よこはま動物園ズーラシア・JICA共催「オカピのふるさとを知ろう:『地球の肺』コンゴ盆地について理解を深める」
掲載日:2025.08.18
イベント |
2025年7月27日(日)、よこはま動物園ズーラシアとJICAは、よこはま動物園ズーラシア内ころこロッジにて、「オカピのふるさとを知ろう:地球の肺コンゴ盆地について理解を深める」というテーマでシンポジウムを開催しました。
よこはま動物園ズーラシアは、アフリカ大陸のコンゴ盆地を唯一の生息地とする希少動物オカピを国内で飼育・展示する数少ない動物園の一つです。本シンポジウムでは、よこはま動物園ズーラシア関係者に加え、政府開発援助(ODA)の実施機関としてコンゴ盆地の保全を支援する国際協力機構(JICA)関係者、ならびにコンゴ民主共和国からの環境分野の専門家が登壇し、動物園の役割やオカピの生態、コンゴ盆地の保全の取組や課題について発表しました。なお、本シンポジウムは、第9回アフリカ開発会議(TICAD9)パートナー事業の認定を受け、外務省、環境省、林野庁、横浜市国際局の後援、森から世界を変えるプラットフォームの協賛を得ました。会場では駐日コンゴ民主共和国大使ルクムエナ・センダ閣下他、動物園来園者101名にご参加いただきました。
(会場の様子(午前の部)写真提供:よこはま動物園)
本イベントは午前、午後の二部構成で実施されました。
午前の部では、オカピの国内での飼育・繁殖に取り組むよこはま動物園ズーラシアから園長の村田浩一さんより動物園の役割について、続いて、同動物園オカピ飼育担当の藤澤加悦さんより、昨年7月に10年ぶりに誕生したオカピの繁殖取組、ならびにその生態についての紹介がなされました。続いて、コンゴ民主共和国環境・持続可能開発省へ政策アドバイザーとして派遣中のJICA専門家大仲幸作さんより、コンゴ盆地熱帯林の重要性、日本との繋がりについて説明がなされた後、コンゴ民主共和国キサンガニ大学教授のエワンゴ先生より、コンゴ民東部のイトゥリにおけるオカピ保全の歴史と現状、課題について、オカピの保全に四半世紀以上関わってきたエワンゴ先生ご自身の体験談を交えながら講演をいただきました。最後に、コンゴ盆地への日本の協力について、JICA地球環境部森林・自然環境保全グループ課長の栗元優さんより紹介がなされました。
村田さんは、気候変動や生物多様性の喪失により人の営みである社会・経済が影響を受ける今、動物園の役割は大きいと言います。地球環境と生物多様性の保全に貢献するだけでなく、動物たちの生息環境を守ることも見据え活動したいと今後の展望を語りました。藤澤さんは、昨年7月によこはま動物園ズーラシアで10年ぶりに成功したオカピの繁殖を振り返り、スワヒリ語で「幸福」と命名されたフラハ誕生までの経緯について、繁殖や誕生の瞬間の映像を交えてわかりやすく説明してくださいました。
大仲さんは、エワンゴ先生の基調講演に先立ち、世界の森林・コンゴ盆地についての基礎知識を紹介し、人間の農業活動に伴い、コンゴ盆地の森林が消失している現状を説明し、このままのペースで進めば2100年にはコンゴ盆地からオカピが住めるような原生的な熱帯林はなくなってしまうと警告しました。
続くエワンゴ先生は、オカピの森、その歴史、課題、希望について、四半世紀をオカピの保全に捧げた自身のライフストーリーとも重ねて語っていただきました。
コンゴ民主共和国におけるオカピの保護活動は、1950年代にジャン・ド・メディナ氏による東部イトゥリでの捕獲・飼育拠点の設立が発端となりました。1992年にオカピ野生動物保護区が設立され、1996年、ユネスコ世界自然遺産として登録されました。オカピ野生動物保護区には1500~3000頭のオカピが生息しているといわれ、他にも数多くの貴重な野生動植物の宝庫です。さらに、オカピ保護区には、ムブティと呼ばれる先住民族が多く暮らし、天然資源を利用し、伝統的で持続可能な暮らしを続けています。エワンゴ先生によると、先住民族にとって、オカピは神聖な象徴として大事にされ、「神の奇跡」と呼ばれているそうです。そのオカピの棲む森も、違法な鉱山開発や密猟により、森の生き物たちは深刻な影響を受けています。重ねて、コンゴ民主共和国東部では、武装反乱軍等の襲撃により、オカピ飼育・適応センターも暗黒の時代を迎えました。2012年の武装攻撃で、オカピ飼育施設にいた14頭のオカピと飼育員が虐殺されたのです。2025年2月、施設はようやく活動を再開し、現在、現地語で「統一(ユニティ)」を意味するトゥンダマと命名された1頭のオカピが飼育されているといいます。
(エワンゴ教授 写真:JICA)
これまで数えきれないほどの困難に直面しつつも、オカピの保全のために一生を捧げた多くの活動家や研究者たちに支えられ、オカピの保全の今があります。エワンゴ先生は、オカピの保全は、生物多様性保全、気候変動対策、文化的意義の保全、先住民族の伝統的コミュニティの強化にも資すると訴えます。さらに、コンゴ盆地の森林と気候変動の関係を究明することは、地球全体の気候の安定化にも貢献することにつながるとし、コンゴ盆地保全の重要性を訴えかけました。
エワンゴ先生に続き、栗元さんより、コンゴ盆地への日本の協力の事例紹介がなされました。そして、国際協力に携わるのは、JICAだけではなく、国際機関やNGO、大学、民間企業、ボランティア等様々なアクターとの連携の可能性があると語りました。
午前の部の最後に、会場からの質問として「遠く離れたところに住む私たちにできる具体的なことで、現地の人たちに役立つことはあるか」という問いが投げかけられました。エワンゴ先生は、「まずは希望を持つこと」、と答え、コンゴ盆地を支援するために、現地の大学への支援や、現地の人々への支援など、多くのニーズがあると支援を呼びかけました。
(午後の部 写真提供:よこはま動物園)
午後の部では、オカピ展示場にて藤澤さんによるオカピ「特別ガイド」の実施後、オカピの生息地であるコンゴ盆地について、特別写真展(写真:JICA提供)を開催し、コンゴ盆地に生きる人々の暮らしや、野生動物に焦点をあて、15点の写真パネルを紹介しました。「特別ガイド」に続く「特別写真展」も多くの方にご参加いただき、質問が続出しました。
アンケートの結果、参加者の皆さまからは、オカピを通じてコンゴ民主共和国を知ることができた、コンゴ盆地の保全の重要性について身近に考えることができて有意義だったという多くのポジティブなフィードバックをいただきました。
(会場の様子(午後の部)写真:JICA)
(一新された常設展示パネルの様子 写真提供:よこはま動物園)
・村田浩一さん(日本語オリジナル) 「動物園の役割~生物多様性保全の取り組み~」
・藤澤加悦さん(日本語オリジナル) 「オカピの生態とその繁殖について」
・大仲幸作さん(日本語オリジナル) 「世界の森林・コンゴ盆地についての基礎知識」
・コルネイユ・エワンゴさん
「Okapi : Histoire, Défis et Espoir」(フランス語オリジナル)
(日本語抄訳「オカピの森:歴史、課題、そして希望」)
・栗元優さん(日本語オリジナル) 「オカピのふるさとを知ろう~コンゴ盆地への日本の協力~」
・オリジナル版(準備中)
・日本語通訳版(準備中)
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