東南アジア
地域の発展、平和と安定、域内格差の是正へ官民のパートナーと共に
日本にとってますます重要さを増すASEAN諸国
東南アジア諸国連合(ASEAN)の各加盟国は、日本政府が提唱する「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の中核を成す存在です。ASEAN諸国はコロナ禍の影響を受けつつも高い経済成長を維持しており、日本の貿易・投資にとってもますます重要な経済パートナーとなっています。
一方、地域の開発課題は高度化・複雑化しており、社会経済インフラと人材育成の両面で膨大な開発ニーズがあります。
7つの重点領域
JICAは、東南アジア地域の発展、平和と安定、域内格差の是正に向けて、以下を重点領域として取り組んでいます。
- 1 . ASEAN域内の連結性強化
- 2 . 「質の高い成長」の推進
- 3 . 「人間の安全保障」を通じた尊厳ある社会の実現(保健医療、教育、防災分野など)
- 4 . 脱炭素化などの気候変動対策
- 5 . 将来の国を支えるリーダー層や行政官の人材育成
- 6 . 地域が抱える脆弱性への対応
- 7 . 新しい時代のニーズに応える事業の構築・実践
また、JICAは、東南アジア各国の政府だけでなく、企業、大学・研究機関、ASEAN事務局や他開発機関など幅広いパートナーと協力し、インフラ整備や人材育成などに取り組んでいます。
コロナ禍前より協力を拡大、新たな試みも
2022年度は、フィリピン、タイ向けの新型コロナウイルス感染症危機に対応 するための緊急財政支援をはじめ、コロナ禍からの経済社会活動の回復を後押し する協力を行いました。また、専門家の 派遣や研修員・留学生の受入れをコロナ禍以前の水準に引き上げるとともに、有償・無償資金協力を拡大しました。その結果、都市鉄道案件を含むフィリピン、インドネシア向けの当年度円借款供与額は過去最大となりました。
フィリピンでは、JICAが約20年間継続 しているミンダナオ地域での平和構築協 力が評価され、バンサモロ地域議会で 2023年1月、JICAへの感謝決議が採択さ れました。カンボジアでは、JICAが25年にわたり協力してきたカンボジア地雷対 策センター(CMAC)と連携して、ウクライナ非常事態庁の職員向けに地雷・不発 弾対策研修などを行いました。
またタイとの間では、同国外務省国際協力局(TICA)が初めて日本に派遣するタイ人ボランティア2名(国際観光推進員として地方自治体で活動)の受入れを支援し、新しい形での双方向の協力が実現しました。
東・中央アジアおよびコーカサス
域内の安定確保と自立発展を目指して
資源や周辺国への依存からの脱却と国内産業の育成が課題
東・中央アジアおよびコーカサス地域の協力対象国は、ユーラシアの内陸部に位置するモンゴル、中央アジア5カ国とコーカサス3カ国の計9カ国です。
モンゴル、カザフスタン、トルクメニスタン、アゼルバイジャン、ウズベキスタンはエネルギーや鉱物資源に恵まれている一方で、国際価格の変動の影響を受けやすく、資源依存からの脱却が課題となっています。他方、エネルギー資源に乏しいキルギスやタジキスタンでは、ロシアなどへの出稼ぎ労働者による送金がGDPの3分の1近くを占めています。中国からの投資や融資への依存度も高く、国内産業の育成と雇用の創出が急務です。また、いずれの国もロシアによるウクライナ侵攻により経済成長の先行き不安が強まっており、より自立的で持続的に発展する安定した経済システムの強化が求められています。
ガバナンス強化、産業多角化、インフラ整備、人材育成を柱にした協力
この地域は、中国とロシアという二大国およびアフガニスタンや中東諸国と国境を接しており、これらの国から政治・経済的な影響を強く受けています。
域内各国の自立と安定が維持されることはユーラシア大陸全体の安定に不可欠です。この認識の下、JICAは法整備などの「ガバナンス強化」、民間主導の経済活動の活性化や中小企業振興などの「産業多角化」、空港や発電所など域内外の連結性の強化に寄与する「インフラ整備」、日本人材開発センターや留学生事業などの「人材育成」の4分野を柱に協力を進めながら、域内諸国間の連携促進にも取り組んでいます。
2022年度は、カザフスタン政府が新設した援助機関(KazAID)と協力覚書を締結し、協調して周辺国向けに「カイゼン研修」を実施しました。ウズベキスタンでは園芸作物のバリューチェーン強化に向けたツーステップローンの供与により、農業関連産業の多様化や輸出力の強化を図りました。モンゴルではサイバーセキュリティ人材の育成、また、アルメニアでは日本との連携強化を通じたハイテク産業の振興と輸出促進を目指して協力を進めています。
そのほか、知日派・親日派の拡大を視野に、学生や有識者らを対象としたJICAチェアをモンゴル、ジョージア、カザフスタン、タジキスタンの主要大学で実施しました。
南アジア
地域の安定と発展に向け強靭な社会システムの構築を
世界情勢と気候変動の影響を大きく受ける
南アジア地域は、東南アジアと中東・アフリカをつなぐ地政学的な要衝に位置します。人口は世界の4分の1(約19億人)を占め、うち25歳未満が約半数※1と、消費・労働市場の拡大が著しい地域です。
これら若い力を生かし持続的に経済発展するためには、人材育成やインフラ整備などが必要とされています。一方、世界の絶対的貧困人口の4分の1に及ぶ約1.5億人を抱えており※2、SDGsが目指す包摂的(誰一人取り残さない)かつ強靭で持続可能な社会づくりが求められています。
2022年の地域全体の経済成長率は6.1%※3と鈍化しました。ロシアによるウクライナ侵攻に起因する世界的な物価上昇の影響などを受け、各国で難しい経済運営が続いています。さらに気候変動による自然災害の影響も大きく受けています。特にパキスタンでは大規模な洪水により、甚大な被害が生じました。
包摂的で強靭な社会の構築を協力の中心に
こうした課題に対応できる包摂的で強靭な社会の構築に向け、JICAは積極的な協力を迅速に展開しています。
2022年度は、スリランカの経済危機を受けて、メイズ(トウモロコシ)種子の緊急調達を行い、同国の食料安全保障などに貢献しました。また、パキスタンの洪水に対応して緊急援助物資を供与したほか、被害状況や復興に必要な支援策に関する国際機関主導の分析に協力しました。地域全体でも、防災や植林といった気候変動対策を重視し協力を展開しました。さまざまな協力の手法を柔軟に組み合わせ、インフラ整備、投資環境整備、教育などの基礎生活分野の改善、地域の平和と安全の確保、域内・他地域との連結性強化、留学生受入やJICAチェアを通じた人材育成にも取り組みました。
今後、ジェンダー主流化やDXにもより積極的に取り組み、協力をさらに強化します。
また、アフガニスタンに関しては、2021年8月のタリバーンによるカブール制圧以降、日本政府の方針を踏まえ、国際機関などとの連携による幅広い人道ニーズに対する支援を継続・検討しています。
- ※1United Nations, “World Population Prospects 2022”の データを基に算出。
- ※2World Bank, “Poverty and Shared Prosperity 2022: Correcting Course”のデータを基に算出。
- ※3World Bank, “Global Economic Prospects, January 2023”
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