定年後に広がる世界 ボツワナで見つけた新しい自分(竹内郁夫 職種:電子工学)
2025.11.25
帰国直前のJICA海外協力隊隊員へ、後輩隊員からボツワナでの日々についてインタビューを実施する本シリーズ。今回は電子工学隊員として、首都ハボロネのハボロネ技術短期大学へ派遣された竹内 郁夫さんにお話を伺います。
竹内さんの活動内容やボツワナでの生活について教えてください。
ハボロネ技術短期大学には、既に電気工学科がありますが、「電子工学科」コースを新設するため、より専門性の高い理論と実践の両方を教えられる経験者が欲しいという要請で派遣されました。
現状の学科は、電気工事士の人材育成といった職業訓練校に近く、新コースではメカトロニクス*を習得し、より複雑な電子制御の設計・開発ができる人材を育てたいということでした。特に、電子回路シミュレーション操作とその実験検証についての指導と評価を期待されていました。 *メカトロニクス:機械工学・電気電子工学・情報工学の知識を融合し、機械に複雑な動きをさせる技術
しかし、配属から半年後に新コースの開設延期が決定。しばらくは教えることができなくなったため、コースが開始された時に使える教材を作ったり、既存の電気工学科の授業をサポートしていました。また、電子回路シミュレーターをしばらく触っていなかったこともあり、改めて自分でも勉強し直しました。
活動以外では、音楽に触れる時間が長かったです。長年ギターを弾いているので、近所の子ども達にギターを教えたり、教会の日曜礼拝に参加したりしました。ボツワナの教会では序盤1時間ほどはバンドが演奏します。最初はアップテンポなゴスペル音楽から始まり、徐々に静かになって最終的に説教に入っていきます。礼拝は静かでハードルが高いものというイメージがあったので、みんなで踊って音楽を楽しんでから祈りに入る光景は新鮮で面白かったです。
今まで海外に滞在したのは出張のみで、長くても1ヶ月ほどですし、職場とホテルの往復が中心です。生活基盤となる各種手続きや自炊をして過ごす経験はなかったし、ましてやご近所付き合いもありません。それがアフリカという未知の土地ですから、さまざまな刺激やカルチャーショックがあり、とても楽しいものでした。
協力隊に参加されたきっかけを教えてください。
長年、事務機メーカーで複合機の設計・開発に携わってきました。55歳頃から「定年後をどう生きるか」を考え始めていましたが、再雇用制度で同じ仕事を続けることに正直モチベーションを保てる自信がありませんでした。そこで “新しいことに挑戦し、経験値を上げたい” と思うようになりました。
そんななか、電車の中吊り広告で協力隊の存在を知りました。高校からずっと地元で暮らしていたので、「ひとところで人生を終えるのではなく、別の土地でも暮らしてみたい」という思いが芽生え、定年後の選択肢の一つとして考えるようになりました。自分の経験を生かしながら海外に行く手段は他にもありますが、どうせなら “ちょっとやそっとでは帰れない場所に住んでみたい” という気持ちがあり、その点で協力隊は魅力的に思えたのです。
最終的に背中を押してくれたのは妻です。「子供も大きくなったし、一度きりの人生だから挑戦するなら今じゃない?」と言ってくれたことで「やらない後悔より、やって後悔するほうがいい」と思い、応募を決断しました。
ボツワナで活動する上で大変だったことや、日本との違いはありますか?
元々予定されていた技術短期大学のコースの開設が延期になり、違うカレッジで活動するという話が進みました。当初の予定とは違っても、別の場所で新しいことがやれると思い嬉しかったのですが、話を進めるなかで、中々前に進まない時間が続き苦労しました。文化や働き方の違い、連絡や調整に対する温度差から、コミュニケーションの難しさを強く感じました。
時間厳守、報連相、効率化といった行動は日本では当たり前ですが、彼らの当たり前ではありません。その違いを体感し理解できたことで、自分の視野が広がり、柔軟さや寛容さを培う機会にもなったと感じています。
ボツワナで最も印象に残ったことを教えてください。
私は毎日コンビ(ローカルバス)で通勤していたのですが、乗客同士が見知らぬ相手に対しても当たり前のようにあいさつし合う文化に強い衝撃を受けました。あいさつから世間話に発展し、しばらく話していることもありました。日本でも近所の人にはあいさつをしますが、通りすがりの見知らぬ人にはしないですよね。見ず知らずの、隣に座っただけの人にあいさつしたり世間話を当たり前のようにするというのはすごいことだと思います。こんな国が他にどれぐらいあるのだろうと思いました。戦争の歴史がないというボツワナの国の背景から来ていると思いますが、争いを嫌い、平和を好む国民性が現れていますよね。
これから協力隊に参加する隊員や応募を考える方へのメッセージ、アドバイスをお願いします!
もし、あなたが健康で、その一歩を踏み出せる環境があるなら、ぜひ“今”動いてみてください。健康は、当たり前なことではありませんし、海外旅行と海外で生活することは全くの別物です。だからこそ、その世界に身を置く体験は、自分の価値観を確実に広げてくれます。来週からと思うなら今週から、明後日からと思うなら明日から、始めてみてはいかがでしょうか。
インタビュー・文:藤井ゆきこ(ボツワナ派遣、マーケティング隊員)
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