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JICA-JISNAS(農学知的支援ネットワーク)シンポジウム2024開催報告 「農業協力における現場ニーズと新たな取り組み」

掲載日:2025.02.13

イベント |

JICA-JISNASシンポジウム2024が2024年12月20日(金)、JICA本部会場とオンラインのハイブリッド形式により開催され、約60名が出席しました。
本シンポジウムは、農林水産分野や地域開発における特定テーマについて、JICA/JISNAS間で討論・意見交換を行い、双方の知見を深め、若手人材の積極的かつ主体的な参加を奨励して能力開発を図ることを目的として開催しております。今回は、国内の主に農学分野に関わる研究機関やコンサルタント会社、民間企業、その他個人等も参加し、技術協力とアカデミアとの連携の取組み事例の共有を基に意見交換がなされました。

開会挨拶

各講演に先立ち、JICA山口上級審議役より、気候変動、人口増加、環境劣化等に伴う食糧不安に対して、国際社会全体で取組む必要性と、その中で日本が有する先進的な農業技術や豊富な研究成果が果たせる役割の可能性について言及がありました。そして、本シンポジウムを貫く3つの論点として、日本の農学研究が持つ強みを、国際課題にどのようにつなげていくべきか、アカデミアと開発機関、そして現地との連携を強化するためにどのような仕組みが必要か、研究成果をどのように現地に適用(ローカライズ)すべきか、を掲げ、参加者と共有しました。

講演

まず、JICA経済開発部の北田技術審議役より、JICAが2024年10月に公表した農業・農村開発協力における気候変動対策の取組戦略を基調とした報告がありました。具体的には、JICAの案件担当者による途上国における気候リスクの影響評価の将来予測を効率的かつ効果的に把握し適応策の検討を可能とする現在開発中の標準モデルについて紹介がありました。また、同モデルと気候変動対策支援ツールClimate-FITとの併用による、気候変動対策に主眼を置いた新規事業の形成を目指していく方針について共有されました。

続いて、国際農林水産業研究センター(JIRCAS)・生物資源利用領域の小杉領域長より、「経済と環境の両立の重要性:オイルパーム産業の現場から」と題して、同領域長がプロジェクトリーダーを務めているマレーシアにおけるSATREPS(2019年4月~2025年3月)での活動について報告がありました。同プロジェクトでは研究成果の社会実装の一環としてベンチャー企業が設立され、マレーシア国内で様々な環境社会的課題の原因ともなっているパームバイオマスを原料としたペレット製造とその利活用に関する実践について共有されました。
質疑応答では、パームバイオマスを用いたペレットのマルチ利用を促すことによる森林減少に与え得る可能性に関する質問に対して、ペレットと比較してパームオイルの方が格段に利益が大きいため、ペレットビジネスを目的に森林を切り開きパームヤシ農園をすることは考えにくい旨返答されました。

次に、千葉大学環境健康フィールド科学センターの高垣特任教授より、同大学の「千葉大学グローバル人材育成‐ENGINE-」プログラム(2020年~)の背景、及び同プログラムにおける「学部・大学院生の全員留学」を目指した留学支援体制強化、外国人教員の配置等による教育改革やICTも活用した教育環境整備等にかかる具体的な取り組みについて報告がありました。
質疑応答では、「全員留学」を受け入れる協定校のキャパシティについて問われ、高垣特任教授からは、受入れ先は協定校だけでなく、企業が実施するインターンシップや各種ボランティアなどの全プログラムを含めて「全員留学」とし、この「全員留学」が同大学プログラムの支援対象となるとの回答がありました。

さらに、東京大学大学院農学生命科学研究科の山本教授より、「国際連合工業開発機関(UNIDO)との海洋プラスチックごみ削減に向けたプロジェクト」と題して、同大学とUNIDOをはじめとする国際機関から成る「東京大学海洋アライアンス連携研究機構」においてインターンシップ連携(2014年~)や、エジプトにおけるUNIDOとの海洋プラスチック問題の解決に向けた共同プロジェクト(2019年~)における教育活動及び研究面での成果について報告がありました。
質疑応答では、大学と国際機関の連携の立ち上げや維持のために重要な働きかけや工夫に関する質問に対して、山本教授より、立ち上げに際しては連携研究機構と繋がりがある教員を通した働きかけが重要であり、継続については、日本財団からの資金的支援があることが大きいと返答がありました。また、適宜各国際機関の人事と話し合いを実施し、必要であれば協定を結ぶ等、細やかなコミュニケーションを大事にしていると返答がありました。

最後に、JICAバナンス・平和構築部STI・DX推進室の廣澤副室長より、「JICAの科学技術協力の展開」と題して、JICAで科学技術協力を行っていくスキームとして「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」、またSATREPSで創出された技術・アプローチの社会実装を促進するために2022年度から開始された「社会実装型技術協力プロジェクト」の2スキームついて報告されました。また、これらのスキームでは介入できない点にアプローチするために、現在STIDラボを構想している旨の共有がありました。
これに対して会場参加者からは、SATREPSでは研究開発以上に人材育成に重きが置かれる印象を受けているところであり、今後STIDラボでは基礎研究、応用研究、開発、実装化・事業化の全体を重点化し考えていけるような機会が生まれることを期待するとコメントがありました。

閉会挨拶

JISNAS運営委員長である名古屋大学の山内教授は、全体の報告を振り返り、議論された様々な地球規模課題に関して、社会から日本の農学に向けられる期待は大きいこと、その一方でそうした要請に対して農学はまだ十分に応えられていない現状の認識について共有しました。そして、現状の改善のためには学生が地球規模課題を自身の課題として捉えられるようになると共に、教員側もそのマインドセットをつくることが重要であると伝えられました。また、JISNASとしては、現在JICAが構想しているSTIDラボ等とも連携しつつ、学生や若手の研究者・実務者が育っていくような好循環が生まれるよう、共に取組む意味は大きいと認識していると述べられました。

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当日の会場の様子

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報告するJIRCAS・生物資源利用領域の小杉領域長

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質疑応答の様子