柔道を通して若者たちに成長の機会と自信を与えたい(大島繁之 職種:柔道)
2025.02.24
帰国直前のJICA海外協力隊隊員へ、ボツワナでの日々を振り返ったインタビューを実施する本シリーズも開始から約10ヶ月が経ちました。今回は、柔道隊員としてモチュディにあるNGO、Stepping Stones Internationalへ派遣された大島 繁之さんを紹介します。柔道はボツワナでどのように知られているのでしょうか?
1.
大島さんの主な活動内容を教えてください。
Stepping Stones International(以下SSI)という、支援が必要な子どもや若者を対象に教育を提供するNGOで活動していました。ひとり親家庭や虐待、その他様々な事情で教育が不足している小学生から25歳までの幅広い層を対象としています。首都から2時間ほどのモチュディという村にある、フリースクール形式の通学施設が私の拠点でした。
SSIでは英語や数学などのエデュケーション科目と、道徳や家庭科、保健体育といったライフスキル科目の両方を教えています。
私はライフスキルのグループの中で、週4コマほど柔道を教えていました。幸運にもSSIにはボツワナ柔道連盟から派遣されたボツワナ人のコーチが1名おり、シニアコーチのような役割を務めました。
2年間の中で、生徒たちをボツワナの国内大会へ参加させたことに加え、ボツワナ柔道連盟から南アフリカで開催される国際大会に生徒を連れていかないかという誘いを受けました。生徒たちは授業の一環として週1回柔道をやるレベルではありましたが、その中でも頑張っている生徒2名と国際大会に参加しました。
年齢や体重別でカテゴリーが分かれているため対戦相手が少ない中ではありましたが、男子の選手が銅メダルをもらうことができました。ボツワナ代表の柔道選手としての成功体験を得ることが、本人にとってもいい経験になったのではないかと思います。
また、ボツワナ全体の柔道を盛り上げたいという思いもあり、首都ハボロネにあるボツワナ柔道連盟本部での練習にも積極的に参加していました。
2.
柔道という競技をボツワナの人々はどのように認知していますか?
ボツワナの人たちはまず柔道を知らないですね。1996年にボツワナ柔道連盟が設立されましたが、現状まだまだ普及していません。
空手の認知の方が高く、空手のクラブは多数あります。空手は格闘技と似ていますし、設備や道具がなくても取り組みやすいので普及したのではないでしょうか。
柔道は柔道着がないと掴んで投げる動作ができませんし、畳がないと投げられません。ボツワナに来て初めて、柔道が道具を必要とする競技であることを意識しました。
ですので、柔道について説明するときは、空手を知っていますか?という導入から入るようにしています。
SSIのスタッフいわく、柔道が情操教育的にも効果の高いスポーツであるという情報を得て、SSIで柔道の授業を取り入れることになったそうです。私も礼儀や相手を尊重する精神を重要視する柔道は、スポーツの中でも教育的に価値の高い競技だと思います。
私が赴任してからは、生徒たちが成功体験を得られる仕組みの一つである昇級試験を始めました。努力すると結果が得られる機会として、より一層生徒たちの成長に寄与してくれるのではないかと思います。
3.
ボツワナで活動する上で大変だったことや、その解決法などあれば教えてください。
物事の優先順位が違うと感じる場面が多々ありました。
私はあらゆることにおいて時間を軸に生きていますが、ボツワナの人たちはそのとき目の前にある物事を軸に生きている気がします。そのため、何時に出発するために準備する、という考え方が苦手なのかもしれません。
しかしこれは文化的な違いだと感じたので、途中から割り切って考えるようにしました。
物事に取り組むときに、時間を中心にスケジュールを決めるのではなくて、最終的に何を達成したいかを中心に考えるように変えました。
また、時間を管理してもらうというよりは、「柔道がうまくなりたいなら早くマットを敷いて、道着に着替えて練習を始めた方がいいよね?」と生徒たちへ語りかけるなど、何のために時間を意識するのかを考えてもらうようにしました。
一方で時たま急激に物事が進むタイミングがあるので、そこを絶対に逃さないようにすることも大切です。動くタイミングに合わせて、やりたいことを一気に進められるように下準備しておくようにしました。
4.
ボツワナに来てよかったと思う瞬間、出来事はありますか?
前述の内容と表裏一体ですが、日本のほうが多くの物事においてタイトだと思います。
ボツワナでの暮らしに慣れてみると、日本では常にミスをしないように気を張りながら過ごしていたと気づきました。
物事におおらかな文化は自分にとって新しい世界で、誰でもミスをするものだという考え方も新鮮でした。多少のミスや急な変更があってもいちいち怒る人がおらず、大きなトラブルにもならず社会が成立するというのは大きな発見でした。
そうして成立している世界を知ることができてよかったですし、救われたこともあります。
5.
これから協力隊に参加する隊員や応募を考える方へのメッセージ、アドバイスをお願いします!
活動は想定通りにはいかないものです。そんなとき、気落ちしてしまうのではなく、気持ちを新たにまた挑戦する気持ちが大切です。
現地に来てみて、理想通りにならなくても折れずに違うプランを考えてみてください。
2年間、現地の人たちと暮らすことは、旅行や短期滞在では決して味わえない貴重な経験になります。来て損はないと思います。ぜひチャレンジしてみてください。
インタビュー・文:藤井ゆきこ(ボツワナ派遣、マーケティング隊員)
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