第10回JICA-JISNASフォーラム開催報告

掲載日:2021.12.20

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第10回JICA-JISNASフォーラムが2021年12月20日(月)、昨年に引き続きオンライン(Zoom)により開催されました。
本フォーラムは農業・農村開発及び水産分野における特定テーマについて、JICA、JISNAS間で討論・意見交換を行い、双方の知見を深め、若手人材の積極的かつ主体的な参加を奨励して能力開発を図ることを目的として開催するフォーラムです。
今年度は、「農学系留学生ネットワークを活用した新たな国際教育・研究協力の展開」を主題に大学をはじめとする関係機関から約80名が参加し、講演・パネルディスカッションが行われました。JICAによるAgri-Net(食料安全保障のための農学ネットワーク)の取り組み、および大学における留学生ネットワークの活用事例などが共有されるとともに、留学生ネットワークを活用した国際教育・研究協力の方策について意見交換が行われました。

開会挨拶

JICA佐藤上級審議役より、産官学関係者との人的ネットワークの強化、2018年から開始したJICA開発大学院連携プログラムを通じた親日途上国人材の育成及び2020年からの農林水産分野における留学生事業(Agri-Net)の取組について共有があり、最後に本フォーラムでは国際協力と研究協力の今後の在り方について議論が発展するよう期待する旨の発言がありました。

講演

JICAの佐野部長より、JICAでは新たに20の課題別事業戦略「グローバル・アジェンダ」を策定し、国をまたいだグローバルな事業のまとまりで、中・長期の開発効果の発現を目指していく旨の説明がありました。さらに、この戦略のもと、国内外のさまざまな関係者が参画するプラットフォーム(クラスター)を構築し、協働を通じてインパクトの最大化を目指すとともに、JICA開発大学院連携において留学生事業を戦略的に活用すること、特に農学分野の留学生と日本の産学官関係者間のネットワーク強化(Agri-network)に取り組んでいく旨の説明がありました。

続いて、京都大学の近藤教授より、「グローバル30」プログラムに関して、京都大学農学研究科における事例とともに、国際共同研究・協力のためのネットワーク構築の取り組みについて紹介がありました。とくに、部局や研究室内において、日本人および外国人の学生や研究者、教員間の交流をSNSやオンラインツールを活用して進めることにより堅固なネットワークの構築が期待されること、留学生が学会に参加することにより日本の学会の国際化にも寄与している事例の紹介、またこれらの活動を支える公募型資金についての教員への情報提供の重要性について言及がありました。

質疑応答

JICAに社会人留学の制度はないかという質問に対して、受入大学に社会人留学生の現行制度があり、適した人材がいれば現行制度の中で適用することが可能あり、すでに名古屋大学や九州大学では実施されているとJICAから回答を行いました。加えて、近藤教授より、現地の大学教員が休職して日本の大学院に留学している事例などの補足がありました。

Agri-NetworkにはJICAスキーム以外の留学生(国費/私費)も参加できるのかとの問いに対し、現行はJICAスキームの留学生に限っているが、途上国からの大学院留学生とのネットワーク構築は有益であることから将来的に検討していきたいと思っており、もし現時点でニーズがあれば個別にご相談いただきたい旨、JICAから回答しました。

パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、東海大学の石川教授、名古屋大学の伊藤准教授をモデレーターとして、「農学系留学生ネットワークを活用した新たな国際教育・研究協力の展開」をテーマに意見交換が行われました。

名古屋大学の山内教授からは、アジアサテライトキャンパス学院の「国家中枢人材養成プログラム」を土台とした海外研究教育拠点について紹介がありました。このプログラムは、各国の主要な人材が現場を離れることなく、現在直面する課題に関連して現場で所属先のサポートを得ながら博士の学位取得が可能であることが特徴であること、国際熱帯農学ステーションを立ち上げてICTと現地での研究を組み合わせた新しいネットワーク構築に取り組んでいる旨、報告がありました。

酪農学園大学の蒔田教授からは、酪農学園大学が国際獣疫事務局(OIE)食の安全のコラボレーティングセンターに指定され、学内に予防獣医医療エクステーションネットワークを設置し、研究と人材育成をセットで実施することにより、国際的な獣医学教育の向上に貢献していると報告がありました。

ササカワアフリカ財団の北中理事長からは、現地人材との連携の事例として、神戸情報大学院大学でITを学んだJICA研修員が帰国後、アプリ開発の会社を起業して活躍しており、同財団の現地での活動にあたり、コロナ禍であっても同帰国研修員と連携してアプリを活用した現地での人材育成を実施している旨の紹介がありました。また、同財団が農業普及員のブラッシュアップのために支援しているアフリカ11ヶ国30大学とJISNASがネットワークを構築し情報交換などを図っていく可能性について、提案がありました。

JICAの野口課長より、JICA筑波で実施している「農業共創ハブ」の紹介がありました。JICA筑波が民間企業と途上国人材、また日本の農業技術・製品と途上国のニーズの結節点となり、途上国の課題解決に寄与することを目的の一つとしており、JICA筑波において、大学や企業が研究や製品の実証実験を行っている他、企業が製品や研究を留学生に紹介し留学生との意見交換を行う機会を提供したこと、またJICA留学生とのオンライン集会を定期的に実施しネットワークの構築や一体感の醸成に努めていると報告がありました。

JICAの伊藤次長からは、JICAが進めるグローバルアジェンダのコレクティブインパクトを生み出すためのプラットフォーム活動を実施するにあたっては、途上国の人材や課題と課題解決を可能にする日本の技術や人材をつなぐことが重要であり、JICAはファシリテーションの役割を果たしていきたい旨の発言がありました。関係者間のコミュニケーション強化のために、Agri-Networkの帰国者を含む留学生、日本企業等の関係者を対象として、月次のオンラインセミナーを開始したことの報告がありました。留学生と企業が相互に情報交換やビジネスアイディアを共有できる場を作っていきたいと思っており、企業の方にもこのような機会を活用していただきたい旨の発言がありました。またJICAが実施している協力アプローチについても、大学とともに検証・改善していきたいと考えており、JISNASや留学生との連携強化についても期待が寄せられました。

今後の人材育成の展望に関する石川教授からの問いかけに対し、蒔田教授からJICA留学生が将来的なフォーカルポイントになることを期待している旨のコメントがあり、伊藤次長からもJICAとしても大学や国際機関との連携を通じて、より高い相乗効果を求めていきたいという意見が出されました。

JICA帰国留学生のデータベースが各国JICA事務所にあるかという質問に対し、帰国留学生のデータを管理し、同窓会活動や報告会を実施している国もあるため、関心があればJICA事務所へお問い合わせいただくようJICAから回答がありました。

最後に近藤教授より、国内の学会の会員数が減少している現状をふまえ海外会員の受入の必要性が言及され、学会に参加する産官学の関係者とJISNAS、JICAとの連携について提案がありました。

閉会挨拶

JISNAS運営委員長である山内教授より、現在、大学にとっては研究力の評価が非常に厳しい状況にあり、質の高い国際研究をどのように展開していくかは喫緊の課題となっていること、このために帰国留学生とともに共同研究や人材育成プログラムをどのように実施していくかは非常に重要であり、本日の議論がこれらに貢献していくことへの期待が寄せられました。加えて、限られたリソースをもとに様々な機関が実施しているプログラムを有機的に連携させて、海外からの留学生が将来的なパートナーとなるよう、JICAとJISNASの関係を更に発展させていきたいと述べられました。