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地域を支え、地域に支えられて育んだローカルビジネスの可能性(杢谷沙知 職種:コミュニティ開発)

2024.12.19

アフリカ大陸の南部に位置するボツワナ共和国では、現在32名のJICA海外協力隊員が活動しています。そんな中、10月17日に2年の任期を満了して7名の隊員が帰国しました。
帰国直前に、ボツワナで過ごした日々について現役隊員からインタビューさせていただきました。
本記事では、コミュニティ開発隊員としてモホディツアネ・タマハ県庁に派遣された杢谷沙知さんのお話を紹介します。

杢谷さんの主な活動内容や、任期中に取り組んだことを教えてください。

モホディツアネ・タマハ県庁の地域開発課で活動しました。更に地域開発課の中で、日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、ホームエコノミクス(家政課)という部署でビジネス支援や地域連携をテーマに活動しました。

貧困根絶プロジェクトにおける小規模ビジネスの支援を主にやっていて、その中で大きく3つのプロジェクトを実施しました。「個別プロジェクト」「横断プロジェクト」「アウトソーシングプロジェクト」の3つです。
ボツワナ政府は小規模ビジネス起業家の支援をしているのですが、資金援助だけで支援が終わってしまっていて、援助を受けた起業家たちはビジネスのやり方、例えば資金管理や在庫管理のやり方も知らないまま廃業するケースが多いです。ですので、彼らにビジネスのやり方を教え、ローカルビジネスの活性化によって地域を盛り上げることを目標としていました。

「個別プロジェクト」は、生産者さん個人とマーケットの橋渡しを中心にした小規模ビジネス支援です。例えば、原価計算の方法を教えて継続的な生産ができるよう支援したり、ビジネスカードを作成して顧客を増やすなど、マーケティングスキルの向上を目指した取り組みが主でした。

「横断プロジェクト」は、モホディツアネにある12の村を横断した、地域の魅力発信プロジェクトです。一村一品のプロダクト生産を目指し、県庁の広報課と一緒に生産品や生産者のインタビュー動画を作成しました。新規顧客を獲得して地域内外の消費を促し、マーケットの活性化をすること、また生産者のモチベーションを向上することが狙いで、計20のプロジェクトを取り上げました。

「アウトソーシングプロジェクト」は、県庁の枠を飛び出して、新たに同僚と立ち上げたプロジェクトです。
ボツワナでは、マルーラという甘い実が名産です。マルーラを使ったオイルや食品を扱う小規模加工会社が地域にあったのですが、コロナ禍で事業が後退してしまいました。まずは会社に対し決算報告書の書き方を教えたり、女性起業家支援団体への登録支援を行いました。次にその企業の支援と、本来のターゲットである地域の貧困支援を結びつけられないかということで、県庁に登録されている仕事のない村の女性グループにマルーラの採取、簡単な加工を依頼することにしました。
結果、企業は生産性が向上し、地域に雇用が生まれ、県庁は貧困解消に向けたアクションがとれるという、三方よしのプロジェクトになったと思います。

いずれのプロジェクトも配属先や地域主体で継続することは難しく、思い描いたような成果は出せませんでしたが、お互いのアイデアを組み合わせ協働することで、仕事や生活の選択肢を増やすことができたのではないかと思います。


・派遣される前のキャリアについて教えてください。

製薬会社で生産管理や営業として働いていました。
生産管理では、コスト分析やマシンの効率化など。そして営業では市場分析や顧客分析、マーケティングをやっていました。

中学生のときに『13歳のハローワーク』という書籍でJICA海外協力隊が紹介されていて、それが協力隊との出会いでした。協力隊を知ってから、いつか行ってみたいという気持ちがあったんです。
大学は教育学部で国際理解教育を専攻しており、社会のことを知ってから行こうと思い民間へ就職しました。

・ボツワナで活動する上で大変だったこと、それを乗り越えたエピソードはありますか?

よく苦労したのは、現地スタッフとの目線合わせです。協力隊として派遣された以上は、目の前のことをやるだけではなく、彼らの未来のために活動したいという思いがありました。しかし自分の見ているゴールと、同僚の見ているゴールを一緒のものにすることに苦労しました。

ゴールを同じにするには、まず目先の仕事へマンパワーとして貢献して信頼関係を築くこと、そして感情のシェアが有効でした。私はこういう目標を抱いているけれど、到達できなくて、プロジェクトが進まなくて悲しい!悔しい!という強い感情を伝えたんです。
ボツワナ人は優しい人が多いので、みんな心配して集まってきてくれて、それをきっかけにプロジェクトが進むこともありました。

また、現地化にも苦労しました。これまでの経験を活動に活かしたいと思うのですが、それらを現地の文化にフィットさせるのが大変なんです。
コスト計算や生産計画を立てることは大切だよね、という前提条件もこちらでは通用しません。計画を立てる前に、まずやってみたいという気持ちが先行します。
なので、自分からすると失敗するとわかっていても、否定するのではなくまず一緒にやってみるようにしました。
アイデアは自分の中にたくさん出てくるのですが、仕事の進め方も捉え方も現地化して、現地の価値観に合わせていかないと物事がうまく進まないケースが多かったです。

・ボツワナに来てよかったと思う瞬間、出来事はありますか?

面白い人たちと暮らせたことですね。同僚や近所の人たちもそうですが、関わる人たち全員と自分の間に同じ価値観や文化を探すほうが難しいじゃないですか。
それを日常的に感じられるのがすごく楽しかったです。

また、自分のことを深く知れたというのもよかったことの一つです。ボツワナでは喜びや楽しさなどポジティブな面でも、怒りや悲しみなどネガティブな面でも自分の感情を揺さぶられることが多くて、新しい自分を知ることができました。
たとえマイナスな方向でも、感情が揺れているときは、感情が活動と真剣に向き合ってる証拠だなと思えました。

・これから協力隊に参加する隊員や応募を考える方へのメッセージ、アドバイスをお願いします!

知らない自分や世界に出会うことができる機会だと思います!
大変なことも多いですが、全部が最終的に必要なプロセスだったと思えるときが来ます。
少なくとも私はなりましたし、協力隊に参加してよかったと思っています。

応募したときの協力隊のコピーが「いつか世界を変える力になる」でした。
私は結果的に世界は変えられませんでしたが、確実に変わったのは自分と、手の届く範囲のボツワナ人たちだと思います。
私はボツワナ人から、人や物への愛の伝え方を学びました。また、お互いが2年間を通して それぞれの異文化を受け入れようとするようになったなと感じます。
協力隊事業を通して、このような経験とお互いへの理解が少しでも世界に増えていったらいいな、と思います。

インタビュー・文:藤井ゆきこ(ボツワナ派遣、マーケティング隊員)

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