COP26(英国・グラスゴー) サイドイベントの開催

掲載日:2021.11.12

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2021年10月31日から11月12日にかけて、英国グラスゴーにおいて第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)が開催されました。JICAは、環境省主催の「ジャパン・パビリオン」にて、3件のセミナーを開催しました。

1.太平洋地域での気候変動に対する強靭性強化ー人材育成から気候投資へ(11月3日)

本セミナーでは、太平洋気候変動センターの人材育成プログラムの成果と、太平洋島嶼国が人材育成から資金投資へと取り組むなかで得られた教訓を紹介した。また、コロナ禍からの復興と並行して気候変動に対する強靭性を強化するための新たなパートナーシップ、イノベティブなツールやアプローチについて議論した。

はじめに、太平洋気候変動センター(Pacific Climate Change Centre:PCCC)センター長オファ・カイサミィ氏が、JICAの実施する「気候変動に対する強靭性向上のための大洋州人材能力向上プロジェクト」の成果や、PCCCの今後の気候変動の強靭性向上に関する取組予定を説明した。

次に、ソロモン諸島環境・気候変動・災害管理・気象省プロジェクトの担当官クリス・テヴァ氏が、PCCCによる生態系を活用する適応策の研修を通じて習得したプロジェクト形成手法の活用等について共有した。

また、公益財団法人地球環境戦略研究機関(Institute for Global Environmental Strategies:IGES)シニア・ポリシー・アドバイザーのピーター・キング氏は、PCCCでの研修及び研修終了後のバヌアツへのメンタリングの経験から、研修とメンタリングの効果波及について紹介した。一般社団法人海外環境協力センター(Overseas Environmental Cooperation Center:OECC)主任研究員小河原二郎氏は、気候技術センター・ネットワーク(Climate Technology Centre & Network:CTCN)の資金を活用したナウルにおける海洋温度差発電等の導入に関するプレフィージビリティスタディの事例を紹介し、将来的なナウルの事例の横展開の可能性について述べた。

パネルディスカッションでは、大洋州での気候変動に対する強靭性を向上させるためのイノベティブな解決策の導入に向けて、地域的アプローチ、技術移転、人材育成、長期的な研究の必要性について議論が行われ、PCCCからはこれらの視点を考慮して新たなパートナーシップを形成していくことが確認された。

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2.東南アジア諸国における脱炭素・強靭な社会実現にむけたパリ協定のもとの気候変動対策-ベトナム、タイ、インドネシアにおけるJICA協力からの教訓-(11月3日)

東南アジア諸国においては、パリ協定を踏まえ国内における気候変動対策の強化が一気に進行している。とりわけ、国が決定する約束(Nationally Determined Contribution:NDC)、2050年以降の脱炭素化を目指す長期成長戦略の策定、都市レベルでの気候変動対策等、様々な局面から取組が行われており、世界の成長センターともいえる東南アジアで、経済成長を持続させつつ、脱・低炭素で気候変動にレジリエントな社会が成立させられるか注目が集まっている。JICAは、東南アジアの主要国であるベトナム、タイ、インドネシアにおいて技術協力プロジェクトを通じて、これらの国が自律的に取り組む気候変動対策と持続可能な開発への取組を支援してきた。本セッションでは、3つのプロジェクトのカウンターパートから、気候変動の取り組みの促進のための国内法体制の整備、国の開発計画の更新、都市レベルの気候変動の中長期的な取り組みといった最新の状況を共有した。

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タイにおいて実施中の「バンコク都気候変動マスタープラン2013-2023実施能力強化プロジェクト」のカウンターパートであるバンコク都環境局副局長Woranuch Suaykakaow氏は、2030年までの排出削減目標とその目標達成のためのアクションを定める新しい気候変動マスタープランを策定中であり、その中で2050年までにカーボンニュートラルを目指すという長期ビジョンを示すことを紹介した。
ベトナムで実施中の「パリ協定に係る「自国が決定する貢献(NDC)」実施支援プロジェクト」のカウンターパートである同国天然資源環境省(MONRE)気候変動局緩和課長Luong Quang Huy氏は、昨年11月の環境保護法の改定で同法に気候変動が明記されたことでNDCの国内の法的根拠が整備されたことを紹介し、今後はその着実な実施にむけてMONRE・関係省庁・民間セクターの計画・実施・モニタリング能力強化、民間セクターとの連携強化の重要性を強調し、JICA支援への期待が述べられた。インドネシアは、2019年から実施中の「気候変動対策能力強化プロジェクトフェーズ2」のカウンターパートの一つである同国開発計画企画庁(BAPPENAS)環境局Sudihiani Pratiwi氏が、現行の中期開発計画(2020~24年の5年間)の気候変動に強靭な開発のための政策・目標が定められており、JICAがこの実施・モニタリングのための能力強化支援を行っているとの紹介があった。

最後に、JICAは、各国・都市のオーナーシップのもと技術協力プロジェクトの活動が進捗していること、各国・都市において長期的な開発と脱炭素・強靭な社会実現に向けた更なる取り組みにプロジェクトが貢献していくと述べ、本セッションを締めくくった。

3.SDGsレジーム下における新興国の環境・気候変動政策への取り組みとその課題-開発協力のアプローチに関する研究からの提言-(11月4日)

本セッションでは、JICA緒方研究所が実施しているSDGsレジーム下における開発協力のアプローチに関する研究全体を紹介した上で、国レベル、都市レベルでの気候変動政策事例を踏まえた研究成果を報告した。

JICA国際協力専門員川西正人氏は、インドネシアにおける国レベルのGHGインベントリ構築支援のJICA協力を事例に、技術協力が気候変動に取り組む組織の能力強化にどのように寄与し得るのか、その触媒的な役割と効果の研究結果を共有した。
公益財団法人地球環境戦略研究機関(Institute for Global Environmental Strategies:IGES)リサーチマネージャー梅宮知佐氏は、アジア・大洋州地域を対象の調査結果を基に、国家レベルのGHGインベントリに係る能力は同地域で強化されてきている現状を述べた上で、今後の能力強化に向けて、統計学や、科学の基礎的な知見を強化することが不可欠であると説明した。

ベトナムで実施する「パリ協定に係る「自国が決定する貢献(NDC)」実施支援プロジェクト」チーフアドバイザー福田幸司氏は、ホーチミン市、ハイフォン市での気候変動計画を対象に実施した分析を基に、都市レベルでの気候変動への取組みに影響を与えるファクターとして、1)対策の性質、2)地域の指導者の関与度合い、3)地方政府の実施能力、があると述べ、他都市での展開可能性、都市の規模や性質、同行動計画に含まれない他の気候変動対策についても調査分析を行うことが重要と説明した。
マレーシア工科大学教授のHo Chin Siong氏はマレーシア・イスカンダルにおける低炭素社会実現に向けたシナリオ策定の成果を基に、都市レベルの気候変動対策の成功には、1)GHG排出削減シナリオに使用する方法論、2)対象地域の経済成長度合い、3)地域指導者及び地域社会による賛同、4)学術・研究機関等へのサポートの有無が必要であると述べた。
タイ・チェンマイ大学Energy Technology for Environment Research Centerセンター長 Wongkot Wongsapai氏は、気候変動マスタープランを実施しているバンコク都の職員及び現地専門家を対象に実施した、能力強化に対するステークホルダーの意識調査結果を紹介し、長期の技術協力の有効性が高い可能性があることを説明した。

発表後のパネルディスカッションでは、国・都市レベルの気候変動対策を効果的に進めるため、リーダーによるコミットメントの重要性と併せて能力強化に向けた効果的・効率的な協力実施に向けた研究の重要性が示された。これらの議論を踏まえ、低炭素社会の実現に向け、開発協力に気候変動対策を含めること、対策の推進はトップダウン・ボトムアップ双方向からアプローチすることが重要であることが確認された。