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【ODA70年・3】駐日大使に聞く、日本の協力とJICAの役割、そしてこれから:インドネシア/トルコ

2024.03.25

今年で開始から70年を迎えた日本の政府開発援助(ODA)は、各国でどのような役割を果たしてきたのでしょうか。日本と長年、友好関係を築いてきた国の中から、インドネシアとトルコの駐日大使に、日本のODAとJICAの役割、そして将来への期待について聞きました。

  • *インタビューは国名のアルファベット順に掲載しています。

ヘリ・アフマディ駐日インドネシア大使と、コルクット・ギュンゲン駐日トルコ大使

お話を伺ったヘリ・アフマディ駐日インドネシア大使(右)と、コルクット・ギュンゲン駐日トルコ大使

都市交通の整備から、エネルギー・トランジション、人材育成に至る幅広い分野で協力:ヘリ・アフマディ駐日インドネシア大使

日本とインドネシアは2024年、国交樹立66年を迎えました。アフマディ大使は、JICAが支援する同国初の地下鉄整備の成果に加え、エネルギー移行や人材育成といった分野での日本の協力の重要性について語りました。

駐日インドネシア大使館でインタビューに答えるアフマディ大使

駐日インドネシア大使館でインタビューに答えるアフマディ大使

——JICAの協力の中でも、特に印象に残っているインドネシアでの取り組みについて教えて下さい。

アフマディ大使: JICAは長年にわたり、インドネシアで数々の重要な取り組みを行ってきました。その多くはインフラ整備のプロジェクトです。そして、大勢のインドネシアの技術者や学生が、インフラ整備に関する技術を日本で習得しました。国の発展に向けて人材育成は不可欠です。その点で大きな成果をもたらしています。また、JICAは、インドネシアでの高等教育の発展に向けて、重要な役割を果たしています。施設の整備だけでなく、多くのインドネシア人の教員が日本で学んでいます。このようなJICAの支援プログラムの参加者の多くが、現在インドネシアで政府の重要な任務に就き、ビジネス界でも成功しています。

——JICAの協力にご自身が直接関わったことはありますか。

アフマディ大使:2002年から2004年にかけて、当時国会議員をしていた私はインドネシア・日本政策対話のメンバーに任命されました。これはインドネシアが1990年代後半から2000年代初頭の経済危機から脱し、経済回復や政治改革に向けた解決策を見つける試みでした。この取り組みの中で、日本側のメンバーだった白石隆京都大学教授(当時、現熊本県立大学理事長)と私は、JICAと協力して世論調査実施機関(LSI)をインドネシアに設立しました。国民の細やかな意識を科学的なアプローチで調査し、民主的な国の発展を導く上で非常に重要な役割を果たしました。

——世論調査実施機関の設立は、まさに画期的な取り組みだったのですね。

アフマディ大使:その通りです。インドネシアにとって初めての試みでした。それ以前のスハルト政権時代の選挙は民主的なものではありませんでした。世論調査が実施されることで、国民が政治に何を求めているかが明らかになり、緊張感を持った政権運営にもつながり、その影響は非常に大きかったと思います。LSIで経験を積んだ人材が現在、インドネシアで30以上の世論調査機関を設立しています。

地下鉄整備が市民に与えた影響とエネルギー・トランジションへの挑戦

——JICAは、2019年に開業した同国初の地下鉄となるジャカルタ都市高速鉄道(MRT)の整備に協力しています。大使ご自身は地下鉄を利用したことはありますか。

アフマディ大使:日本の天皇陛下が2023年6月にインドネシアを訪問された際、MRTの車両基地を視察された時に同行しました。天皇陛下は、MRTの運行システムや、会話を交わされた女性運転手にも大変感銘を受けていました。現在、MRTの運転手はすべてインドネシア人で、約半分が女性です。

——このMRTは、インドネシア市民からどのように評価されていますか。

アフマディ大使:大変好評です。開業後これまで無事故で、定時運行率(OTP)は99.8%です。これはインドネシアの鉄道では聞いたことがありません。駅も清潔で、犯罪もこれまで報告されていません。このMRTプロジェクトは、都市インフラの改善だけでなく、成熟した都市としての在り方について、インドネシア市民の意識を変えるものになったと私は思っています。

ジャカルタ都市鉄道の車両

ジャカルタ都市鉄道の車両

車両メンテナンスをする女性技術者

車両メンテナンスをする女性技術者

——気候変動に伴い、インドネシアでもエネルギー改革は喫緊の課題となっています。現在、脱炭素化やエネルギー・トランジションに関して、どのような取り組みをJICAと行っていますか。

アフマディ大使:2022年11月に、インドネシア国営電力公社(PLN)は、JICAとインドネシアの脱炭素化に向けた電力分野でのエネルギー・トランジションについて連携協力覚書を締結しました。そして、インドネシアと日本は、「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」構想の実現に向けたイニシアチブを共同で発表し、日本は5億ドルの支援を表明しました。また、双方向の枠組みを超え、より多角的な取り組みに向けて、2023年3月には、日本をはじめASEAN 9カ国とオーストラリアが参加し、東京でAZEC閣僚会合が開催されました。

日本は、米国などの国々と共に、途上国の脱炭素化を支援する「公平なエネルギー移行パートナーシップ」(JETP)に参加しています。インドネシアで二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)を活用し、発電所や工場から排出された二酸化炭素を地中深く貯留する取り組みを行っている日本企業もあります。そして、私は水素が将来の重要なエネルギー源になると信じています。

エネルギー改革に向けた日本との関係強化に期待を示すアフマディ大使

エネルギー改革に向けた日本との関係強化に期待を示すアフマディ大使

インドネシアの若者と日本の技術をマッチング

——JICAとインドネシアとの今後のパートナーシップについて、どのように考えていますか。

アフマディ大使:人口統計の点から、日本とインドネシアは補完関係にあります。インドネシアは天然資源と若くて有能な人材を多く抱えています。日本は資本、先端技術、専門知識を持っています。日本の経験とインドネシアの若者をマッチングさせることができれば、将来的に強力な力になるでしょう。現在、日本に留学するインドネシア人学生の数は非常に少なく、約7000人です。ベトナムは5万人以上、中国はそれ以上です。留学生や日本での研究プロジェクトの数も増えてほしいと考えています。

——日本に対して、大規模なインフラプロジェクトだけでなく、人材育成といった点にも期待しているのですね。

アフマディ大使:大規模なインフラプロジェクトは民間セクターと共同で行うこともできるでしょう。JICAには、インドネシア人学生の日本への招致や、インドネシアの研修施設のさらなる整備など積極的な取り組みを望んでいます。両政府は日本で働くインドネシア人を10万人とする目標を掲げることで合意しました。ただ、重要なのは数ではなく、インドネシア人が日本での仕事にうまく適応できるようにすることです。インドネシアと日本は人材の育成を通じて、今後さらに密接なパートナーシップを築くことができると思っています。

震災からの復興や難民支援、そして共通課題への挑戦に向けて:コルクット・ギュンゲン駐日トルコ大使

2024年は、日本とトルコにとって外交関係樹立100周年となる記念すべき年です。コルクット・ギュンゲン大使は、JICAの長年の協力に加え、2023年2月にトルコ南東部で発生した大地震からの復興支援や、防災、環境エネルギーといった両国に共通する課題への取り組みについて語りました。

在日トルコ大使館にてインタビューに答えるコルクット・ギュンゲン大使

在日トルコ大使館にてインタビューに答えるコルクット・ギュンゲン大使

——JICAはトルコでさまざまなプロジェクトに取り組んできました。中でも大きなインパクトを与えたと感じるプロジェクトについて教えて下さい。

ギュンゲン大使:まず思い浮かぶのは、ボスポラス海峡の下を通る全長13.5kmのマルマライ地下鉄トンネルの建設です。これはイスタンブールの人々の生活環境の改善に大きく寄与しました。私はイスタンブール出身ですが、ボスポラス海峡を渡る際に、交通量の多い橋よりも地下鉄トンネルを選ぶことがよくあります。

——トルコはシリアや他の国々から多くの難民を受け入れており、JICAはこれらの取り組みも支援してきました。

ギュンゲン大使: 2011年のシリア紛争以降、トルコはシリアから約370万人の難民を受け入れています。現在、そのほとんどはトルコに定住し、子どもたちの教育を含む高度な社会的ケア受けています。これにはJICAからの支援が大きな助けとなりました。

トルコ大地震の被災地に派遣された国際緊急援助隊の活動に感謝

——2023年2月にトルコ南東部で大地震が発生した後、日本は迅速に国際緊急援助隊を派遣しました。大使は空港で見送りをされたのですね。

ギュンゲン大使:国際緊急援助隊が日本を出発する際は常に見送るようにしました。感謝の気持ちを伝えたかったのです。地震発生からわずか12時間後、国際緊急援助隊救助チームは10,000km離れたトルコに向けてフル装備で空港に集結。JICAは救助チームの派遣、またそれに続く医療チームや復旧・復興のための専門家チームを派遣するなど、一連の支援において中心的な役割を果たしてくれました。その他にも、日本は国際緊急援助隊による支援の枠組みでパキスタンからテントを運ぶなど、さまざまな支援に取り組んでくれました。中でも最も記憶に残ったことは、援助隊がとても先進的な野外病院を医療スタッフと共に立ち上げてくれたことです。日本の皆さんから受けた支援は忘れられません。私たちはとても感謝しています。

トルコに派遣される国際緊急援助隊と空港に出向いたギュンゲン大使との集合写真

トルコに派遣される国際緊急援助隊を見送るため、空港に出向いたギュンゲン大使(前列右から5番目)

国際緊急援助隊の救助チーム

国際緊急援助隊の医療チーム

地震直後、JICAを通じてトルコに派遣された国際緊急援助隊の救助チーム(上)と医療チーム(下)

——防災や復興に向け、長期的な視野に立ったJICAとの協力について教えて下さい。

ギュンゲン大使:JICAはトルコの地方自治体と協力して、地震などの自然災害への対応に積極的に取り組んでいます。例えば、トルコの自治体関係者が日本で復興政策について学ぶこともあります。また、被災地の中小企業を支援する動きも始まっています。

外交樹立100周年を機に、トルコ・日本科学技術大学を設立

——両国は2024年、外交樹立100周年を迎えました。この節目を記念する取り組みはありますか。

ギュンゲン大使:両国の長い友好関係をさらに発展させる取り組みの一つが、トルコ・日本科学技術大学(TJU)の開校です。2024年から正式に大学院レベルの教育プログラムを開始します。学長はトルコ人、筆頭副学長は日本人です。研究者を含むトルコと日本の関係者から成る理事会による準備が進んでいます。JICAもこの大学の整備に向けて協力をしています。技術的に優れた日本の協力は大変重要です。この大学はトルコにとどまらず、地域全体にインパクトを与えると期待しています。

——どのような学びや研究が進むのでしょうか。

ギュンゲン大使:まずは自然災害や地震からの防災や減災に焦点を当て、さらに環境とエネルギーにも特化します。この研究分野は、トルコと日本の共通課題を反映しています。共に地震国であり、環境とエネルギーの領域では、両国ともエネルギー資源を輸入しなければならず、再生可能エネルギーの開発やエネルギーの貯蔵などに向けて、経験を共有し、共同で取り組むことができます。トルコと日本の学術機関ですが、他の国の学者に門戸を閉ざすことはありません。

トルコ・日本科学技術大学(TJU)の教育プログラムについて述べるギュンゲン大使

トルコ・日本科学技術大学(TJU)の教育プログラムについて述べるギュンゲン大使

——今後、どういった分野でトルコと日本の協力が進むと考えていますか。

ギュンゲン大使:JICAと協力して取り組むことができるプロジェクトはさまざまです。残念ながら、自然災害への対応は今後も避けられないため継続的に取り組む必要があります。また、JICAと共に、他の国々での協力も行っていければと思います。トルコ国際協力調整庁(TIKA)や、防災管理を担う首相府防災危機管理庁(AFAD)といったJICAと同じような役割を持つトルコの機関とJICAが連携して、他国への協力を拡大していければと考えます。

——JICAの協力は、トルコ市民からどのように受け止められているのでしょうか。

ギュンゲン大使:JICAの協力で完成したマルマライ地下鉄トンネルは、イスタンブールの夢でした。トルコは日本に対して大変親しみ深く思っています。決して大げさに言っているわけではありません。かつて明治時代に和歌山県沖で遭難したトルコ軍艦の乗組員を、日本人が献身的に救護したという歴史的な背景もあり、トルコにとって日本は特別な存在なのです。そして、トルコと日本の絆は、今回の大地震での救援や復興支援でさらに深まっていると感じています。

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