正確で偏りのない情報を全ての人々へ:ジャーナリスト・セミナー開催-南スーダン・メディア支援-

掲載日:2022.03.12

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2021年のノーベル平和賞はロシア、フィリピンでそれぞれ、様々な圧力に抗しながら取材活動を続けるジャーナリスト2人に贈られました。ノーベル委員会はその授賞理由について「2人は、民主主義と表現の自由を取り巻く環境が悪化する中で、その理想のために戦う全てのジャーナリストの代表」と讃えています。過去10年の間に、“自由民主主義国家”が41か国から32か国に減少し、全世界の約68%の人が専制体制下で暮らしているといいます(注)。多くの国で表現の自由が制限される一方、デジタル空間に氾濫する真偽不明の情報が人々の間にメディア不信を募らせています。
こうした状況下、JICAは正確で公平・公正な情報へのアクセスを保障し、表現の自由を促進することを目指し、世界各地でメディア支援を行っています。そのなかから、“世界で最も新しい国”南スーダンで、JICAが独立直後から続けている支援の様子を御紹介します。

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南スーダンのメディア現況を語る女性ジャーナリスト

「ジャーナリストは決して臆せず、正しいと思ったことを発信すべき」。
「メディアのあるべき姿について、政府や国会議員、治安当局者等とジャーナリストの間で対話を進めて共通の認識を醸成したい」...。

南スーダンの首都、ジュバ市内のホテル・ボールルーム。JICA主催のメディア・セミナー『表現の自由・情報へのアクセスの保護』(2022年3月12日)に集まった地元記者、情報政策担当の政府関係者、国会議員たち計約30人が、南スーダンのメディア環境、法的枠組と運用の問題などについて熱い議論を繰り広げました。民主国家建設に向けて、それぞれの立場で優先課題が異なり、主張が平行線を辿るシーンもありましたが、参加したジャーナリストの一人は「立場を超えて自由に意見をぶつけ合うのが大切」と満足気な表情を見せていました。
「今はまさに政治の季節。自由な言論空間の有無が、南スーダンの将来を左右すると思います」。地元ジャーナリスト組合の代表も、改めてメディア環境改善とジャーナリズム健全化の重要性を強調していました。

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地元ジャーナリスト組合の代表はジャーナリズムの健全化を強調

南スーダンは2011年7月、北部スーダンから分離する形で独立。新国家建設に向けて、希望と期待が膨らむ中で、建国直後のメディア政策をリードしたベンジャミン情報相は「新しい私達の国では、基本的人権として『表現の自由』を最重視します」と語っていましたが、その後、2度にわたる国内の騒擾(2013年12月、2016年7月)の結果、「治安維持が最優先課題(国家情報委員会)」との認識が広がり、言論空間は厳しい制約を受けることになりました。
その一方で、民主国家として必要なメディア関連の法整備を進め、2013年には「公共放送局設置法」「情報へのアクセス法」等を採択、2018年までに、これら諸法の関連施行規則も整備しました。

こうした民主化プロセスに合わせて、JICAは独立直後から現地でのメディア・セミナーや国別研修を実施。2012年12月には、技術協力プロジェクト「南スーダン放送局組織能力強化プロジェクト」(2019年3月まで)を開始し、当時の国営放送局「SSTVR」を公共放送局「SSBC」に改組するプロセスを支援するとともに、同局の記者、番組制作スタッフ、エンジニア達の能力強化をサポートしてきました。上記騒擾の間、日本人専門家チームは南スーダンを離れざるを得ませんでしたが、隣国のウガンダ、ルワンダ、ケニア等で、SSBCスタッフと合流し、これら“第三国”で管理職・記者に対する研修や番組制作支援等の活動を継続することが出来ました。

南スーダンは、来年初頭までに総選挙を実施することを目指しています。将来の政権担当者を選ぶ際には、各政党の綱領や各候補者の主張等に関する情報提供が不可欠となり、メディアの役割は益々大きくなっていきます。JICAは2022年1月から、技術協力プロジェクトの第2フェーズを開始し、選挙を含む様々な政治関連情報や社会・文化に関わる重要情報を、南スーダンの全ての人々に、迅速且つ正確に伝えるための支援をしています。
南スーダンの人々が信頼できる情報にアクセスでき、一日も早く安心して暮らせる日が来ること-。プロジェクトの願いであり、使命でもあります。

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メディアに関する熱い議論を交わした後、笑顔を見せる参加者達

(注)V-Dem Democracy Report, 2021