シンポジウム報告:「グローバル難民フォーラム」今、“社会全体”で難民支援に取り組むために

掲載日:2023.07.13

イベント |

概要

シンポジウムタイトル

「グローバル難民フォーラム」シンポジウム
~今、“社会全体”で難民支援に取り組むために~
“Working Together for Solutions and Inclusion”

開催日

2023年5月31日

主催

外務省、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、JICA

場所

緒方貞子平和開発研究所 国際会議場

主な参加者

冒頭挨拶

武井俊輔外務副大臣、宮崎桂JICA理事

基調講演

ケリー・クレメンツ国連難民副高等弁務官

パネルディスカッション

根本かおる国連広報センター所長(ファシリテーター)、アナス・ヒジャゼィ氏(シリア人難民留学生受け入れプログラム(JISR)卒業生)、伊藤貴子氏(ファーストリテイリング・サステナビリティ部)、武久顕也瀬戸内市長、藤井麻衣子氏(セーブザチルドレン・ジャパン海外事業部)、室谷龍太郎(JICAガバナンス・平和構築部平和構築室長)

背景

故郷を追われた人が1億人を超え、難民問題が拡大・複雑化する現在、この世界の誰もがそれぞれの立場から解決に向けた取り組みに向き合うことが求められています。2018年に国連総会で採択された「難民に関するグローバル・コンパクト」でも“社会全体で取り組む難民支援”が掲げられており、この推進に向けて、今年12月13日~15日に「グローバル難民フォーラム(GRF:Global Refugee Forum)」が開催されます。
GRFは政府、民間企業、NGO・市民社会、自治体、難民などが一堂に会して、それぞれの経験や知見を共有し合いながら難民や無国籍者を取り巻く状況の改善を議論し、解決への取り組みを宣言する場であり、第2回目を迎える今回、日本は、コロンビア、フランス、ヨルダン、ニジェール、ウガンダとともに共同議長国を務めます。本シンポジウムでは、ケリー・クレメンツ国連難民副高等弁務官訪日の機会を捉え、GRFが主眼を置く各種セクターの代表者がパネリストとして登壇し、国内外での難民支援、難民問題解決の経験・知見を共有しながら、“社会全体で取り組む難民支援”の推進に向けて日本からできることを議論しました。

宮崎JICA理事の挨拶

宮崎JICA理事の挨拶

クレメンツ国連難民副高等弁務官の基調講演

クレメンツ国連難民副高等弁務官の基調講演

内容

冒頭、開会挨拶において、武井副大臣は難民に関するグローバルコンパクト(GCR)にて謳われる社会全体での取り組み(Whole-of-society Approach)を紹介しました。5月の広島におけるG7サミットの首脳宣言においても、難民の保護と権利擁護に関するG7のコミットが示された点を強調しつつ、本年12月の第二回GRFも念頭に国際社会の協力継続の必要性に言及しました。
宮崎JICA理事は、JICAのウガンダにおける難民に係る取り組みを紹介しつつ、GRFが世界各国における難民問題に関する取り組みに改めて力を入れ、様々なパートナーとの協力を推し進めていくにあたり重要なタイミングであるとし、JICAもGRFへの貢献を日本政府とも協力して取り纏め、積極的に関与していくと述べました。
クレメンツ高等弁務官は、基調講演において改めてGCRにて言及される責任の共有(Burden Sharing)と全社会的な取り組みの重要性を聴衆に喚起しつつ、ファーストリテイリングをはじめとした日本の民間企業の難民支援に果たしている役割を強調するとともに、日本の地方自治体の多様性に配慮した包摂的(Inclusive)な難民受け入れとコミュニティ形成を評価しました。また、人道支援における資金難が国際的に顕著な近年、UNHCRのみで出来ることには限りがあるとし、強制移動の根本原因への対処と、強制移動の解決(Solutions)への取り組みの重要性を強調した上で、難民の経済活動への参画や保護のフレームワーク、開発課題等、GRFでの国際社会のコミットメントへの期待を述べました。

パネディスカッションにおいて、室谷JICA平和構築室長は、JICAがウガンダで協力している難民の自立支援や難民と受け入れ社会のニーズを統合する統合的開発計画への取り組みに言及しつつ、難民は支援の対象であると同時に、自立と開発への貢献のポテンシャルがあり、民間との連携も含めて、開発協力が難民の可能性拡大に貢献できると発言しました。
ヒジャゼィ氏は、自身のJISRプログラムの経験を紹介。JISRが日本に到着した日から、将来の就業も含めて未来を見ることを可能にした、個人的なコンサルテーション支援も受け、日本社会にスムーズに適応していく事が出来た、家族を伴う留学プログラムは世界でも例が少なく、大変貴重なものであることなどに言及しました。JISRプログラムが難民のニーズと状況に応じて柔軟に制度を改善してきたことも高く評価されました。
伊藤氏は、ファーストリテイリングが難民への衣料寄贈を通じ、難民課題への社員の意識が高まってきた歴史を紹介するとともに、企業の魅力向上にも繋がっている点を紹介しました。また、日本の各店舗における難民雇用について、難民の店員がスムーズに働ける店舗は、スタッフの多様性を尊重する環境の良い職場になっていることを紹介しました。
藤井氏は、ウガンダにおけるセーブザチルドレンの取り組みから、難民の間では心理社会ケアのニーズが高く、人々の心の声を聞き取り、児童福祉において政府の果たしている役割を補完・サポートする形も含み、NGOが果たせるコミュニティベースの役割の大きさを紹介しました。
武久市長は、国とは異なる立場で地方自治体も外交に寄与することができるとし、UNHCRに対して1000万円を寄付したことについて、議会、市民からの理解を得る取り組みを紹介しました。ふるさと納税を通じた(返礼付き)寄付金という形で、人々の善意のみに頼らない継続性を重視していると述べ、また、ハンセン病療養施設を2つ擁する全国唯一の基礎自治体として、隔離や排除の歴史を繰り返してはいけないという思いを話されました。
閉会にあたり、ヒジャゼィ氏は、難民はただ助けを求めるために来たのではなく、自分たちは日本における社会課題を共に解決していく事が出来ると発言しました。

パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションの様子

なお、本シンポジウムに先立ち、JICA宮崎理事とクレメンツ国連難民副高等弁務官の面談では、GRFを念頭に、人道と開発の連携について意見交換が行われ、特に3月から実施されてきたJICA-UNHCR戦略対話(地域別、テーマ別)の進捗を確認し、GRFへ向けてJICAの取り組みをより大きな枠組みに関連付け、発信するための方策について議論が行われました。