JICA技術協力がつないだ研究パートナーシップ-感染研 とブラジルFiocruz がMoC締結-
掲載日:2026.08.19
イベント |
MoC締結の際の集合写真
日本の国立健康危機管理研究機構(JIHS)・国立感染症研究所(感染研)とブラジルのオズワルド・クルス財団(Fiocruz)は、感染症研究分野における協力強化を目的とした協力覚書(Memorandum of Cooperation :MoC)を締結しました。
両機関は現在、JICAが実施中の技術協力プロジェクト「新型コロナウイルス感染症にかかるゲノム・モニタリング・ネットワーク強化プロジェクト(FINDINGS)」*を通じて連携を深めてきました。本MoCは、プロジェクトで築かれた信頼関係と研究成果を基盤として、プロジェクト終了後も両国の研究機関間で共同研究や人材交流を継続していくための新たな一歩となるものです。
*ブラジルでは、COVID-19に加え、デング熱やジカ熱など様々な感染症への対応が公衆衛生上の重要課題となっています。本プロジェクトは、主に感染研とFiocruzの連携のもと、ゲノム解析を活用した感染症監視体制の強化、共同研究、人材育成を進め、感染症の流行に迅速に対応できる持続的なゲノム・モニタリング・ネットワークの構築を支援しています。[jica.go.jp]
[1] 国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所
[2] オズワルド・クルス財団(Fiocruz):ブラジル保健省傘下の国立公衆衛生・感染症研究機関であり、医療、研究、教育、ワクチン開発等を担う。
MoC締結に先立ち、2026年6月にブラジルのリオデジャネイロで「FINDINGS国際ワークショップ2026:Metagenomics from the Bench to Clinical Interpretation」、及びサルバドールにおいて「第2回日伯国際協力セミナー」が開催されました。
ワークショップでは、臨床検体を対象として次世代シーケンサーによる遺伝子配列の決定と、その遺伝子配列からバイオインフォマティクスによるデータ解析によって原因病原体を特定することを一貫して学ぶ実践型プログラムとして実施されました。この技術は、本年4月から5月にクルーズ船でハンタウイルスの一種であるアンデスウイルスが流行し死亡者も発生した際に、原因となる病原体を特定するのに使用された技術です。
日本からは感染研および大阪大学の研究者が参加し、Fiocruzの研究者らと連携して講義や実習を担当しました。ブラジル各地から集まった参加者は、最新のゲノム解析技術や感染症研究の知見について熱心に学び、活発な意見交換が行われました。
続いて開催された第2回日伯国際協力セミナーでは、プロジェクトを通じて得られた研究成果や技術的進展が共有されるとともに、感染症対策におけるゲノム情報活用の重要性や、今後の日伯共同研究の方向性について議論が行われました。サルバドールの研究機関では遺伝子診断やゲノム解析に必要な設備・体制が整備されていることが確認され、日本側との連携による解析手法の標準化や共同研究のさらなる発展への期待が共有されました。
本セミナーとワークショップは、日伯双方の研究者がこれまでの成果を振り返るとともに、将来の感染症対策に向けた新たな協力の可能性を確認する貴重な機会となりました。
ワークショップ中の鈴木専門家(感染研)
2026年7月30日にリオデジャネイロのFiocruz本部にて、感染研とFiocruzは、感染症研究分野における協力強化を目的としたMoCの署名式を行いました。
署名式では、冒頭Fiocruzのモレイラ総裁から同財団の使命を推進していくために国際協力は極めて重要であり、MoCの締結は大変歓迎すべきものであるとの挨拶がありました。また、両機関の関係者において今後の協力内容について議論が行われ、プロジェクトで実施してきた研究分野に限定することなく広く感染症全体に亘っての協力や、両機関で協力して実施する人材育成などについて意見を交換しました。関係者からは、今後の進展について両機関の熱意を感じたとの声が聞かれました。MoC締結を機会に、さらに両機関の協力関係が深まり、両国に止まらず世界規模での感染症制圧に貢献していくことが期待されます。
Q:今回のMoC締結にはどのような意義がありますか。
A: 感染症に国境はなく、感染症対策に関わる各国の行政機関や研究機関が連携して対応することが必要不可欠です。先の新型コロナウイルスによるパンデミックでもその必要性が再認識されました。日本とブラジルを代表する感染症研究機関である感染研とFiocruz間のネットワーク構築は、感染症対策の世界インフラのひとつになると考えています。
感染研は2025年4月に国立国際医療研究センターと、新たに国立健康危機管理研究機構(JIHS)の下に統合され、以前から取り組んできた国際協力について推進するためにより一層の努力を行っているところです。今回のMoC締結は、その一環の活動としてとらえています。研究所の使命である研究活動を共同で進めるだけでなく、人材交流によって国際的に対応能力をもった若手研究者の育成や、情報交換を通じて世界レベルでの感染症対策に役立つように両機関の関係強化が重要であると考えています。
Q: Fiocruzとの協力にどのような強みや可能性を感じていますか。
A: Fiocruzはブラジル国内のみならず、中南米においても汎米保健機構(PAHO)や世界保健機関(WHO)と協力して感染症分野においても重要な役割を果たしています。また、近年増加している国境を越えた感染症の流入などを考えると、わが国における感染症対策において世界レベルでの感染症研究、情報ネットワークの構築は必須です。今回、Fiocruzとの協力関係を深めることは、感染研にとって、南米における初の研究・情報ネットワーク拠点構築という観点で、極めて重要であると考えています。Fiocruzは優れた研究機能を有しており、両組織の優れた点を共有・補完することによって、Equal Partnershipの推進、両組織の機能強化・発展に結びつくことを確信しております。
Q: 今後の日伯協力に期待することをお聞かせください。
A: 今回、双方の主担当者の尽力により信頼関係の構築が進展し、MoC締結に至りました。今後は、これまでのJICAの支援による技術協力プロジェクトによって構築された基盤を、さらに多くの感染症分野での協力関係に進展させるとともに、双方の強固な信頼関係を次世代に継続・発展させていきたいと考えています。そのためにも、共同研究の実施のみならず、両機関の間での人材交流を活発に行うことによって国際的に感染症に対する対応能力をもった若手研究者が育成できることを期待しています。
Q: プロジェクト開始時と比較して、Fiocruzとの関係はどのように発展しましたか。
A: 本プロジェクトは、協力開始前の案件形成フェーズでのブラジルと日本の相互理解の不足等のため、プロジェクトの意義について充分に理解が得られず混乱のなかでの立ち上げとなりました。その後、粘り強い対話や、日本人専門家派遣や研修員受入などの活動を通じ、時間をかけて信頼関係を地道につみ上げた結果、ブラジル側も積極的な姿勢に転じるようになりました。そうして、本プロジェクトが双方の研究能力を向上させるプロジェクトであり、かつ共同で研究活動を進めて行きたいという共通認識が形成できたと思います。今回、感染研とFiocruzとの間でMoCを締結することになったのは、本プロジェクトを土台に、さらに継続的に研究協力、人材育成を進めていくことの重要性を認識したことに他なりません。
Q: 今回のMoC締結を、プロジェクト成果としてどのように評価していますか。
A: 本プロジェクトを実施してきた内容が一方通行ではなく、ブラジル側からも充分に理解を得られ、極めて価値の高いものとして認識された結果と評価しています。また、これまでプロジェクト運営方針の最重要事項として取り組んできた「ブラジル側の当事者意識や主体性を醸成すること」が具現化しつつあり、本プロジェクトの成果を一過性のものではなく、継続性かつ発展的なパートナーシップに結びつけたいという両機関の意思と捉えています。同時に、プロジェクト終了後の成果を持続していくための基盤を構築できたと考えています。その意味で、今回のMoC締結は極めて意義深いものと考えております。
Q: プロジェクト終了後に期待する展開を教えてください。
A: 本プロジェクトで培った両機関の信頼関係を基盤にして、特定の感染症分野だけでなく両機関にとって重要な課題について協力し合って、世界レベルでの感染症対策に役立つような研究成果が生まれることを、また両機関のパートナーシップがより発展して国際的に感染症に対する対応能力をもった若手研究者が育っていくことを大いに期待しています。
Q: MoCの締結により、どのような可能性が開かれるでしょうか。
A:MoCの締結は、FiocruzとJIHS傘下の感染研との関係強化において、非常に重要な節目となります。
本MoCは、研究、技術開発、および保健政策の分野における国際協力のための、広範かつ強固な制度的基盤を確立するものです。これにより、共同研究・開発プロジェクトがより体系的に構築されるとともに、研究者や技術専門家の交流促進、研修・講習・セミナー・学術会議の開催、さらには技術情報・資料の交換の拡大が図られます。
日本とのパートナーシップは不可欠と考えます。共有された知見を公衆衛生における具体的な成果へと転化することを可能にするからです。
Q: 日本との協力によって得られる利益とは何でしょうか。
A: 日本との協力は、科学的、技術的、制度的、そして人的な面において、極めて重要な利益をもたらします。
主な利点の一つは、Fiocruzおよびブラジルの諸機関が持つ経験と、日本の機関が誇る卓越した科学技術力とを結びつけた共同研究の推進です。この相互補完性は、保健分野の課題への対応力を強化し、研究・サーベイランスの手法を改善するとともに、ブラジルと日本のみならず他国にも裨益しうる知見の創出を拡大します。
日本とのパートナーシップは、信頼、互恵性、そして共通の関心事に基づいているという点で、特に価値のあるものです。日本は、科学的厳密性、革新性、そして保健危機への備えにおいて、広く認められた伝統を有しています。
Q: FINDINGSは、研究者およびブラジルの若手人材にとって、どのような重要性を持つのでしょうか。
A: FINDINGSプロジェクトは、ブラジルと日本の間の科学協力を、研究、人材育成、そして職業能力開発における実践的な機会へと転化させるものであり、極めて重要な意義を持ちます。
若手研究者や、現在育成段階にあるその他の人材にとって、FINDINGSは特に貴重な機会となります。国際協力に参加することにより、新たな手法を学び、技術的能力を高め、多文化的なチームで働く力を養い、そして大規模な科学プロジェクトがどのように計画・実施・評価されるかを理解することができます。
科学的な育成に加え、これらの若手人材は、長期的な専門的関係を築き、論文発表や学術活動に参加し、国際的な研究ネットワークに加わる機会を得ることになります。