第3回世界防災フォーラム『気候変動時代における防災の方向性』セッション開催

掲載日:2023.03.12

イベント |

概要

イベント:第3回世界防災フォーラムにおけるセッション
日時:2023年3月12日(日)11:20~12:50
場所:仙台国際センター メインホール

主な参加者

松岡由季(国連防災機関(UNDRR)駐日事務所代表)高橋新悦(仙台市副市長)、山田朋人(北海道大学大学院工学研究院教授)、岡井朝子(国連事務次長/国連開発計画(UNDP)総裁補兼危機局長)、井上智夫(前国土交通省水管理・国土保全局長)、布村明彦(河川情報センター理事長、中央大学研究開発機構教授)、竹谷公男(JICA防災分野特別顧問)※松岡氏・岡井氏はビデオ登壇

背景・目的

世界では自然災害が多発しており、死者数自体は減少傾向にあるものの、災害規模と被害は増加傾向にあります。近年の災害の激甚化、高頻度化も踏まえれば、気候変動は遠い国の話ではなく、今ここにある危機ともいえます。そこで本セッションでは科学的な知見に基づいて将来の災害リスクを可能な限り見極め、効果的な防災対策を進めるためにどうすべきかについて、国、国際機関、地方自治体、技術支援機関とそれぞれの立場を担ってきた第一人者から、最新の動向に関する知見を共有してもらいながら、気候変動時代における防災の在り方について議論を行いました。

内容

松岡由季UNDRR駐日代表からのビデオメッセージによる開会挨拶のあと、竹谷JICA防災分野特別顧問から本セッションの主旨説明が行われました。その後、高橋新悦仙台市副市長からは仙台市の「まちづくり」、「ひとづくり」、「経験と教訓の伝承」を三本柱に据えた取組みについて、山田朋人北海道大学教授からは、将来予測される豪雨災害リスクに基づき、豪雨パターンに起因する洪水流量も把握可能になることから、過去経験のない洪水についてもある程度リスク情報として扱えるようになりつつあるという最新の研究について発表が行われました。続いて岡井朝子UNDP総裁補兼危機局長(ビデオメッセージ)からは、気候危機と呼ばれる時代において、インクルーシブで、安全、強靭且つ持続可能な社会を構築していくために、UNDPが防災分野で強化している取組みについて、井上智夫前国土交通省水管理・国土保全局長からは、後述する「流域治水」などの国の最新の取組みについて、布村明彦河川情報センター理事長からは、洪水氾濫への予測情報の精度が上がっている一方で、住民が自分に降りかかるリスクを判断できる情報を分かりやすく伝えていく必要性について、それぞれ気候変動と防災に関する最新動向を踏まえたプレゼンテーションが行われました。

竹谷JICA防災分野特別顧問の司会で行われたパネルディスカッションでは、各登壇者の発表に基づき意見交換がなされましたが、特に近年日本で気候変動の影響等を踏まえた政策として打ち出されている「流域治水」が途上国への利用展開の観点から注意が必要であることから、時間を取って議論がなされました。

竹谷JICA防災分野特別顧問は、多くの開発途上国では事前防災としての治水投資が十分になされておらず、予算や人員等の防災ガバナンスも脆弱で、数年に一度規模の洪水にしか対応できない水準にあると指摘しました。このため、日本の一定の治水水準まで投資が進んだ現状や課題を踏まえて進められている関係者全体での取組である「流域治水」を、治水投資の低い開発途上国に前提条件無しに紹介すると、最優先で事業を実施すべき治水組織の責任が曖昧になり治水投資が二の次になる可能性が大きく留意が必要であることを強調しました。

井上智夫前国土交通省水管理・国土保全局長も、一定の治水水準まで到達していない開発途上国では日本の「流域治水」がそのまま適用できるわけではなく、各国の状況に応じた支援をすべきであると指摘しました。加えて、日本が気候変動を踏まえ将来の降雨増加量等を考慮して治水計画を見直しているように、途上国においても流域毎のダウンスケーリング等のデータを活用し、2022年4月に発表された「熊本水イニシアティブ」を実行すれば、途上国の治水状況が改善することが明確になり、治水を進める体制が強化されることを期待したいとの発言がなされました。

今回のセッションを通じて、JICAが協力する開発途上国向けの防災関連事業や本邦研修等においては、各開発途上国の状況を十分に踏まえる必要があり、特に、日本国内のリソースパーソンが開発途上国政府関係者へ「流域治水」を紹介する場合には、各国の発展段階や治水の整備段階に応じた説明をすることで、より効果的な災害リスク削減に寄与するのではないか、との見解の整理が図られました。

最後に竹谷JICA防災分野特別顧問は、2030年までの仙台防災枠組が折返しに差し掛かり、「仙台」という呼称が使えるのはあと7年となっている状況下、それまでに事前防災投資の一層の促進と、より実効的な災害リスク削減を図っていくことが重要であると述べました。

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竹谷公男 JICA防災分野特別顧問による発表

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井上智夫 前 国土交通省水管理・国土保全局長による発表

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岡井朝子 UNDP総裁補兼危機管理局長によるビデオプレゼンテーション

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パネルディスカッションの様子