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「経済成長」を実現するための「財政政策」について共に考える パナマ、エクアドルにおいてJICAチェア特別講義を開催

掲載日:2023.04.21

イベント |

2023年4月18日(火)パナマ・パナマ大学、4月21日(金)エクアドル・カトリカ大学において、松元崇・国家公務員共済組合連合会理事長によるJICAチェア特別講義「戦後日本の高度成長」が開催されました。

松元理事長は、1976年当時の大蔵省(現財務省)に入省後、農林水産業分野担当の主計官、主計局次長等、長年に渡り国家予算編成業務に携わり、内閣府事務次官を歴任されました。今般、経済財政政策に関しての豊富な知見と経験を、開発途上国の若い世代、大学教員等に伝えていただくことを目的に、対面講義を行っていただきました。

両大学での講義における、キーメッセージは以下のとおりです。

  • 戦後日本の経済成長は、財政投融資制度や所得倍増計画といった政策や法制度による基盤の上に実現した。
  • 米国の銀行家ドッジによる均衡予算主義は日本の財政を長期にわたって制約したが、日本は財政投融資という仕組みを作り出し、同制度を柔軟に運用することで経済成長のための資金需要に対応した。
  • 経済成長を成し遂げるのはケインズの言う「アニマル・スピリット」であり、また下村治の指摘する「国民の創造力の発揮」である。
  • 戦後日本の経済発展の鍵は、人々が創造性を持って懸命に働いたこと、また、そうした創造性の発揮を可能にする環境創出のために、各時代の政治家が強いリーダーシップを発揮し、適時適切な経済・財政政策が実施されたことにある。
  • 創造性の発揮を可能にする環境を作り出すための条件は国や時代により様々であり、状況に応じて経済・財政政策を立案する必要がある。
  • 「国民の創造力の発揮」「アニマル・スピリット」を醸成するための条件は、国ごとに異なるものの、一番の基本は「稼ぐに追いつく貧乏なし」である。

パナマ

パナマ大学(以下「UP」)行政学部及びパナマ事務所の共催により、パナマでの第2回目のJICAチェア講義として開催し、UP副学長、行政学部長、学生や教員等約90名が対面にて参加し、オンライン配信では約35名が参加し、計約125名が受講しました。

講義では、前述のキーメッセージと共に、パナマの所得水準を考慮すると、環境や格差是正といった多様な社会課題にも取り組む段階になっており、同国経済の更なる発展に期待するとともに、これら課題にJICAも協力している点をご紹介されました。

また、パナマ滞在中には、アルメンゴル経済財務省財務副大臣と面談し、パナマ経済の現況について意見交換をするとともに、UP経済学部の学部長以下約10名の教員と日本の高度経済成長、日本経済の現況、パナマ教育セクターの課題等について約2時間にわたり意見交換が行われました。

受講生、関係者らと

受講生、関係者らと

エクアドル

カトリカ大学は財務省幹部をはじめ政府の中核を担う人材を輩出する同国のトップ大学です。同学における講義には、経済学部の教授、学生に加え、エクアドル外務省・外交官アカデミーの関係者、財務省職員等、学外からの参加者もあり、計160名前後の出席を得ました。

講義に続いて行われたパネルディスカッションでは、カトリカ大学経済学部副学長、カトリカ大学経済学部教員(元中央銀行総裁)、カトリカ大学行政学部教員が参加し、経済成長の基となる「人間の創造力(=ケインズ的には「アニマル・スピリット」)」を生み出す方策、経済成長に財政政策がもたらす影響、経済成長に必要とされる経済社会インフラ整備、人的投資、政治の安定性等に関する議論が交わされました。

エクアドル滞在中には、ホセ・マンティージャ経済財務省公共財政次官、グスタボ・カマチョ国家財政審査課長等と面談し、エクアドル財政の現状、今後の政策に関して活発な意見交換が行われました。加えて、カトリカ大学の経済学部副学部長以下8名の教員(パネルディスカッションに参加したマテオ教授・元中銀総裁を含む)と約2時間にわたり意見交換が行われました。

満員となった講堂

満員となった講堂

パネルディスカッション

パネルディスカッション

評価と今後の取り組み等

パナマでは、参加者から日本の開発経験に関して多くの謝意や質問が寄せられ、日本の開発経験に関する関心の高さが窺えました。また、講義終了後には、学生達が講師の松元理事長とのツーショット記念撮影のために行列ができる等、松元理事長のメッセージが学生達の共感を呼びました。

今回、講義の前後に、松元理事長とパナマの有識者(副大臣、経済学部教員)との意見交換を開催することで、講義がより現地のコンテクストに沿うと共に、オピニオンリーダーと関係構築を行う機会となりました。今後も、JICAチェアやSDGsグローバルリーダーコース等を通じ、JICAチェアの活動が現地の教員等で実現できるよう図っていきます。

エクアドルでは、講義会場は満席となり、聴衆は非常に熱心に聴講している様子が伺えました。同国は、過去10年近く経済成長が停滞しており、経済成長を実現するために日本が採用してきた財政政策というテーマが関心を呼んだものと思われます。講義後は、他テーマでも日本の開発経験を共有する機会を設けて欲しいとの要望が寄せられたことから、今後もJICAチェアの取り組みを続けてまいります。