意外に身近な日本とアフリカ/TICAD9の開催
2025.07.30
8月にアフリカの開発をテーマとする国際会議「TICAD9」が6年ぶりに日本で開催されます。一見縁遠いように思える日本とアフリカですが、食材などの輸入を通じて多くの接点があり、共通点もあります。カメルーン生まれ日本育ちの漫画家・星野ルネさんとJICAアフリカ部の2人がTICAD9を前にアフリカと日本について語り合いました。
星野ルネさん(中央)、JICAアフリカ部の仁木保澄さん(左)と櫛田眞美さん(右)
星野ルネさん(以下、星野) 僕の活動のテーマの一つは、日本の人にアフリカの本当の姿を知ってもらうことです。アフリカに対し「未開の地」というイメージを持っている人がまだ多くいるように感じているからです。
星野ルネ(ほしの・るね)
1984年、カメルーン生まれ。カメルーン人の母が日本人の男性と再婚したのを機に、4歳から兵庫県姫路市に住んだ。著書に「まんが アフリカ少年が日本で育った結果」「同ファミリー編」「まんが アフリカ少年が見つけた世界のことわざ大集合」がある。
JICAアフリカ部 櫛田眞美企画役(以下、櫛田) 一口にアフリカと言っても、「アフリカ」という一つの国というわけではないですよね。アフリカ大陸には54の国があり、中国やインドに匹敵する約14億人もの人々が暮らしています。2000年代以降は年率5%前後と高い経済成長を続けています。
JICAアフリカ部 仁木保澄(以下、仁木) 「アフリカは発展していない」という強いイメージを抱く日本人は多いですが、高層ビルが建ち並ぶ大きな都市もあることを知ってもらいたいです。
櫛田 アフリカ大陸は多様で人々の気質や文化も異なります。インド洋に囲まれたマダガスカルはアフリカ地域の島国でフランス語圏ですが、アジアに近い文化もあり、人々は奥ゆかしげな印象を受けました。同じフランス語圏でも西アフリカの人たちはカラッとした性格の人が多いようです。
【左】櫛田眞美(くしだ・まみ)アフリカ部計画・TICAD推進課 企画役
民間企業を退職後、青年海外協力隊員としてニジェールで2年間活動した。帰国後JICAに入構しマダガスカル赴任、アフリカ各国の事業に従事した。現在はTICAD9の推進を含むアフリカ協力の支援業務に取り組む。
【右】仁木保澄(にき・ほずみ)アフリカ部アフリカ第四課
2024年にJICA入構。2024年に3カ月間、カメルーンに赴任し、農水産業振興などの業務に取り組んだ。
星野 ただ、日本人にはイメージがしづらいですよね。本当の姿をどうやって知ってもらえばいいか、私もよく考えます。……例えばですが、食卓から連想するのはどうでしょうか。日本には多くの食材がアフリカから輸入されていますよね。
仁木 その通りです! コーヒー豆やカカオ豆が有名ですよね。あまり知られていないところでは、たこ焼きに入っているタコもアフリカからの輸入です。スーパーではモーリタニア産、モロッコ産を見かけることが多いのではないでしょうか。
櫛田 バニラも良質なものはマダガスカル産が多いです。最近はチョコレートにもマダガスカルバニラを使用していると表示しているものを見かけますね。
星野 食べ物の話になると、遠いアフリカも身近に感じられますね。
JICAは多くのアフリカ諸国が独立を果たした1960年以降、60年以上にわたりアフリカの自立的な発展に協力してきました。当初は貧困対策や衛生対策などがメインでしたが、現在では従来の事業に加え、ダイナミックに成長する新しい時代のアフリカのニーズに合致した協力を推進します。
経済、社会分野では、農業開発、産業人材育成、エネルギー開発、起業家支援、保健・医療システム強化、栄養、教育、質の高い雇用など、幅広い事業に取り組んでいます。特に農業分野では、米の生産量を増やす取り組みに力を入れてきており、JICAの技術協力によって普及が進められた「ネリカ米」はアフリカの食料安全保障を支える一つの手段として注目されてきました。
アフリカへの長年の協力は、日本にも恩恵をもたらしています。モーリタニアのタコはその好例です。現地ではもともとタコを食べる習慣はありませんでしたが、JICAの技術協力や漁港整備によってタコ漁が盛んになり、漁業も発展しました。その結果、安価で良質なタコを日本に輸出できるようになったのです。
「カメルーンの料理で一番好きなのは、焼き魚にスパイシーで酸味のある緑色のソースがかかったポワソンブレゼです」と話す星野さん
星野 アフリカに赴任していた時、お二人はどういうものを食べていたのですか?
仁木 私は去年、3カ月間カメルーンに赴任しました。星野さんの生まれた国ですよね。そこでプランテーン(料理用バナナ)にハマりました。レストランに行くと、付け合わせにプランテーンのフライかフライドポテト、ライスを選べるのですが、いつもプランテーンを選んでいました。
星野 最近は日本でもプランテーンを買えるスーパーがありますね。日本のレストランでもプランテーンが普通に出てくるようになるといいな。
ポワソンブレゼ
櫛田 私が最初に滞在したニジェールでは、朝から甘い物や揚げ物が出されることもありました。最初は戸惑ったのですが、エネルギーを手軽に摂取できるので、暑い国では理にかなっているのでしょう。慣れてくると「環境に合った食事だな」と感じました。
プランテーンのフライ(左)とンドレ(右、カメルーン料理)
星野 所変われば、ということですね。僕が帰省したカメルーンの村で、「日本では卵かけご飯を食べるんだよ」と教えたら、みんな引いていました。「卵を生で食べるなんてお前は蛇か」って。海外には卵を生で食べるという文化がありませんからね。でも、彼らはコンデンスミルクをご飯にかけて食べていたんです。どちらもご飯にかけるものですが違いがあり、互いに驚きがありました。コンデンスミルクご飯も食べてみたら、とってもおいしかったです。
イラスト:星野ルネ
星野 ほかに現地で印象に残ったことはありますか?
仁木 アフリカの人の大らかさでしょうか。良くも悪くも、皆さん時間にも大らか(笑)。会議が9時からの予定なのに、9時に始まることはありません。皆さんがなんとなく集まって、「そろったから始めようか」という感じです。その雰囲気は、すごくいいなと思いました。
星野 私の父方の祖父がカメルーンに来てくれたことがあります。祖父にとっては初めての海外旅行でした。「外国」に行くつもりでカメルーンに来たのですが、むしろ自分の子どもの頃の昭和の日本に帰ったような感覚があったそうです。「すごく懐かしくていい時間を過ごした」と話していました。昭和の頃に日本で見ていた風景や暮らしが、そのままカメルーンにあったみたいです。農村風景や地域コミュニティーの豊かさなど、アフリカにはある意味では、日本が失っているものが残っているのかもしれません。
仁木 私は地方の出身なのですが、カメルーンに行ってみると、田んぼはあるし、キャッサバの畑もあるし、人との距離も近いし、自分の田舎に戻ったような感覚でした。日本とアフリカは離れていますが、共通点もあると感じますね。
星野 とにかくカメルーン人は、フレンドリーで誰にでも話しかけます。元気でエネルギーがありますよね。小1の冬休みの時、家族とカメルーンに行って、現地の子どもたちの元気さに圧倒されました。日本で一番わんぱくな子どもがカメルーンのスタンダード(笑)。日本に帰ったら、内向的だった僕が、学校一のわんぱくな少年になりました。「朱に交われば赤くなる」という言葉がありますが、アフリカに交われば、みんなアフリカっぽくなる。
「カメルーンの人は他人同士でも、パパ、ママと呼び合います。初対面の人にそう呼び掛けることで、自然とその人の懐に入ることができます」と語る星野さん
仁木 元気といえば、今回のTICAD9に向けたJICAとしてのキーワードの一つは「アフリカも日本も元気に」です。
星野 「TICAD9」は、日本とアフリカの架け橋として大きな役割が期待されている国際会議ですよね。僕もさまざまなイベントに呼ばれています。アフリカも日本も元気にする、というのはとてもいいキーワードですね。
櫛田 日本とアフリカを元気にするための糸口のひとつとして、今回のTICAD9では「若者」に着目しています。日本の若者は外国に行かない人が増え、内向きになっていると言われています。一方、アフリカには若者が多く活力があります。アフリカの平均年齢は19.2歳(2024年推計)と若く、大きなポテンシャルがあります。若者同士がつながり合うことで、お互いにいい学びが生まれると期待しています。
星野 日本とアフリカの若者が交流を深める具体的な取り組みはありますか?
櫛田 JICAではTICAD9の関連イベントとして「日本・アフリカ・ユースキャンプ」というアフリカと日本の「架け橋」になる人材を育成する取り組みがあります。日本に住んでいるアフリカ出身の若者に集まってもらって、地元の高校生・大学生と意見交換をしたり、ゲームを一緒にしたりして交流を深める機会としています。
星野 とてもいいですね。カメルーン育ちの母がいつも言う「格言」があります。人生でとても大切なのは「元気であること」だと。元気な人はどんどん自分の世界を広げ、人と付き合って仕事を覚え、自立してやっていくからです。 アフリカの人たちは親からも元気をたくさんもらっているので、とにかく元気です(笑)。日本の若者が持っている知識や教養、アフリカの若者が持っている元気やエネルギーが合わさって、お互いに刺激しあえる交流になりますね。
櫛田 そうなんです。他にも元気にする取り組みの一つに「ホームタウン構想」があります。日本には過疎化や人口減少が進んでいる村や町があります。若者も減っていますよね。アフリカと関係の深い地方自治体に「JICAアフリカ・ホームタウン」になってもらい、お互いに元気になるような取り組みを一緒にやろうというものです。
仁木 都市部と比べると、地方では海外の人との交流が少なくなりがちです。でも、地方に住んでいてもアフリカの人に触れる機会があるのはいいことですね。
櫛田 日本とアフリカの若者同士がつながり合って、互いに刺激を与え合う存在になると想像するだけでワクワクしませんか。TICAD9を通じて、日本の若者にもアフリカがどんなところで、どんな魅力があるのかを知ってもらいたいし、アフリカをもっと身近に感じてもらいたいと思っています。
星野 それはいいですね。TICADをきっかけにアフリカに興味を持った若い人にはぜひ、現地でコンデンスミルクかけご飯を味わってほしいですね!
一同 (笑)
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