【公開セミナー開催報告】ジェンダーに基づく暴力(GBV)の撤廃に向けた国際協力の強化に向けて、日本とアフリカの経験から考える

掲載日:2022.02.24

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今、世界の女性の3人に1人がドメスティック・バイオレンスや性暴力を経験するなど、ジェンダーに基づく暴力(Gender-based Violence:GBV)が深刻な社会問題の一つになっています。人身取引や児童婚、FGM(女性性器切除)など、国や地域の有害な慣習による暴力の事例も後を絶ちません。JICAは、誰も取り残さない社会の実現に向けて、GBVの撤廃に向けた国際協力のあり方や有効な手法、今後の展望を議論すべく、日本並びにアフリカにてGBV撤廃にむけた取り組みを実践している有識者や専門家の方々とともに、2月24日、オンラインによる公開セミナーを開催しました。

少女たちの声に丁寧に耳を傾け、彼女たちを取り残さない支援を。

セミナーの冒頭では、JICAの中村理事から、GBVの撤廃は日本と開発途上国が共に取り組むべき課題であること、また、取り組みにおいては男性も積極的に関与していくことが重要である旨が強調されました。また、女性や少女たちが尊厳をもって、その能力を思う存分発揮できる社会を実現するための取り組みを、JICAはダイナミックに進めていくとの決意が示されました。
また、オープニング動画では、「薪を集めに行こうとした時に性被害に遭いました」「13歳で出産しました」「私は家にいても役立たずだと、父は私を年上の人に嫁がせると決めました」など現地の少女たちの経験の実態が共有され、こうした少女たちをケニアで支援するマダム・フローレンス(Destiney Rescue Centerの代表)から、「彼女たちが人生を取り戻し、それぞれの夢や希望を実現させ、社会で重要な役割を担う人材となるように、そして子どもたちが明るい未来を生きていけるように、私たちは共に闘っていく必要がある」との力強いメッセージが寄せられました。

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オープニング映像

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オープニング映像

基調講演:GBVとは何か

NPO法人「全国女性シェルターネット」理事の近藤恵子さんから、「GBVとは何か」と題して基調講演がありました。近藤さんは、「GBVとは男性と女性の間にある不対等な力関係、性差別の構造から生み出される暴力犯罪である」と指摘。「性差別の存在するところでは、いつでも、だれでも、どこにでもGBVが発生するが、ドメスティック・バイオレンス(Domestic Violence:DV)・性暴力被害は他の犯罪に比べ、相談できない・訴えられない・(サバイバーが)逃げられないといった特徴がある」ことや、当事者は自分を責める傾向にあると述べられました。同時に、あらゆるGBVの撤廃にむけて、支援者の一人ひとりが「すべての責任は加害者にある」との認識を強化するとともに、暴力を生き抜いてきた当事者の「回復する力」を信じてその心身の回復やエンパワメントに取り組むことが重要であるとの力強いメッセージも発信されました。

パネル討論:私たちは何をしなければならないのか

続いて、JICAの久保田専門員をモデレーター役として、GBVの撤廃にむけて、具体的にどのような国際協力を進めていく必要があるかを議論するためのパネル討論が実施されました。

GBV被害当事者への「切れ目のない」支援体制の整備

パネリストの一人として登壇したNPO法人女性ネットSaya-Saya 代表理事の松本和子さんは、民間企業との連携を通じた取り組みを含め、DVや性暴力で困難を抱えた女性や子どもに対して同団体が提供しているさまざまな支援プログラムの内容を紹介。被害当事者に対しては、地域の各行政機関や民間の支援団体を含め、さまざまな関係者が連携を強化し、被害を受けた当事者たちへ『切れ目なく』支援をしていくことが重要であると強調しました。また、「社会がGBVを正しく理解することなくして被害当事者の回復にはつながらない」と述べ、地域の若者や住民に向けた教育活動を推進していくことの重要性を強調しました。さらに、DVを目撃することで子どもたちの脳や心身が大きく傷つけられている実態についても報告。DV被害への対応においては、被害当事者の女性に留まらず、その子どもたちの心身のケアに向けた取り組みを進めていくことが必要であると指摘されました。

加害者更生教育、暴力防止教育の推進

日本国内でDV加害者更生教育に取り組んでいる山口のり子さん(アウェア代表)は、DVの加害者には、「社会的に地位が高い人」や「学歴が高い人」などを含め、「普通の社会生活を送っている人」が多いことや、被害を受けても実際には「別れない」女性が多い現状を指摘。こうした中、中長期的な視点で、「加害者側に自分の考え方や行動を変えてもらうための取り組み」が不可欠であり、加害者更生教育の推進は、被害当事者への支援と暴力防止教育の推進に並ぶ、GBVの撤廃のための3要素の一つであると強調しました。また、加害者更生教育は加害者のケアが目的ではなく、あくまでも被害者支援の一環として位置付けるべきであることや、ジェンダー平等やGBV防止教育の義務教育化を進める必要性を訴えました。

地域の有力者や男性、若者との協働、地方政府の行政能力の強化、そして被害当事者の自立や社会復帰に向けた取り組み

国連人口基金(UNFPA)ケニア事務所でジェンダー専門官として活動する新井さつきさんとJICA専門家として南スーダンで活動する池内千草さんは、両国におけるGBVの現状とそれぞれの活動内容を報告。新井さんは、ケニアにおけるDVや性暴力、女性性器切除(FGM)や児童婚の実態を述べるとともに、「ケニアはGBVに関する法律・政策は一定度整備されているが、地域での女性差別や、ジェンダーに基づく社会・文化的規範が根強い中、これらの政策の実施が大きな課題になっている」と指摘。GBVの撤廃に向けた地方政府の能力強化や、被害当事者への支援サービス体制の強化、地域における啓発や教育活動を、地域の有力者や男性、若者を巻き込みつつ実施していくことの必要性を訴えました。

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ケニアのキベラスラムのGBV課題に対する女性活動家であるMs. Editar Ochiengからのビデオメッセージ

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GBVサバイバーへの支援に取り組む弁護士であるMs. Anne W. Ireriからのビデオメッセージ

池内さんも、兵士による性暴力被害や児童婚の実態を含め、南スーダンにおける深刻なGBVの実態を報告。また、南スーダンでは、GBV撤廃にむけた取り組みが、被害当事者の一時的な保護や、地域での啓発活動の実施に大きく偏っている側面があると指摘しました。「私たちは、もっと中長期的な視点で、被害当事者が過酷な経験を乗り越え、日常生活に戻っていけるよう、その心身の回復に向けた取り組みや就労支援などの経済的な自立に向けた支援を進めていくことが重要である」と訴えました。さらに、「GBVがジェンダー不平等な社会構造に根差している実情を踏まえると、女性の教育や意思決定への参画、経済的な自立を含め、ジェンダー平等を推進していくための取り組みを社会のあらゆる領域において推進していくことが重要である」と強調しました。

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南スーダン「ジェンダー・子ども・社会福祉省」のパートナーであるMs. Regina Ossaからのビデオメッセージ

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南スーダンでのGBV関連イベント

今後に向けて

パネリストの議論を踏まえ、モデレーターの久保田専門員は、「GBVの撤廃とは、社会・文化を変えていくことでもある。私たち一人ひとりが目の前にある差別の構造を見抜く目を養いながら、被害当事者の女性たちを中心に地域社会を作り変える意識をもった取り組みを進めていくことが求められている」と述べるとともに、「JICAも多様な分野における人材育成を図りながら、女性や少女たちが相談できる窓口を地域や学校、警察、医療機関、行政の場に拡充していくための取り組みや、地域の理解や意識の向上を図る取り組み、官民連携による支援体制の強化を通じて被害当事者の女性たちに支援を届ける体制づくりをしていくことが必要である」と総括しました。また、閉会に際しては、JICAジェンダー平等・貧困削減推進室の内川室長より、「あらゆるGBVを容認しない社会づくりを国内外の支援関係者や有識者との連携を強化して進めていきたい。JICAは今後も、一人ひとりが性別にとらわれず、誰もが能力を発揮できる社会に向けて、ジェンダー平等と女性のエンパワメントを推進する」との力強いメッセージが発信されました。

本セミナーでは、GBV撤廃に向けてJICAが新しく作成したアニメーション動画も初公開しました。JICAのYoutubeチャンネルでも公開されていますので、ぜひご覧ください。

(注)公開資料は下記お名前をクリックしてご覧ください。

セミナー情報

  • オープニング(ケニア Destiny Rescue Centerの少女たちからのメッセージ)
  • 開会あいさつ(JICA理事 中村 俊之)
  • アニメーション動画の上映「GBVの撤廃 誰も取り残さない社会の実現に向けて」
  • 基調講演(近藤 恵子さん/NPO法人「全国女性シェルターネット」理事)
  • パネル討論「GBVの撤廃 -私たちは何をしなければならないのか-」
  • 松本 和子さん/NPO法人女性ネットSaya-Saya 代表理事
  • 山口 のり子さん/アウェア代表
  • 新井 さつきさん/UNFPAケニア事務所 ジェンダー専門官
  • 池内 千草さん/JICA専門家
    (モデレーター:久保田 真紀子/JICA国際協力専門員)