マラウイ点描「学習の危機」にみるマラウイの教育の現状とこれからについて

2021年3月22日

"Education is the most powerful weapon which you can use to change the world." Nelson Mandela

教育には世界を変える力がある、これは南アフリカのネルソン・マンデラ元大統領が説いたものです。私自身、教育は国の将来を担っていく子どもたちに道しるべであり、国を変えていく力があると信じています。2021年1月下旬に発表されたマラウイ政府の長期ビジョン「MALAWI 2063」においても、教育を通じた人的資本(Human Capital)の育成が重点課題として掲げられています。また、マラウイは人口に占める0歳から14歳までの割合が43.5%であり(世界銀行 2019)、若年層への質の高い教育の提供は非常に重要です。

しかし、マラウイの教育環境は決して良いものとは言えません。マラウイでは、低迷する就学率を向上させるため、1994年に初等教育(8年制)を無償化し、1994年から1995年の1年間で初等教育就学者数が1.9百万人から2.8百万人へと急増しました。しかし、急激な就学者の増加の結果、教育を行う側の体制整備が追い付かず学校・教科書のインフラ不足や教員数の不足など様々な問題が起こっています。そして、「学習の危機(Learning Crisis)」という状態にも陥っています。

「学習の危機」は、世界銀行が1978年から毎年1回、経済、社会、環境などタイムリーなテーマを取り上げ、課題分析と政策提言をまとめている「世界開発報告(World Development Report:WDR)」の中で取り上げられた言葉です。2018年の世界開発報告では「教育と学び-可能性を実現するために(LEARNING to Realize Education's Promise)」と題して初めて教育が取り上げられました。同報告書では、学校に行くことが必ずしも子どもたちの学びに結びついておらず、開発途上国の大半の子どもたちは小学校で習得すべき最低限の読解力や計算力を身に付けていないと指摘され、このような状態が「学習の危機」という言葉で紹介されました。

マラウイでは、1994年以降就学率は増加しましたが、そこで学ぶ子どもたちの学力としては、初等教育の2年生の終わりまでに簡単な単語を読めない子どもが89%(RTI 2015)また、南部アフリカにおける学力調査において、読み書きが14か国中の14位、基礎計算力が14か国中の13位という結果になっています(SACMEQ 2007)。学力という面で、マラウイは南部アフリカの中でも非常に深刻な状況と言えます。

政府も、学習環境を改善すべく学校の建設やカリキュラム・教科書の開発や新規教員の採用などさまざまな対策を行っています。2010/11年度以降、マラウイ政府の政府経常支出のうち教育への配分率は20%を超えています(マラウイ教育省 2020)。またJICAとしても中等理数科教育強化プロジェクト(SMASSE)、教員養成校、中学校の建設などを行ってきました。しかし、子どもの学習環境はすぐには改善せず、そして2020年にはCOVID-19が流行し、学校の閉鎖期間も長くなっています。学校に通えない期間は、教育省はラジオで学習内容を放送するなどの対応を取っていますが、子どもたちの学習に深刻な影響を与えることは否めないと思います。

今後、コロナ禍で学び方も少しずつ変わってくるかもしれませんが、マラウイの「学習の危機」が改善し、子どもたち一人一人が充実した人生を歩むための教育が提供されるよう、これからもマラウイ政府と協力していきたいと思います。

そして、マラウイの子どもたちが将来、国の成長を引っ張る人材となってくれることを願ってやみません。

(マラウイ事務所 青柳直希)

参考:

【画像】

無償資金協力で建設中のドマシ教員養成大学

【画像】

小学校で算数の指導を行う隊員