日本と途上国をつなぐJICAの外国人材受入支援

#8 働きがいも経済成長も
SDGs
#10 人や国の不平等をなくそう
SDGs

2023.10.26

人口減少・少子高齢化が進む日本では、社会や産業が活力を維持するうえで、外国人材の活躍が今や不可欠となっています。一方で、労働条件や生活環境をめぐるトラブルも起きており、このままでは外国人材の日本離れが進みかねません。

こうした中、JICAは機構内に「外国人材受入支援室」を新設し、より適正かつ効果的な外国人材受入れの実現に貢献すべく動き出しています。問題の背景に何があるのか、JICAとしてどんな協力ができるのか、同支援室の小林洋輔室長に聞きました。

外国人など多様な人々が働くイラスト

日本は安心・安全で魅力ある働き先?

路線バスの減便や廃止、病院の閉鎖など、いま全国で人手不足の影響が身近な暮らしへと広がっています。新たな担い手として、女性や高齢者と並び期待されているのが外国人材です。

日本で働く外国人の数は90年代から徐々に増加し、2022年には約182万人と過去最高を更新。しかし今後は、少子高齢化のスピードにその数が追い付かず、2030年には約419万人の需要に対して63万人が不足するという試算も出ています。(JICA 緒方貞子平和開発研究所発表)。

日本の生産年齢人口(15~64歳)と外国人労働者の推移と予測の図

日本社会が活力を維持していくには、外国人労働者に生活や就労の場として、日本が選ばれる必要があります。他国でも少子高齢化が進み、人材の獲得競争が激しくなる中、日本は外国人材にとって安心・安全かつ魅力的な働き先となっているのでしょうか。

「外国人労働者の多くは途上国から来ています。成功例もたくさんある一方で、メディアの報道にあるような労働条件のトラブルや人権侵害などが起きているのは非常に残念なことです。記録的な円安が進む中で、そうしたトラブルが続けば、外国人材の日本離れが加速しかねません。JICAが開発協力を通じて築いてきた途上国との信頼関係が損なわれかねない、という意味でも大きな問題と考えています」そう話すのは、JICA外国人材受入支援室の小林洋輔室長です。

JICA外国人材受入支援室室長の小林洋輔さん

JICA外国人材受入支援室室長の小林洋輔さん。「ビジネスと人権」を含むガバナンス、保健医療分野における取り組みに長年従事してきた

開発協力で培った知見を外国人材受入支援に活用

外国人材をめぐるトラブルとその背景について、その多くは母国からつながっている問題だと小林さんは指摘します。

例えば、母国で仲介者への手数料を支払うため多額の借金を抱えてしまい、希望と異なる仕事や労働環境を強いられても自分の権利を主張できない、就職先や労働条件について事前に十分な情報が得られず、スキルのミスマッチが起きる、来日前の日本語や技能の準備不足で、職場や地域になじめず孤立する、といった問題は、送出側の仕組みから改善する必要があります。

「受入側の人権意識を高めていく必要があるのは当然のことです。その上で、来日までの一連のプロセスの中にもさまざまな問題があります。そこに対しては、JICAだからこそ果たせる役割があるのではないかと考えます」(小林さん)

こうした背景のもと、JICAは2021年4月、機構内に「外国人材受入支援室」を新設しました。途上国で農業や産業育成、法制度整備分野などさまざまな開発協力を行ってきた長年の経験や知見、ネットワークを、多文化共生の取り組みや外国人材の受入支援に活かすためです。

「JICAは長年、開発途上国の人材の育成や政策・制度の改善に協力し、その中で途上国政府の関係者、日本の専門家やボランティアの方々などと幅広いネットワークを築いてきました。また、活動を進める上で必要な拠点を日本そして世界各地に持っています。送出側である途上国と日本双方の課題解決を支援する上で、これは非常に大きな強みだと考えています」(小林さん)

農園で働く外国人労働者たち

海外協力隊の経験者もJICAの重要なアセットの一つ。福井県の「農園たや」では、代表の田谷さんが自身の経験を活かし、インドネシアからの実習生の送出し・受入れ環境の改善や帰国後のキャリア形成支援に取り組んでいる

途上国の発展のために何ができるかを考える

外国人材の送出し・受入れには、高い収入や技術を身につけられるという外国人材自身のプラス、そうした人材からの送金や持ち帰った技術の伝播、日本とのビジネスチャンスの創出など母国の社会・経済発展へのプラス、地域活性化や労働力確保などの日本社会・経済にとってのプラス、という3つのプラスが存在します。

その中で、JICAが果たすべき最も大きな役割は、「日本社会・経済への環流も意識しながら、途上国の社会・経済発展へのプラスに寄与すること」だと語る小林さん。

JICAが取り組む意義を明らかにし、自らの強みを生かしつつ多様な関係者との協働・共創を進めていくため、外国人材受入支援室は2023年6月、取り組みの新たな指針となる「(送出国・日本双方の)経済成長のための人材育成」「移住労働者の人権尊重」「外国人材との共生社会構築」という3つの柱を打ち出しました。

外国人材受入れ・多文化共生におけるJICAの取り組み~3つの柱

この指針に基づく最新の取り組み事例を紹介します。

「(送出国・日本双方の)経済成長のための人材育成」~インドネシアでの取り組み

人口2億7千万人(世界第4位)を擁し、海外への労働者の送出に意欲的なインドネシアに対し、JICAは今年9月から「外国人材受入・送出促進アドバイザー」を派遣。日本でのスムーズな活躍・定着のため、さらには帰国後の母国での活躍まで見据え、来日前の日本語および技能教育、日本への就労情報の発信を強化しながら、今後5年間で10万人の日本への労働者送出を目指すとともに、インドネシアの発展にも寄与する人材の育成に注力していきます。

「移住労働者の人権尊重」~ベトナムでの取り組み

日本で働く外国人の4分の1を送り出しているベトナムでは、日本への渡航・就労・生活に関する適切な情報が現地で入手・理解されないまま来日したり、ブローカーに高額の手数料を支払ったりする現状があります。この問題を是正するため、JICAは今年8月「ベトナム人海外就労希望者の求人情報へのアクセス支援プロジェクト」を開始。ベトナムの労働当局と協働のもと、新たな求人システムを構築し、正しい求人情報の提供、直接応募の推進により、高額な手数料や搾取、ミスマッチなどをなくす仕組みを目指しています。

「外国人材との共生社会の構築」~来日した外国人への防災研修

JICA関西では、外国籍の従業員を雇用する企業や自治体、国際交流協会などと協力して、防災研修を実施しています。外国人在住者の防災力を高めるため、災害に遭った際に多言語で効果的に情報収集する方法や在宅避難の備えや対策などを伝えています。こうした研修会を重ねることで、外国人防災リーダーを育成。来日した外国人が日本で安心・安全に暮らせる環境を整え、また外国人を含む災害時協力体制の構築により、多文化共生に貢献することを目指しています。

防災研修を受けるベトナム人労働者たち

日本での在住者が増えているベトナム人向けに行われた、2022年3月の防災研修の様子

誰一人取り残さない日本・世界の実現に向けて

外国人材がもたらす多様性は、社会の活力を生み出す原動力になり得ます。しかし、それが機能するには送出国・受入国それぞれの課題に、政府や国際機関、企業や自治体、学校、地域住民など社会全体のアクターの協力が不可欠です。

共に生きる豊かな社会を築くには何が必要か―。外国人労働者の受入れをめぐるさまざまな課題について関心と支援を寄せてもらい、社会の活発な対話へとつなげるため、JICAは9月、多文化共生・外国人材受入分野の取り組みを支える寄附金制度を立ち上げました。

「こうした機会の提供を通じて、より多くの方々にこの課題、そしてその解決に向けてJICAがさまざまなパートナーと進めている取り組みに関心を持っていただきたい。その結果として『誰一人取り残さない』というSDGsの理念のもと、すべての人の尊厳が守られる日本、そして世界に一歩でも近づければ、というのが私の願いです」(小林さん)

JICA外国人材受入支援室室長の小林洋輔さん

個人のボランティア活動として、外国ルーツの子どもなどへの日本語学習支援や学校の勉強の手伝いをしているという小林さん。自身もベトナム語を学習中

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