大阪・関西万博テーマウィークにおいて、シンポジウム「こどもの未来を育むために: 母子手帳と母子保健分野におけるデジタルソリューション」を開催
掲載日:2025.07.03
イベント |
イベント名:大阪・関西万博テーマウィークシンポジウム「こどもの未来を育むために: 母子手帳と母子保健分野におけるデジタルソリューション」
開催日: 2025年6月20日(金)10:30-12:00
主催: 独立行政法人国際協力機構 母子保健サブネットワーク
場所: 大阪・関西万博テーマウィークスタジオ及びオンライン
日本をはじめ世界の国々では、母子保健分野におけるデジタルソリューションの活用が始まっており、すべての母子が質の高い母子保健サービスを享受するためのツールとして、その活用と更なる発展が期待されています。
デジタルソリューションの活用が、母子の健康課題の解決にどのように役立つか、各国政府、民間企業、国際機関や援助機関がどのように協働したか、ブータン、ガーナ、日本の事例から学びました。
そして未来に向け、更なる協働と共創の可能性について議論しました。
冒頭、全体司会であるJICA人間開発部小澤課長が、毎日世界では約800人の妊産婦と約1万5千人の子どもが予防可能な原因で亡くなるなか、SDG時代の母子保健国際戦略は「生き残る(Survive)」から、「より良く生きる(Thrive)」に移行していること、及び本シンポジウムの目的を紹介しました。
UNICEFアン・ディッチェン氏はビデオメッセージで、乳幼児、思春期の適切な時期に成長・発達の異常を発見し適切なケアに繋げることの重要性から、昨年WHOとともに、中低所得国での定期的な乳幼児健診・思春期健診を推進するためのガイドラインを発行したこと、日本では母子手帳が母子の健康のために重要な役割を果たしてきたところ、WHO、UNICEF、JICAは、2023年に家庭用保健記録(Home-based records, HBR)実施ガイドを発行し、HBR活用促進に関する協働を続けていることを紹介しました。
萩原国際協力専門員は、JICA母子保健クラスター戦略および母子手帳と母子保健分野のデジタル技術を概観し、国連機関やJICAが支援してパレスチナ難民向けに作成した母子手帳や母子手帳アプリの事例を紹介しました。
また、このセッションで紹介するブータン、ガーナの事例は、官民が連携して母子保健の課題を特定し、その解決のためにデジタルソリューションを導入した好例であると述べました。
メロディ・インターナショナル株式会社の尾形氏は、全てのお母さんが安心・安全な出産を迎えられるようにするというミッションのもと、医療機器としての基準を満たしながら軽量で誰でも使えるモバイル型分娩監視装置「iCTG」を開発し、タイ国、ブータン国に導入したことを説明しました。
そして、ブータン保健省、香川大学、メロディ・インターナショナル、JICAが連携し、SDGsの理念を体現するモデルの構築を進めていくとの抱負を語りました。
メロディ・インターナショナル尾形氏(右側)
ブータン保健省のモンガル氏は、近年ブータンでは多くの分娩が医療施設で行われるようになったにもかかわらず、妊産婦死亡が起きていること、UNDPとJICAの支援でiCTGを導入し、現在では国内80カ所の保健医療施設に整備され、早期に異常を発見し適切な治療に結びつけることができることを説明しました。
そして「産科専門医の数は限られているが、iCTGを活用することで妊婦に必要なサービスを提供できるようになった。」との前保健大臣の声を紹介しました。
ブータン保健省 モンガル氏
ガーナヘルスサービス家庭保健局長ブライトソン氏は、2018年にJICAの技術協力の下、ガーナ母子手帳を開発、全国展開しましたが、母子手帳に未記入の個所がある、家庭で十分に活用されていない等の課題があると説明しました。
そこで、NECが開発した業務支援アプリを活用することにより記入率が向上したこと、栄養カウンセリングの実施率と質が向上したことを紹介し、この経験をもとに、開発パートナーと協力しながら母子保健分野の電子化拡大を目指したいと語りました。
ガーナヘルスサービス ブライトソン氏
NECの眞塚氏は、ガーナで開発した保健医療従事者用業務支援アプリの実際の画面を示し、入力方法、表示方法を紹介しました。
また、「BMIの記録率は5倍、成長曲線の記録率は6倍に改善していて、素晴らしいアプリ!」であるという利用者の声を紹介し、今後はオフライン機能を整備しながら、プロジェクトエリアの拡大を目指したいと述べました。
成育こどもシンクタンクの山縣氏は、母子手帳や健診事業、保健師や助産師の直接ケアや市町村レベルのきめ細やかな支援により、戦後日本の乳幼児死亡率が減少したことを紹介したのち、母子保健分野のデジタルトランスフォーメーション(DX化)は後れを取っていると指摘したうえで、母子保健サービスの電子化構想を紹介しました。
パネルディスカッションでは、ブータン、ガーナの今後の取り組みや、民間企業が政府プログラムを支援する際の難しさと工夫、さらに日本の母子保健分野の電子化とブータン・ガーナからの学びについて意見を交わしました。
ガーナWFP(国連世界食糧計画)はビデオメッセージで、栄養カウンセリング実施率を高めたNECのアプリは、デジタル技術を必要とされる場所に的確に使用することが、命を救うことに繋がることを証明したとその介入を賞賛しました。
モンガル氏は、今後保健医療従事者、医用工学士のカリキュラムの中にiCTGを含めていくこと、さらにブータンにおける電子化推進方針を紹介しました。尾形氏は、iCTGを修理やメンテナンスのために日本に送り返す課題に直面し、現地の技術士の能力強化を行いメンテナンスができる体制を構築したことを紹介し、共に仕事をしていくという信頼関係が大切であり、この信頼関係が持続可能な仕事に繋がっていくと強調しました。
ブライトソン氏は、電子化で蓄積されたデータは、国家保険機構のシステムなどとの統合し活用していくことが大切であり、母子保健だけでなく、人々のウェルビーイングのために使っていきたいと話しました。眞塚氏は、国際機関、大使館、JICAの支援を受けながらガーナ政府とのやり取りを始め、実際に現地訪れニーズをつかむことで、活用されるアプリの開発を進めてきました。
この過程で、直接現地でニーズを確認することの価値を確認したと語りました。
さらに、山縣氏は、DX化は保健活動の効率を上げる点で、革命的な取り組みである一方、顔の見える関係を維持することが重要であると語りました。
JICA萩原国際協力専門員
最後に、萩原専門員は、人々のニーズに直接応えるデジタルソリューションであること、そして政府、国連機関、援助機関、民間企業が協力して課題を解決することの重要性を強調しました。
母と子の健康とウェルビーイングのために、デジタルソリューションを使った協働を積み重ね、その成果を共有、意見を交わしていくことが、次の共創と大きな開発インパクトに繋がっていくことを期待しています。
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