【世界難民の日】サヘル・ローズさんと語る「今あなたに伝えたい もう一つの世界の話」

#4 質の高い教育をみんなに
SDGs
#5 ジェンダー平等を実現しよう
SDGs
#16 平和と公正をすべての人に
SDGs

2024.06.14

ウクライナやガザなど各地で進行する人道危機により、住む場所を追われた人々が世界中で増え続けています。6月20日の「世界難民の日」を前に、児童養護や難民支援に力を注ぐ俳優のサヘル・ローズさんと、JICA平和構築室室長の大井綾子さんが、子どもや女性への影響や課題、支援のあり方などを語り合いました。動画と記事でお伝えします。

(記事は対談をもとに、加筆・再構成しています)

JICA大井綾子さんとサヘル・ローズさん

今や世界で1億人以上、増え続ける難民・国内避難民

大井 紛争や政情不安から祖国を追われた難民は、今世界で約3,600万人。国内で避難する人を入れると1億人以上に上ります。*1 いわば日本の人口と同じくらいの人々が避難していて、しかも難民の約7割は5年以上も避難状態が続いていると言われています。長期化する難民の状況を、サヘルさんはどうご覧になっていますか。

サヘル とても辛いです。この数字の一人一人に名前があって、人権があるはずなのに、あまりにも数字が大きくなりすぎて、生身の人と数字が別物のように扱われ始めているのがとても怖いです。いくつもの戦争が重ね重ねに起き、支援も行き届かなくなっている中で、難民となってしまった人たちの多くが「私たちは世界から忘れられている」と悲しい眼差しで言うんです。

*1 Global Trends | UNHCR

サヘル・ローズさん

サヘル・ローズ(Sahel Rosa) 俳優
祖国イランとイラクとの戦争の最中に4歳で戦争孤児となり、養母と共に8歳で来日。言葉も習慣も違う国で苦難を重ね、その原体験から、今では俳優として活躍しながら世界の難民キャンプや日本の児童養護施設を訪れ、支援や交流を続けている。公私に渡る支援活動が評価され、2020年にはアメリカで人権活動家賞を受賞

ウガンダで見た子どもたちの厳しい現実

大井 サヘルさんは世界各地の難民キャンプを訪れて、支援活動をされていますが、今年2月にはウガンダの難民居住地を訪問されたそうですね。どんなことを感じましたか。

サヘル 今回はウガンダの「チャングワリ」という難民居住地に行かせていただき、小中学校で約2,500人の生徒たちに会いました。みんな美しく愛しい地球の子どもたちです。ですが、難民居住地には電気も水道もなく、子どもたちは1時間かけて水汲みに出かけ、その先も長蛇の列。時には5、6時間待つこともあるんです。痩せ細った小さな体の彼らが、どんな思いでその重たいボトルを運んでいるのか…、本当なら学校に行って学んでいるべきなのに。

子どもたちにノートと鉛筆を渡すサヘルさん

NGOとの協力で、現地の小中学校にノートや鉛筆を届けたサヘルさん

小学校低学年の教室はすし詰め状態。年齢が進むにつれて生徒数が減っていく(写真提供:サヘル・ローズ、AAR Japan難民を救う会)

サヘル 驚いたことに、小学1年生のクラスは大抵の学校で男女共に100人を超えており、教室にはあり得ないほどの数の子が密集していました。ですが、4年生ごろまでに一気に半分以上が学校を辞めてしまうんです。卒業するのは数十人ほど。原因を尋ねたところ、試験のお金が払えなかったり、親の手伝いをするためなど、本当は学びたいのに辞めなければならない現実がありました。この問題は実は連鎖していて、貧しさゆえに親自身も学ぶことへの価値を見出せずにいる。そして子どもたちも、親の困難な状況を見て迷惑をかけまいと、学ぶことをあきらめてしまうんです。

大井 教育を受けられないと、児童労働や児童婚、紛争地域では武装勢力に動員されるリスクも高まります。将来、自立した生活をするためにも、教育は何より重要なことですよね。

ウガンダはアフリカで最も多い難民を受け入れていて、難民と住民の子が同じ学校に通うことができます。でも、難民が入ってくることを想定できていなかったので、教室の数が足りなくなることがあるんですよね。JICAも長年ウガンダを支援していますが、難民の生活支援と同時に、受入れ側の住民の生活も良くなるよう心掛けています。難民だけを支援すると格差が生まれたり、住民の不満がたまって、新たな争いの火種につながりかねないからです。

JICA大井さん

大井綾子(おおい・あやこ) JICA平和構築室室長
民放テレビ局で勤務後、UNDP東ティモール事務所で国内避難民の帰還支援、在アフガニスタン日本大使館で地方復興支援に従事。JICA入構後は人間開発部、南スーダン事務所、アフリカ部などを経て、アフガニスタン事務所次長を務め、2024年1月より現職

難民の女性たちの生き抜く力

大井 避難する過程で、女性は性的暴力を受けたり、あるいは援助を受ける際に差別を受けたり、さまざまなリスクを負っています。難民の中の女性をサヘルさんはどう見ていますか。

サヘル 女性の中には髪の毛を切って、自分を男性に見せかけて逃げて来ていたり、学校でも男の子かなと思っていたら女の子だったり...。それは女の子であることで、苦しい目にあったり、暴行事件が多発しているから。自分を守るためにやっていると聞いて、とても心が痛かったです。どんな子どもも祝福される世界であるべきなのに、女の子に生まれたら不幸というのは余りにも残酷です。

ただ、今回のウガンダも、3月に行かせていただいたバングラデシュもそうでしたが、女性は生きるパワーを持っていて、とても強い。ウガンダの難民居住地の母親たちに「今一番何が足りてないですか?」と質問すると、「働ける環境が欲しい、働きたい」と言うんです。その言葉から感じたのは、決して彼女たちは物乞いをしたいわけではなく、自立して生きることを大切にしているということでした。

大井 私も「お金をください」と泣いている女性には出会ったことがないです。むしろ、仕事をくれれば自分たちでやっていけるからと。JICAが支援するパレスチナの難民キャンプでも、女性からは働くための職業訓練や保育サービスを求める声が出ていて、今実現しようとしています。

収穫を喜び合うウガンダの難民たち

自分たちで栽培・収穫したコメ種子を手に、喜びを分かち合う難民の人たち(JICAが農業研修を実施したウガンダ・アジュマニ県の難民キャンプ)

難民を弱者にしない、自立のための支援とは?

サヘル 重要なのは、永遠の支援はないということではないでしょうか。「永遠は誰にもない」ということを、私は心の提示版に貼り付けています。というのも、良かれと思ってやっていることも、いつの間にか彼らを慣れさせ、依存させてしまう。その結果、弱くさせてしまうのです。

「難民」って「難しい民」と書きますが、決して難しい人々ではなく、きちんと教育を受けた人、大学の教授もいれば、経営者やアーティスト、手に職をつけて働く仕立て屋など、自国でも懸命に働いてきた人々です。「難民」という名前ではなく、一人の人として。ですから、戦争や紛争に巻き込まれても、皆自分たちにできることを探しています。それはやはり一人の人間としての尊厳があるからなんです。そこに私たちも敬意を払って、彼らの持っているポテンシャルを生かした支援をすることが、自立にもつながっていくと思います。

大井 本当にその通りですね。JICAも難民の人たちが自分たちの能力を生かして、いかに自立して、人間らしく尊厳を持って、持続的に生活していけるかが重要だと思っています。先ほどからお話しているウガンダでも、難民・住民の双方に農業研修を行ったり、ウクライナからの避難民の方たちにもIT研修をするなど、自分たちで仕事を得て生活していけることを目指しています。

一方、避難先での自立と共に、自分の住んでいた所に帰ることを願う人たちも大勢います。その人たちが安心して故郷に帰り、平和に暮らせるよう、出身国への支援も必要と考えています。

ウガンダでのJICAの農業研修

ウガンダでJICAが長年行っている難民・住民への共同農業研修

ウクライナ避難民のためのIT研修

ポーランドにいるウクライナ避難民を対象にJICAが実施したITスキル研修。ポーランドの企業ほか、日系企業やNGOも雇用協力の意思を表明している

私たち一人一人にできることをあきらめない

サヘル 無関心がさまざまな戦争や紛争・差別を後押ししてしまった、と私は思います。だからこそ、私たちにできることは、まず「知ること」ではないでしょうか。私たちは世界で起きていることを、小さな興味が詰まった携帯という、居心地の良いプラットフォームにしまい込みがちです。でも世界で起きていることって、自分たちの興味や好き嫌いで選択できるものではないんですよね。

大井 難民問題というと、一見遠く知らない国の出来事だと思うかもしれませんが、自分がその立場になったら、と少しだけ想像してみてほしいです。難民が増え続け、長期化する中で、誰か一人、どこか一つの組織で解決できることではないので、人道支援、開発協力、NGO、企業、そして個人皆がそれぞれ力を合わせて取り組んでいく必要があると考えています。

サヘル 本当にそう思います。私も無力だと感じることが毎回のようにあります。でも “無力”ではない——そう自分に言い聞かせています。大井さんも私も、これを読んでいる“あなた”も、生きているだけで誰かの背中を支えたり、生き甲斐になれる。自分を犠牲にするような、苦しみながらの支援は長続きしないですし、相手を支配してしまう。そうではない関わり方を一つ提案すると、例えば、自分たちが買う物や食べる物を、世界の現状を知る一歩にしてみる。消費者として、その国の人々が搾取された物を買うのではなく、還元される平等な関係性を守れるような関わり方を始めてみる。

やはり人と人が心からつながることが、一番重要だと私は信じています。私たちは皆同じ地球人ですから。戦争を無くすことは難しくても、少しでも希望あふれる明日を次の世代につなげるため、私も一人の人間として平和を訴えかけていきたいなと思います。

エールを送り合う大井さんとサヘルさん

「あきらめず、できることを一緒に見つけていきましょう」とエールを送り合う大井さんとサヘルさん

【対談動画】今あなたに伝えたい もう一つの世界の話(YouTube)

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