際にデイケアセンターを訪れると、利用者の方が「家族は日中いないから、ここに来れば人と会話ができてうれしい」と話してくれました。こうした言葉から、この取り組みが日々の安心やつながりになっていることを実感しました。一方で、施設が遠方にあることで地域とのつながりが弱まるのではないかという声もあり、その在り方については今も議論が続いています。

こうした学びは、日本側にも還元されています。湯河原町では、タイの有償ボランティアによる高齢者ケア活動を参考に、研修を受けたシルバー世代が地域で支え合う取り組みが進められています。また、2025年にタイを訪れた湯河原町の市民ボランティアからは、「住民主体の活動の重要性について改めて理解を深めた」「地域で支え合う意味を捉え直すことができた」といった声も聞かれました。こうした経験は、日本の地域づくりを見つめ直すきっかけにもなっているのだと感じます。

ブンイトー市のデイケアセンター。タイの旧正月(ソンクラーン)を祝うイベントの様子

制度や仕組みは国によって異なりますが、「高齢期にあっても、安心して自分らしく年を重ねられる社会」を目指すことは共通です。日本でも、社会保障や福祉制度が充実している一方で、公的サービスが整うほどに、本人や家族、地域が本来もつ力をどのように活かしていくのかという問いが突き付けられていると感じています。日本とタイが互いの経験から学び合いながら、地域に根ざした支え合いのあり方を、現地のパートナーと共に考え続けていきたいと思います。

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